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冒険者たち  作者: テリフ
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朝、集会場に着くと、いつものメンバーはすでに揃っていた。朝だというのに、周りは騒がしく、俺の仲間も例外ではない。大きめの丸テーブルを囲んで元気よく雑談に勤しんでいるのが見える。


俺の仲間は四人で、もちろん全員冒険者。仲間というのは、パーティーを組んでいるということだ。


最初は俺を含めて二人だったのが、一人、また一人と加わった。今の形になったのはちょうど一年くらい前のこと。


「おはよう」


四人に声をかけると、皆が俺の方を向き、口々に朝の挨拶を済ませる。雑談の邪魔をした気もするが、気心の知れた仲間に遠慮はいらないものだ。


「リーダー、今日は何する?」


挨拶を終えると、仲間の一人、リオンが口火を切る。ちなみに、リオンが言ったリーダーっていうのは、俺のことだ。


リーダーが一番最後に集合していいのかって? リーダー自体押しつけられたようなもんだから、そこまで文句言う奴がいたら代わりにやればいいと思うぞ。


「そうだな。何か意見のある奴いるか?」


「リーダーにお任せで!」


「はいはい」


「……私も同じ」


「おう」


いきなりだが、予定を決める時に、この二人、ファナとミルニアが意見を言うことはあまりない。前は遠慮しているのかと思っていたが、そんなことはなく、考えるのが面倒なのだそうだ。


ファナは明るく元気で、ミルニアはあまり喋らず静か。性格は全く違うが、パーティーにほぼ同時に入ったこともあって、二人は仲良しなのだ。


「はい、リーダー!」


「はいどうぞ」


「ドラゴン退治!」


「……またそれか」


「えぇー、いいじゃん。ドラゴン退治、行こうぜ! 今度こそ俺の一撃でぶっ倒してやる……!」


「今度こそって、一回も戦ってないぞ。それに、攻撃が当たる前にブレスで死ぬから駄目。それ以外では?」


「……お任せで」


逆に、無謀な意見ばかり言うのがトランだ。前はワイバーンだの何だのと言っていたのが最近ではドラゴンにご執心らしい。トランの出身地には、ドラゴンを単身で倒したというドラゴンスレイヤーがいるらしく、その人がトランの目標だとか。


「リーダー、どうしようか」


「ふぅ、またこのパターンか」


「まぁまぁ、いいじゃんか。これなんてどう?」


リーダーこそ俺だが、話し合いを主導しているのはだいたいリオンだ。リオンと俺がこのパーティーの最初のメンバーだから、付き合いはかなり長いことになる。


リオンは絶対にリーダー向きだと思うんだが、何度言っても聞き入れてくれない。最近ではもう言うのをやめた。


「ウェアウルフか。……距離的には問題ないな。皆は?」


「おっけー!」


「……ウェアウルフ。久しぶり」


「いいけど、次はドラゴンだからな!」


「……だそうだよ、リーダー」



「おう。それなら、各自準備を整えて三十分後にもう一回集合。いいな?」



「「「「了解!」」」」






朝の会議の後、再集合して、集会場にあるテレポート経由すると、午前中のうちには目的地に着いた。道中も安全そのもので、トランなんかは暇だ暇だとぼやいていた。


俺はというと、戦う回数が少ない方が安心できるビビリっぷりを発揮して、トランには悪いが、安全祈願をしていた。


今いるのは、ウェアウルフの住処である森である。そこそこ木々が生い茂り、場所によっては山に見えなくもない、大きな森だ。


目撃談はすでに幾つも出ているらしく、浅いところでエンカウントしそうだとリオンが言っていた。最近はこういうケースが増えている気がする。


リオンは長弓を、トランは大剣、ファナとミルニアはロッドとメイスをそれぞれ装備し、森を進む。俺は双剣だ。ついでに言うと、リオン、ファナ、ミルニアが女で、トランと俺は男である。


