二十一件目
あの一件を経て、東北から帰ってきた俺は事務所で幽華と土産のホヤの干物を食べていた。案外ゲテモノが好きな幽華はそれを嬉しそうに食べている。
「それにしても、もう怪我はいいんですか?」
「ああ。一応治癒の術はかけてあるし、あと数日もすれば治るさ。それまでゆっくり療養するよ」
幽華はため息をつきながらも、
「いいですねぇ。怪我をするっていうのも。私はしばらくしていませんよ」
「そんなこと言うなよ。怪我なんてするもんじゃないだろう」
だが、幽華はフルフルと首を振った。
「ダメですね、楓さん。幽霊というのは案外つまらないものなんですよ? 一応この世には存在していますが、生の実感というのは薄いですし」
「とか言いつつお前は案外エンジョイしているだろうが」
「まぁ、そうですけどね」
肩を竦める幽華に、俺は苦笑を返す。
「ところで、幽霊ってどんな感じなんだ?」
「う~ん、そうですね……いつも夢見心地みたいな感じです。ふわふわして、ぷかぷかする感じだと思ってください」
ずいぶんアバウトな説明だが、大体わかった。
そこで、幽華はふと窓の方に目をやった。
「本当、懐かしいですよ。昔が……人間だった頃が」
「どうした? 何かあったか?」
けれど、幽華は首を振った。
「特に何でもないですよ。ただ、本当に昔を思い出しちゃっただけです」
「ならいいが。もし何かあったならちゃんと言えよ? 俺が何とかするから」
幽華はコロコロと笑いながら、目尻をこすった。
「楓さんって、何気に面倒見がいいですよね。こんな事務所を開いている立場からかもしれませんけど」
「あんまりいうと追い出すぞ?」
「そんなこと言うと呪いますよ?」
地縛霊のこいつが言うとマジで洒落にならない。俺はひょいと肩を竦めながら、椅子の背に体を預けた。
と、そこで俺はあることに気付く。
「幽華。ちょっと来てくれ」
「? 何ですか?」
ぷかぷかと浮かびながらこちらに歩み寄ってくる幽華。彼女が俺の間近まで迫ったところで、俺はポンと彼女の頭に手を置いた。
「な、何なんですかいきなり」
「悪かったな。心配かけて。大丈夫だ。俺はそう簡単に死なねえから」
そう告げた直後――彼女の目から大粒の涙がこぼれ始めた。そうして、彼女はわんわんと泣き始める。
「し、心配したんですよ……あんなこと初めてだったから、怖かったんですよ」
「悪かったって。本当にごめん」
彼女は大声をあげて泣き始める。俺はその頭を優しく、ただ優しく撫でてやることしかできなかった。




