解約方法を……いえ、やっぱり良いです。
(前の粗筋)
玄関開けたら、違う星にいました。
目玉取られた変態が、いつの間にか私の奴隷になりました。
「奴隷断固拒否!」
「もう、無理~。隷属の契約したもん」
「何それ?」
「隷属。ご主人様の奴隷になったの。魂までご主人様の物」
「なんでそんな事したのよ?!解約?解除は?」
「教えない」
「おいー!」
「困るものじゃないでしょ?離れないようにしただけだよ?」
「いやいやいや?そんなのしなくたって、私モリから離れたら即魔物のご飯だから!」
「じゃあ、良いじゃない。さて、ご主人様?ご命令を。眼はないけど、ちゃんと出来るから。捨てないでね?」
見えてない筈なのに、きっちり私の顔の前に近付き首を傾げて言う。その口元は、終始楽しそうに笑っている。
やだこの人、話通じない。
かといって、今私に出来ること何もない…。
取り合えず、今は…
「はぁ。綺麗な水あるとこは?」
「え?」
「綺麗な水!」
「かしこまりました。ご案内致します」
まるで執事のように慇懃に礼を取り、了承するモリ。
この人、絶対ふざけてる!
「じゃあ、はい」
「なに、して?」
「見えないでしょ?方角教えてくれれば行くから。暗いし、危ないからゆっくりだけど。手より肩に掴まった方が歩きやすい?」
モリの手を取り方角を聞くが、モリは固まったまま。
細く長い指の大きな手は以外にもさらりとしてたけど、やっぱり冷たかった。
「モリ?痛み出した?大丈夫?おんぶする?ここで待つ?」
「……ウフフフフ」
「こわっ!」
「酷いなぁ」
「いきなり固まって、笑い出したら怖いよ。歩ける?」
「はい。ご主人様」
「それやめて。優希ね」
「優希様」
「様無し」
見えない筈なのに、しっかり方角を指し示したモリの手を引きながら歩いていると、暗い森の中で、私だけ転びそうになりながら湖に辿り着く。
そのまま飲めると言われ、納得。とても綺麗でおいしい水だった。
転びそうになる度、モリが支えてくれたけど…見えてないんだよね?得体が知れなさすぎる。
「はい、じゃあモリ座って」
「うん。突き落とすの?」
「馬鹿!なんでそんな事しなきゃならないの…全く、思考回路がさっぱり理解出来ないよ」
「何するの?」
「拭くの」
そう言って、モリの目隠しに手をかけ包帯を外し、湖に浸し絞ったハンカチでモリの顔を拭く。
モリが目を開けると黒い空洞があり、その穴に言い知れぬ不安と痛々しさが伝わり、あまり直視出来なかった。
「…優希?」
「ん?時間経ってるからカピカピだよ」
「何してるの?」
大人しくされるがままだったモリが、心底不思議な声で聞いてくる。
「拭いてるの。血液はね、バイ菌…えっと良くないものが繁殖しやすいんだ。傷口が腐ったり熱が出たりするから消毒したいけど、薬とか持ってない…よね」
「……」
説明するが、何やら考え込んでいるみたい。
まぁ、私の視覚的に耐えられないというのもあるけど。
根気強く顔を拭い、私の白いブラウスの袖を必死で破り包帯代わりにモリの目に巻く。
今度は服だ。
「モリ、服脱いで。火の側ね」
「優希……異界人は、情熱的だね」
「代わりにこれ羽織って…って、情熱的?何が?
寒くない?大丈夫?」
「……ん、うん。うんそっか、そうだよね」
血だらけになった上の服を預かり、代わりに私の上着を肩に掛ける。
服くせっ!汚れ酷い!
