その奴隷は、哀しいものでした。前編
こちら今までのと風味が少々異なります。
タグの注意事項が、ちょいグロから【まぁまぁグロ】に変わります。
それから【中二病】も加わります。
作者が全力で暴走した作品になります。
仕方ないなこいつ、と寛大に受け止めてくれる方のみお読みください。
長いので、2話になります。
様々な音が聞こえ、モリの言葉で思い出した。
ゲームをしていて、よく耳にした。
絵も好きで特にダークなものを好んで見てた時、そのモチーフにも使われていた。
その言葉を――……私は、今思い出した。
――その日の朝――
相変わらず、モリの膝の上。
一度ご褒美を逆転してから、ずっとこれ。
最初私が、モリの獣身を撫でまくって愛でるのがご褒美だったのに、モリの提案で逆にモリが私を愛でる方にしてから、ご褒美がこれになった。
朝起こしてあげたからご褒美。
ご飯取ってきたからご褒美。
盗賊や危険な魔物、虫から守ってあげたからご褒美。
とにかく、何につけてもご褒美ご褒美――……。
「……モリ」
「なぁに?優希」
「禿げる……」
「ん~?」
「禿・げ・る!朝から晩までグリグリグリグリと!私の頭は禿げる一歩手前よ!
それに狡い。モリばっかりで、私ここ3日毛皮に触ってない!狡い!」
「え~。あっちも良いけど、今はこっちが良い」
「やだ狡い!私にも何かさせて。それでご褒美に触らせて欲しい!そうだ。料理、ご飯作るよ。材料頂戴」
「……」
第三者が聞けば、料理作ってやるからセクハラさせろと言っているような変態発言だが、もふ欠乏症の私にはそんな事は思い至らない。
私の発言にモリが固まっている。
あれ?変態ぶりに引いたかな?
「優希は……」
「私が何?」
「命令しないの?」
「命令?」
おぉ!そうだ!確か、契約してたね。
「そういや、聞きたいんだけど、命令したら痛みとか苦しくなるとかあるの?」
「背けばね」
「やだよそんなの。じゃあ、命令じゃなくてお願いは?」
「お、ねがい?」
「そう。私がモリにお願い。断ってもいいけど、出来れば叶えてほしいもの」
「は、されたことないから分かんない……」
「そう」
「うん」
命令はされた事あって、お願いはされた事ないって、それって……。
気分が暗くなる。
「試しに断ってみる?」
なんで、痛い方試すんだ?!
「やだよ。じゃあ勝手にやるから、良かったらご褒美ちょうだ…あれ?これは命令になる?」
「ううん。ならないと思う」
よっしゃ!家事歴13年の腕前見せてやらぁ!
「「…………」」
なんて思ってた時もありましたよ。えぇ。
調味料、塩と砂糖しか無いんだもーん!
「何時もと同じ味だね」
「うっ」
「異世界料理食べられると思ったのになぁ」
「うぅっ」
もぎゅもぎゅと単なる肉の塩焼きを食べている二人。
「でも、美味しいね?」
「ううう~、チャンスを!もう一回作らせて!調味料揃えてから!お願い!」
「ん~…………やだ」
「うわ~ん!モリのけち~」
挽回のチャンスをもらえなかったショックで、きっちり肉を食べ終えた私は走り去ろうとする。
一歩踏み出した途端、腕を掴まれガックンとなる。
「毛玉触れなかった~」
「…………った」
「へ?」
「優希、痛くない」
「へ?何が?毛玉触れないショックで、私の心は痛いけど?」
「違うよ。優希のお願い断ったけど、痛くない」
「っあ?!試したの?馬鹿!痛くなったらどうしてたのよ?!」
「我慢する」
「お馬鹿!」
「ンフフ~。僕のご主人様可愛い」
「モリのツボが分からない。とにかく、そういうのはやめて。知らぬ間に痛い思いされてるのは、なんか嫌」
「ん~…やだ」
「おいこら」
「やだやだや~だ~、や~だ~よ~」
あれ?壊れた?
枝に突き刺さった肉を振りながら、やだやだ言いつつ笑顔でモリが踊る。凄い下手くそ。
見えない筈なのに何でも出来るモリの下手くそな踊りと、心底嬉しそうに身体全体で喜んでいるモリを見て、少しホッとして可笑しくなった。
「ふはっはは」
「優希?断られたのに笑うの?」
「だって、モリ、変な踊り。ぶっふふふ」
「ん~触らせない」
「あ、嘘うそ!斬新かつ目を引く踊りだった」
「ウフフ~僕も嘘」
「ん?」
「優希のお願い全部叶えてあげる!」
「う、うん?ありがとう?嫌なのは本当に、断る前に意思表示してよ?」
「フフン。獣身、何が良い?」
「モリ猫!」
「かしこまり~」
朝食後モリ猫を愛で、モリ犬(狼だけど)の背に乗り散歩して、ひんやりモリ蛇に座り昼食食べて、モリ虎と一緒に昼寝した。
「幸せ過ぎる」
「優希がヘンテコで嬉しい」
「普通よ。ヘンテコじゃない」
「ンフフ~」
夕飯は、やっぱりというかなんというか…人身のモリの膝の上で食べた。
枝に刺さった魚を食べてた時に頬ずりされて、鼻に刺さったから怒った。けど、爆笑してた。
懐く弟か甥がいたら、こんな感じかな?
「明日は、街に行こうねぇ」
「え?街?本当?」
「嬉しそう」
「そりゃ嬉しいよ!欲しいものいっぱいあるもの」
「ふ~ん」
表情は相変わらず顔半分隠れてて読めないけど、その微妙な声色に、私は気付かなかった。
人の街に来ました。結構あっさり。
私は、髪の色と目の色を変えて変装している。
人には黒色が居ないんだって!
