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モリの話。珍獣が愛しい。前

変態が常駐してますよ。






 優希。

 僕の優しい希望。

 (まれ)なる(やさ)しさを持つ(すぐ)れたるもの。

 ――――……貴女が、愛しい。


 僕の(のぞみ)をどこまでもどこまでも優しく包んでくれる貴女が、僕は、欲しい。

 僕は、(こいねが)う。貴女を強く。

 悪い獣は、乞い願う。どうか――――。



  * * * *


「……似合わない」

「そんな事ないよ。優希は、何でも似合う」


 幻術をかけた優希は、金の髪に青い目を希望してきた。ちょっと弄ってその通りにしたけど、お気に召さないようだ。可愛らしいのに。

 人間の中には黒は存在しないから、隠さなきゃいけない。本当の優希の(いろ)を知るのは僕だけでいい。


「似合う……モリは優しい……。黒がいないなんて、変な感じ」


 優しい……優しい? 僕は、とても心配だ。

 何故、そんなに信じやすいの?

 やっぱり、町になんて来るんじゃなかったな。


「さぁ、町に入ったら自分の名前を明かしちゃ駄目だよ? 絶対駄目だよ?」

「分かってるよ。昨日から、耳にタコが出来るくらい聞いている」

「僕は、とても優希が心配だから」

「私、ほぼ大人ですけど?!」

「そう言う所がまだ子供なんだよ?」

「何故信じないんだー!」


 う~ん。信じられないよ。こんなに小さくて、警戒心は皆無。興味を引くものには、本能のままに突っ込んで、歩く度に怪我をしそうな優希は、人間の子供と言うより獣の子に近いよ。

 獣の子の方がまだ警戒心があるか。

 早く大人になってね?

 僕が耐えられている間に。


「分かった。じゃあ、優希は大人だから町で気を付ける事分かってるよね? 復唱して?」

「あしらわれた、軽くあしらわれたよ!」

「早く」

「むぅ。モリから離れない。知らないものは食べない。名前は言わない。」

「もう一つ」

「知らない人にはついていかない!」

「例えどんなに美味しそうなものをあげると言われても、絶対ついていっちゃ駄目だよ?」

「モリの中の私ってどんだけ……そういや、モリはモリって読んで良いの?」

「ウフフ。僕には既にとっても大切な、大切な唯一のご主人様がいるからねぇ」

「へぇ~、どんな人?」

「…………」


 あれ? 契約解除してないよね? あれ?


「優希? 優希がご主人様だよね?」

「あ、そうか! いやほら、私の世界で周りにいなかったからさ! それにモリは奴隷と言うより、保護者みたい」

「……これは異なことを。ご主人様が常に私と言う奴隷と契約している事を覚えていて下さるように、毎日額づき、水浴びや着替えなど身の回りのお世話を全てさせて頂きましょうか? どんなに拒否されても」

「ゴ、ゴゴゴゴメンナサイ」


 全くもう。最初手伝おうとしたら拒否したのに、忘れるなんて。本当にお世話してあげようか。


「ごめんって! マジで怖い顔してるから! 絶対やだから!」

「ウフフフフ……」

「ひぃぃい!」

「さぁ、遊んでないで町に入りますよ。ご主人様」

「あそっ? 理不尽だ!」


 僕と優希を繋ぐ唯一の絆を忘れるなんて……あ? 僕はまた、縛りを支えにしているのか。

 でも、優希なら縛られていたい。貴女になら、血の契約でも良い。僕の全てを優希に。

 ……解除も忘れることも許さない。

 

 町に入ると優希は、目を輝かせてあちこちみている。フフ、キョロキョロしてる。可愛いなぁ。

 今日は、何でも好きなものを全て買おう。


「ご主人様? 何か購入したい物がございますか?」

「ぇえ? 何キモい」

「キモ……私は奴隷の身でございます故」

「そ、そうであったの! わらわは、調味料が欲しいのでおじゃる」

「……」


 おじゃ? おじゃるって言った?

 どこの言葉なの?! 誰の真似なの?!

 似合わな……いや、何故か似合う!


「そっそれでしたら、ご、案内、いたっ致します」

「の、のぅ? モリや」

「は、ぐっ、はい?」

「わらわはのぅ、欲しいものを手に入れるのに必要な物を持っておらぬぞよ?」


 一所懸命言葉を操る優希が、可愛くて可笑しくて面白くて!

 駄目だ、笑っちゃ駄目だぁ!


「ぐふっひ、ひ、必要な物でございますか?」

「……金子(きんす)でおじゃる」


 ○玉…………ぐふっ。

 身体が勝手に反応して消音と目眩ましの幕を張る。

 目立つのは、得策じゃない。

 

 あぁ、もうだめ。


「ぶはっ! もう駄目~。くッハハハ! アハハハハハハッや、やめてよ~。何、おじゃるって? わらわとか、何それ、フフ、アハハハ!」

「煩いな! 私の国の雅なお子様代表の、話し方なんだからね」


 雅な人達、絶対笑わせにきてるよね!


「お、おじゃ、おじゃ~それからキンスって、ここでは黄金蜥蜴の金○だからっ! アハハハハッ!」

「知らないよ! そんなの!」

「黄金蜥蜴の○玉じゃ、何も買えないよ~」

「知らなかったの! 私の国ではお金って意味なの!」

「ごめんごめん。くっふゅ~、フーッふぅ~」


 く、苦しい! 笑うのって苦しい!