落とせるだけでもと、もみ洗いをする。
ついでに頬ずりされて、頭にねっとり付いた血も湖に頭突っ込んで流す。
特に寒くなく暑くない。いい気候だ。
「さて、水だけじゃこんなもんか。モリ、傷は本当に大丈夫なの?何か…ここら辺薬草とか生えてない?」
「……」
「モリ?」
「……」
「寝た?なんて器用な寝方…」
体育座りで寝てるモリの腕を外し、横にする。
私も横に座り、焚き火の近くに木の枝2本立てて、モリの服を掛ける。
「さて、これからどうなるんだろ…」
不思議と不安や悲しさが無いのは、この星の人の協力者を得られたからかな?
変態だけど。
見たことない夜空。
見たことないケモミミ生えた変な人。
知らない世界。
まだ、現実味がないからか…。
「取り合えず、生きる方法と帰る方法を探す…そうだ、奴隷解除の【命令】をすればいんじゃないか!
あとは、やっぱり医者探して…。
魔物が出るって言ったけど、会わないな…そこも教えてもらわなきゃ……
宇宙船は無さそうだし。帰れないのかな…」
一人暮らしが長いと、独り言が半端ない。
お腹空いてきたし、眠るか!
「おやすみ、モリ」
私は、何も分かってなかった。
もう帰れない事も。
変態奴隷にずっと執着されることも。
全て手遅れなのも。
眠ったと思ったモリが起き、優希をじっと見ている。
半分だけ見える口元が、ニィとつり上がる。
「フフ。絶対離さないから、早めに諦めてね?優希」
優希の肩に掛かるほどのまだ濡れた髪を手に取り、口付ける。
シュワッと水分が飛んでいく。
「やっと見つけた。ご主人様」
優希はその夜、でっかいゴ○ブリホイホイにかかった夢を見た。
「うぅ…。捕まった…助け、て…」
目覚めると、青空!
キャンプしてたかな?
あ、そうか。人生初野宿だった。
少し、がっかりする。
身体を伸ばそうと手をあげると、もふっとしたものに触れる。
えっ?動物?昨日言ってた魔物?!食われる!
驚いて飛び退くと、馬より少し大きめの白い犬が私の枕になっていた。
「デカイ…デカイ犬だ」
「犬じゃないよ。貴女の奴隷モリだよ。おはよう優希」
確かに昨日聞いたモリの声が、犬から聞こえる。
裏付けるように、犬に両目は無い。
「モリ!?」
「なぁに?怖い?」
何故かしてやったりという雰囲気が伝わる。
「さ、ささ触らせて」
「え」
「ちょっとで良い。撫でさせて触らせて」
「へ、変態」
お前に言われたくないわ!ちょっともふっとしたものが好きなだけだ!
私の異様な雰囲気に、モリは後ずさる。
ちょ、逃げるな!
その後、やだぁ触らせてくれよ~!と駄々こねた私に恐る恐る近付いてきたモリを確保して、くんかくんか撫で撫でしている。
「あぁ。癒し。そうだよ、訳のわからない状況に追い込まれ心が疲弊してた私には、癒しが必要だったんだよ」
「優希?」
「ん~?」
「何で?」
何が?
大人しく触らせてくるモリは、理解不能と言った声音で固まったまま動かない。
さらさらの真っ白短毛。背中は少し固めの毛、それに反してお腹や首周りの毛は、ほわほわ…おっといけない涎が。
「何が~?」
「怖くないの?」
「中身、モリでしょう?意思疏通出来るわんこなんて、全人類の夢だよ?」
「変な優希。犬じゃないのに。ちなみに、猫と虎と蛇にもなれるよ?」
「……」
「優希、目が落ちそう。何でキラキラしてるの?あと涎」
もふりたい全てを網羅しているなんて!
興奮が止まらない。
「お、お願い!お願いします!全部触らせて!」
えらく戸惑った雰囲気で次々と姿を変えてくれ、私ははぁはぁしながら、ドン引きしているモリそっちのけで一通り愛でた。
「……幸せ」
ぐったりしているモリが、「計算が狂ったなぁ」なんて言ってたのは、聞こえなかった。
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