色は私の希望通り、憧れの金髪!青い目!
……違和感半端ない。この配色は彫りの深いコーカソイドだから似合うんだなと悲しくなったよ。
所詮私は、平たい顔族の代表さ…。
どこで仕入れたのか、やや小綺麗な服を二人で着て街を歩いていると、キョロキョロしている私にモリが話しかける。
「ご主人様?何か購入したい物がございますか?」
「ぇえ?何キモい」
「キモ…ご主人様、私は奴隷の身でございます故」
「(あ、忘れてた)そ、そうであったの!わらわは、調味料が欲しいのでおじゃる」
「……」
あぁぁああー!子守りのバイトでおじ○る丸なんか見たから~!
モリの戸惑いが全身から伝わる!いたたまれない。
「そっそれでしたら、ご、案内、いたっ致します」
違う!笑ってやがる!
あっ!肝心なもの忘れてた!
「の、のぅ?モリや」
「は、ぐっ、はい?」
「わらわはのぅ、欲しいものを手に入れるのに必要な物を持っておらぬぞよ?」
「ぐふっひ、ひ、必要な物でございますか?」
「……金子でおじゃる」
こっそり言った途端、フォンと風が頬を撫でる。
周囲を見渡すと少し歪んで見え、モリが爆笑し始めた。
モリがよく私にかける防音と不可視の膜だと直ぐ分かる。
「ぶはっ!もう駄目~。くッハハハ!アハハハハハハッや、やめてよ~。何、おじゃるって?わらわとか、何それ、フフ、アハハハ!」
「煩いな!私の国の雅なお子様代表の、話し方なんだからね(嘘は言ってない)」
「お、おじゃ、おじゃ~それからキンスって、ここでは黄金蜥蜴の○玉だからっ!アハハハハハッ!」
「知らないよ!そんなの」
「黄金蜥蜴の金○じゃ、何も買えないよ~」
「知らなかったの!私の国ではお金って意味なの!」
「ごめんごめん。くっふゅ~、フーッふぅ~」
最早口から出る音は、言葉じゃない。
どれだけツボなんだ。全く。
「あ、そうだ。私お金持ってないの!日本のお金は使えないでしょう?」
「あぁ、あの精巧な小さな絵画?」
財布に入ってた野口2人樋口1人諭吉1人をあまりに感動するからモリにあげた。就職決まってちょっと奮発するのに下ろしたけど、使えないんじゃ意味ないし。
「勿体ない!絶対使わないよ。お金は大丈夫、僕そこそこ持ってるから。流石に国一つは買えないよ?」
「いらないよ!こんな盗賊ばっかりいるとこ」
「そうだねぇ…どこか住むとこ探さなきゃなぁ」
「ん?」
我々、基本野宿である。
火を焚いていると、光に寄る羽虫のように盗賊が現れる。うんざりするほど。
「では、お嬢様?ご所望の物を購入しに参りますか?」
「そ、そうでおじゃ」
「そうですね?」
「そ、そうだす」
噛んだね。雅な話し方は、難しい。
調味料を手に入れ、さて次は?となったので、服が欲しいと言ったら、目潰しするくらいキンキラキンのゴッテゴテの死んでも着ないようなダサい服屋に案内された。
「モリよ」
「はい?」
「嫌がらせかの?このようなダサ…洗練さの足らぬ魅力も全く感じぬ野暮ったい服が、このわらわに合うとでも?」
「え?でも、今一番の流行りの服屋でございます」
えぇ~?!こんな動きづらいダサい服着てんの?
何あの肩のところ、パフスリーブ強調し過ぎだろう?何か入れんの?財布?
あのスカート、何人隠れるんだよ?すっごい邪魔だし乳出し過ぎ!ちょっと引っ張ったらポロリじゃん!
「わらわは、このモリが用意した服が良い」
「……フフ、そうでございますか。嬉しゅうございます」
「うむ」
無事、普通のワンピースと男の子用のズボンとシャツをゲットし!パンツ無いから布と裁縫セット買って貰った。
皆ノーパンなの?冷えるじゃん!
「のぅ、モリや」
「はい?」
「このせかぃ…この国は不便じゃの」
「……それでも、ご主人様のお側に」
暗に、逃がさねぇぞと言われた気がした。
私だって、離れたら生きてける自信ゼロだよ。
「うむ。これからもお主と共にじゃ。宜しゅう頼むぞよ」
「っ!……はい」
詰まった言葉は笑いですか?
それとも他の事ですか?
その後、何故かアクセサリー屋さんに連れていかれ、金属アレルギーの私に嫌味かと思うほど、ギンギラゴテゴテのダサさが全面に押し出た首飾りを見せられ、モリを睨んでおいた。
よくテレビとかで、クレオパトラだのマリーアントワネットが所有していた飾りを見たけど、あれは綺麗だった。この国の人間、センス無いな。
それを言うと、モリは爆笑してた。
そうかいそうかい、笑うが良い。
供のものが、楽しそうで何よりでおじゃるよ!
一通りこの国のセンスの無さを披露された後、モリに小鳥が寄ってきた。
肩に止まりピーと鳴いたら消えた…消えた?!
凄い手品だ。
ちょっと興奮してモリに話しかけようとして止めた。初めて見るモリだった。
無差別に誰でも傷付けそうな。
盗賊相手だって、楽しそうにウキウキしながら相手していたのに、今は張り詰めた雰囲気。少しでも力を入れたら切れそうな。
声をかけられなかった。
「…………ふ~ん。僕を忘れたんだねぇ。頭の弱い奴等だな」
初めて見るモリは、とても怖かった。
お読み頂きありがとうございます。