 まさか金○出してくるとは。優希の世界は面白そうだなぁ。


 優希の世界のお金を使えるか聞いてきたけど、勿体ない! 上質で丈夫な紙に、精巧で綿密な絵画が裏と表にも滲むことなく描かれている。あれは、貴族の屋敷くらいなら買える価値がある。

 ジッと見ていたら、くれたけど。

 奴隷の持ち物だから僕にくれても、優希の物だと言われたのかと思ったけど、本当に、僕にくれた。

 

 故郷のものを見て、悲しげに大切に扱っていたのに、お世話になってるからって、簡単に僕にくれちゃうんだから。

そういう所がなぁ……。本当に、どうしようもなく奴隷を惹き付けるんだよ?


 お金の心配をしていたから、大丈夫だと伝える。


「流石に国一つは買えないよ?」


 今日は買えない。

 買うには、少し時間がかかるから。


「いらないよ! こんな盗賊ばっかりいるとこ」


 確かに。この国に住むなら、僕は王城を潰さなきゃな。面倒だし、優希は僕が抑えているから城では再召喚出来ないだろうし。

 でも、いつか、どこかで、優希と二人で。

 それはとても、甘美で魅惑的な最高の日々になりそうな。……本格的に探そうかなぁ。


「……どこか住むとこ探さなきゃなぁ」

「ん?」

「では、お嬢様? ご所望の物を購入しに参りますか?」

「そ、そうでおじゃ」

「そうですね?」

「そ、そうだす」

 

 あぁ可愛いなぁ。子供の優希には、辛い目に合わせてしまうから必死で抑えてたけど、襲ってしまいそう。……嫌われるから、止めておこう。


 調味料を買うということは、また料理をするのか。諦めてくれないかなぁ。本当に、ハラハラするんだもん。

 服が欲しいと言うので、流石に王族直属の仕立て屋にツテがないから無理だったけど、ここなら王族の親族や公爵家も利用するから良いものがあるだろう。

 何着てもらおうかなぁ……。

 優希に似合いそうなものを探していたら、優希の顔が驚いたまま固まってる。


「モリよ」

「はい?」

「嫌がらせかの? このようなダサ…洗練さの足らぬ魅力も全く感じぬ野暮ったい服が、このわらわに合うとでも?」

「え? でも、今一番の流行りの服屋でございます」


 ここでは駄目だった?

 どんなものなら良いんだろう?

 ミトは喜んでいたけど、優希は、違うの?

 王族直属の仕立て屋を拐うか……?

 何とか拐う方法を考えていたら、優希が不思議な事を言う。


「わらわは、このモリが用意した服が良い」

 

 優希が着ているのは、僕が布を買って縫ったものだったんだけど……いいの? それでいいの?

 本当に?! この華やかなドレスではなくて?

 ……嬉しい。僕、裁縫頑張る。

 優希曰く『夜なべ』する!


「……フフ、そうでございますか。嬉しゅうございます」

「うむ」


 でも、僕が作ったのを知って嫌がられるかもしれないから、似たような平民向けのお店に行った。

 しきりに、仕立屋にパンツ、パンツと言っていたけど、思うものはなかったみたい。

 僕に言ってくれれば、縫うのに。


「のぅ、モリや」

「はい?」

「このせかぃ……この国は不便じゃの」 


 パンツ無かったから?!

 それでも、どんなに嫌っても、逃がしてあげられない。帰してあげられないし、帰さない。


「……それでも、ご主人様のお側に」

「うむ。これからもお主と共にじゃ。宜しゅう頼むぞよ」

「っ! ……はい」


 どうしていつも、望む言葉をくれるの?


 服は、僕が縫うとしてせめて宝石は買ってあげたくて宝飾店へ連れていく。


「モリ……」

「どうかなさいましたか?」

「これが最先端の流行りなのかの?」

「え、ええ」


 渋い顔してる。

 優希が屈む様に手招きするので近付いてみる。


「この国のセンスは悪過ぎ! 何あのゴテゴテしたやつ! 肩凝るわ! ダサい! それに私肌が金属に弱いから、ブッツブツになるよ」

「ぶっ。センス悪、肩凝りって……それはいけませんね。出ましょう」

「うむ。モリのこの石で充分でおじゃる」


 僕は女性用の飾りや服に興味が無いから、好きなものを買おうと思ったけど、確かに優希が身に着けるには、大き過ぎるし野暮ったいかなぁ?

 僕の縫うものの方がよく似合う。ふふん。


 結局何も買ってあげられなかったけど、他に欲しいものはない、服と布だけで良いって言うし、優希は、ミトと違う。


 あと、優希? それ、魔石だからね? 装飾品じゃないから。

 しかも優希見張るための……後で、金属の付いてない大きな純度の高い宝石を贈ろうか。

 僕は、いつも優希に謝りたくなる。

 

 何を贈れば喜んでくれるかな?

 虫もドレスも装飾品もいらないなら……食べ物しか思い付かない……。

 優希に贈るものを考えていると、連絡用の鳥が僕に飛んでくる。対象以外には鳥の鳴き声しか聞こえないけど、僕にはその内容が聞こえる。

 ――……そうか。……またか。

 

「…………ふ~ん。僕を忘れたんだねぇ。頭の弱い奴等だな」


 優希がこちらを見てるのには、気付かなかった。


お読み頂きありがとうございます。

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