その行為、アウトです。
――――ご主人様?ご命令を。
うっかり、ケモミミ常備の目玉取られた怪しいモリと奴隷の契約をしてしまった私は、毎日毎日毎日、この言葉を聞かされる。
曰く、早く殺したい人を見つけて。
曰く、召喚者を殺しにいこう!
曰く、街に行ったらご主人様、絶対拐われるからそいつを殺そう。
それもう、殺りたいだけじゃん……。
私、囮じゃん。
何だって、そんなに毎日殺りにいこうって言うの?と聞けば、一番得意な技を披露してこんなに使えるんだと知って欲しいと、言われる。
それも、へにょんと切ない雰囲気で言われ、何故かこちらの心が抉られる。
衣食住世話になってるこちらとしては、充分有り難い存在で、寧ろ私が依存してるし、居なくなられたら大変困ると思ってるよと、伝えているのに、まだまだ役に立てるんだよ?それには得意な事を披露するから……って、だから、それは披露すんな!
このモリは、私の世界で言うところの合成獣らしい。
人と獣人がいがみ合ってる世界で、ハーフなんて聞いて、種族を越えた愛なんだね!と言った私を殴りたい。本当に、殴りたい。
捕まえた獣人を薬漬けの強制発情期にさせ、人間の奴隷を襲わせる。そうして出来た子供は、人間に隷属させられ、強い戦力として戦わされる。
モリは、それのもっと酷い計画で、わざわざ一気に生ませようと、多胎児となるよう人間の体も細工して、複数の獣人に……。
本来、別個で生まれる筈だったのに、一人しか生まれなかった。でも、全ての獣人の特徴を持って生まれた。それが、モリ。
あんなに殺す殺す言ってるのが少しだけ分かった気がした。
泣きそうだったけど、我慢した。
あっけらかんと話すモリが、やけに胸をつくが我慢した。
私が泣くと、泣かないモリに何だか安い同情だと言われそうで泣きたくなかった。
その代わり、寝静まった夜にうぉんうぉん泣いたけど。
自我が生まれないよう、全て命令されてから行動させられた。食事も、眠ることすら。
そんな結構悲惨な過去のモリ。でも何故目玉取られて、魔物の森にいたのかは教えてくれない。
でも、さ。私には出来ることなど何もないのだよ。こちらも家に帰れないし、生きてきた全部無くしちゃったんだから。
だから、モリが自分で奴隷止めたいっていうまで付き合うことにしたんだ。私も、色々面倒見てもらわないと生きてけないし。
「そう思ったんだけど、やっぱり解約したい」
「ねぇねぇ、ご主人様?どれ殺れば良い?」
「殺んねぇよ!ウキウキすんな!」
今、盗賊のような人達が目の前で6人程倒れている。容赦がない。死んではいないのです、死んでは。でも、全員どこか足りなくなっていて、瀕死。
エグい光景を見て、そっと木の影でマーライオンになってきた私は心が瀕死。
「警察に引き渡そう!」
「けいさ、つ?」
「警備してる人?町の治安を守る人!」
「えー」
「頼むよ!ホントマジで!」
「仕方ないなぁ」
ブツブツ言いながら4人をギュッと纏め、馬ほどの大きさの犬、もとい狼に変わる。
纏めた4人を背に掛け、残り2人のロープをくわえ……それ、下の方の人大丈夫?死んじゃわない?
「じゃー行ってくる。ご主人様はここで一歩も動かないでね」
「お願いします」
真名が知られないようにと、人前ではご主人様と呼ぶことになった。
私の保護のためなんだろうけど、黒い鳥籠みたいなのに入れられモリを見送る。
「しかし、今の私、絵面的にかなりドン引く。一体この檻は誰の趣味で作られたのか。
防御魔法に何故この見た目を選んだんだ、モリよ。中2的な何かが発動しているとしか思えない」
ぶつくさ文句を言ってると、不意に後ろから陽気な、俺はヤッタゼ!と伝わるくらい元気な声がする。
「ただいま!!」
「モリ?!早くね?ちゃんと渡してきた?」
「うん。ちゃんと町の入り口に捨ててきた」
「何か違う」
「さぁ、優希どうぞ」
鳥籠の蓋を開け、手を差し伸べてくるので遠慮なく掴む。やっぱり、冷たい手。
「じゃあ、優希。ご褒美!」
「はいよ!」
出会った頃直ぐに、全ての獣姿を愛でたのが癖になったのか、何かと撫でられたがるモリ。
これは私にもご褒美!断る理由など無いわ~!
「優希、どれに触りたい?」
「ご褒美だから、モリが決めると良いよ」
「ん~、んと、猫!ぎゅっとして」
目隠ししたままだから、顔はよく分からないけどモリは、可愛くて怖くて冷たくて子供だ。
こういう時は可愛いのにな。戦ってる時は怖い。頼もしいとも言うけど。
白くて耳が濃い茶色のラグドールみたいな姿になる。ラグドールって、ぬいぐるみって意味らしいけど、本当にぬいぐるみみたいで最高に可愛い!
膝に乗せて撫でまくる。
ナデナデナデナ……ス~ハ~ス~ハ~……
はっ!いつの間にか、猫吸い状態!理性を失わせる魔性の姿だわ。
恐ろしい子。
猫吸いは、猫引っくり返してそのお腹に顔を埋め思う存分吸い捲る状態。昔飼ってた猫にやったら、容赦なく蹴られた。
「ご、ごめん。思わずまたやっちゃった」
「良いよ~もっとぎゅってして?気持ちいい」
尻尾パタンパタンさせ、肉球で額をテシテシしてくる。おっと涎が。
では遠慮なく。ぎゅ~~。ス~ハス~ハ。
「ウフフ。優希、温かくていい匂いがして、柔らかくて好き」
「モリの方がそうだよ。凄く癒される」
「普通は気持ち悪いんだよ?」
「ここの普通が私に通用すると思うな?」
「フフフ。計算が狂ったけど、これはこれで良いなぁ」
「何か言った?」
「ん~ん。何でもない」
私は、すっかり失念していたんだ。
モリは、成人男子で例え姿が変わっても、中身はモリ。自分で言っていたのに……。
私は、成人男子の腹に顔埋めて、ス~ハしてた変態行為をこの後嫌と言うほど思い知らされる。
自分がされる事によって。
「ねぇねぇ、僕もやりたい。撫で撫で!」
「……えっ?」
「良いでしょ?だめ?僕はやっぱり、奴隷だから駄目だよね…」
猫姿でへんにょりする姿を目にして、私は、混乱を極めた!
「あ、あぁー!い、いいよ!」
この時何故了承してしまったのか!
大後悔である。
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