六件目
時刻はちょうど昼の十二時。俺と幽華は二人してカップ麺をすすっていた。
一応地縛霊である幽華は食わなくても生きられるのだが、彼女は食べることが好きらしくこうやって時々一緒に食べている。
「それにしても、最近は依頼が多いですね」
「だな。一時期に比べればだいぶ増えた」
普段なら、そこまで依頼というものは少ない。だが、妖怪というのは季節に影響されるものが少なくない。特に今は夏。妖怪のシーズンともいえる季節だ。
肝試しや、夏祭り。これでもかというぐらい妖怪たちの活躍の場が広げられているのだ。
ちなみに、俺も妖怪たちを斡旋したことがある。例えば、お化け屋敷や心霊スポットなど。行き場のない妖怪たちにはうってつけの場所を教えてやった。もちろん、無害な奴らばかりなので人間が傷つけられる心配はない。まぁ、たまにマナーの悪い客にはお仕置きをしているそうだが。
「それにしても、いいですよねぇ。人間は。熱い時に食べるラーメンの美味しさが、たまに懐かしくなる時がありますよ」
幽華は地縛霊である。つまり、元人間だ。
地縛霊というのは、死後人間が強い念を残した時に生まれる存在である。しかも、その場所からは離れることができない。短時間なら可能だが、それでも持って一時間ほどだ。それ以上を過ぎると、強制的にその場所へと戻される。
そして地縛霊は人間の時の感覚――熱さや寒さという概念から隔離される。幽霊だから、怪我も負わないし、死なない。消滅するとしたら、その念を解消した時だけだ。
さて、思えば俺と幽華について、まだ何も話していなかったな。
今日は、少しばかり幽華の話をしよう。幸いにも、今日は依頼が来る気配がない。
俺と彼女が出会ったのは、数年前だった。俺がここを買い取った時に、彼女が俺の目の前に現れたのだ。
その時俺は悟った。この事務所が何故格安だったのか。答えは単純。幽華が取りついていたからだ。霊感があってもなくても、幽霊というのは視認できる。きっと前の持ち主たちはそれが嫌だったのだろう。
だからこそ、俺がここに来た時の幽華の喜び様はすさまじかった。
それこそ昇天してしまいそうな勢いで、俺にすり寄ってきたのである。
しかも、俺の仕事が妖怪の事件解決にまつわるものだと知った時なんかはすごかった。謎の解決こそが、彼女の未練であったのだから。
しかし、おそらく彼女はまだ気づいていない。謎を解決すればするほど、死に近づくということに。未練がなくなればなくなるほど、消滅が早くなるということに。
彼女の消滅は、正直俺だって嫌だ。だが、それを止めることはできない。
それこそ――新たな未練を生み出すまでは。
さて、辛気臭い話になってきたから、今日はやめよう。
仕事も一旦切り上げだ。
おそらく、明日は依頼が舞い込んでくるだろうから早めに休んでおかなければ。