表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

サロメの白昼夢 《1000字》

ずっと、ずっとほしいものがあった。それは私のものにならないことはわかっていた。でも、ほしかった。



「欲しかったものは手に入った?」



私の目の前で彼は嘲るように笑う。あるはずのない喉を震わせ。銀の皿の上で、彼の首は笑う。



「これで手に入ると思った?」



思った。思ったから、奪った。何も知らない彼に毒を盛った。彼の好きなコーヒーに混ぜて。あっけなく、動かなくなった。それから、彼は大きすぎるから、小さくした。いつでも一緒に居られるように。のこぎりで、首を落とした。体には石を詰めて、近くの池に沈めた。誰にも見つからないように。


「そんなに俺が憎かった?」


逆、私はずっと愛してた。なのに、秋には姉と結婚するというから。だから、取られる前に、手に入れた。

呵々、と笑うと皿の中の血が揺れた。生臭さが鼻につく。蝉が激しく鳴いた。

私と彼は逃げた。誰にも告げず、遠くへ、遠くへ。

私が持ち上げると、彼はぴたりと笑うのを止めた。ぽたり、ぽたりと血が滴る。体温はない。ぐにゃりとした肉の感触と共にすえた血の匂い、肉の腐る匂いむせ返るような刺激臭が部屋を埋め尽くした。



風鈴が鳴った。

涼しげなそれに目を覚ます。どうやら私は縁側で寝ていたらしい。蝉がけたたましく鳴き、桶に入っていたスイカはすでにぬるくなっていた。

随分と物騒な夢を見たものだ。


さしづめ、彼はヨハナーン、私はサロメの役回りだろう。ヨハナーンの首を望んだサロメは、生首に口づけを落とした。


ふと、机の上を見る。朽ちかけた笑う生首は、ない。当然だ。この炎天下そんなものが本当にあったらここら一帯、腐臭で大変な騒ぎになっているだろう。しっかり処理しなくては、美しさは保たれない。余計な肉を削ぎ、こびり付くものは虫に食わせる。それからしっかり磨く。


私はサロメじゃない。彼はヨハナーンじゃない。

ただ考えずにはいられない。私と彼女の望みは、果たして何だったのか。


むしむしとした部屋、鼓膜の奥で蝉の鳴き声が反響した。こめかみに浮かんでいた汗が頬を滑る。


そうだ、確かこんな暑い日だった。肌を伝う汗、響く蝉の鳴き声、夕立近く匂いたつ地面。

記憶を嘗めるように、私はひんやりとしたしゃれこうべを手に取った。


朱塗りの彼は、笑ったりしない。


嗚呼随分と、懐かしい夢を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