ファナとミルニアは二人とも魔法使いだが、ファナが火炎系を得意にしているのに対し、ミルニアは氷結系をよく使う。本当に正反対なんだな、といつも思う。


回復魔法は二人とも使えるため、他のパーティーからの勧誘も多いんだとか。


「リーダー、そろそろ警戒しなよ。いつ遭遇してもおかしくない」


「……分かった」


あんまり気を抜いていたつもりはないが、リオンに注意される。まったく、リーダーの威厳なんてあったものではない。


他のメンバーを見渡すと、なぜか(いや、理由は明確だが)皆俺の方を見て笑っていた。


不本意ながら、『リーダーしっかりして』と皆の目が語っているのがよく分かった。




そのまま和やかに進んでいると、先頭を行くリオンが足を止めた。それに続いて全員がその場に立ち止まる。


「まだ少し距離はあるけど、わりと近くにいる」


リオンは小声でそう言って、振り返ることなく手で合図を送る。それに応じて、俺を含めた四人が陣形を作りながら、木の陰に隠れ、いつ戦闘になってもいいように準備を始める。


ファナとミルニアは詠唱を始めた。リオンも軽々と木に登り、弓を手にする。剣士の出番はまだ先だが、心の準備だけはバッチリ整っている。


急に緊張感が増し、さっきまでの空気が嘘のように性質を変える。


程なく、ズシン、ズシンと何かの足音が響き始めた。音の大きさからして、今回のウェアウルフはかなり大きいらしい。


よし。自分にそう気合を入れて、軽く双剣に手を添える。


横にいるトランを見ると、同じく背中の大剣に手が伸びていた。


ウェアウルフの足音が大きくなってくる。


いつも通り、リオンが、合図代わりに、初手を撃つ。


それと同時に、赤と青のコントラストが美しい魔法が、森を駆け抜ける。


怪物のくぐもった咆哮が聞こえる。


行くぞ。トランには目で合図をし、三人に負けじと走り出した。








「今日もお疲れ様でしたぁー!! かんぱーい!」


「「「「かんぱーい!」」」」



街の酒場には、多くの人の声が響く。その中に、我らがパーティーの乾杯の音頭も吸い込まれていく。



「いやー今日も疲れた!」


「……ウェアウルフにしては強かったから」


「確かに強かったな。でも、ドラゴンに比べればこんなのまだまだだぜ」


「ドラゴンと比べないでよ」



今日の戦闘について話す皆の顔は、程よい疲れと、満足感に溢れていた。




俺たちは昼前に遭遇したウェアウルフの討伐に思いの外手こずり、終わってみればもう三時を過ぎていた。


昼を食べないままの長時間の戦闘は厳しかったようで、大食らいのファナなんかは戦闘が終わるとすぐにへたり込んでしまった。


とは言っても、誰かが深刻な怪我をしたわけでもない。諸々の仕事の後、遅めの昼食を食べて安全に帰ってくることができたのは良かった。


集会場で完了の報告をする頃には、すっかり日も傾き、夕飯がてら、皆で一杯、ということになった。


酒が入り始めるといつも酒に弱いメンバーに異変が起こるため、リーダーとしては後始末が思いやられるところだ。


飲み始めて少しすると、案の定、トランが机に倒れ込んだ。椅子からは落ちていないからまだマシか。この前は立ち飲みから床に倒れて、ついでに誰かに踏まれていた。


しかし、いくらトランといえどさすがに早すぎるんじゃないか。弱いと言っても、全く飲めないわけではないんだ。


そう思って、他のメンバーの行動に目をやると、ファナが皆のコップに酒を注ぎまくってることに気付く。自然な動作で、空いたら空いたら入れていく。空かなくても減ったら注いでいる。自分のコップも人のコップもお構いなしだ。


リオンはやたらと酒に強いから問題ないだろうが、トランとミルニア、それにファナ自身もそれ程強くないのだから、自重してほしいとは思う。


とりあえず、トランを楽な体勢で椅子にもたれさせ、ファナから酒を奪う。悲しそうな顔をされても、返しませんよ。


その二人が落ち着いたと思ったら、今度はミルニアだった。さっきまで静かに呑んでいたのに、急に俺に絡みんでくる。


「……リーダー、今日の私、どうだった?」


「どうって言われてもなぁ。いつも通り良かったよ」


「じゃあ褒めて」


「……!?」


「早く」


「はいはい。ミルニアはよく頑張った。山道もたくさん歩いた」


「他には?」


「魔法も抜群だったぞ」


「もっと」


「回復もタイミングよかったな。魔力もよく管理してた」


「……ふふん。私、すごい」


「ああ。すごいすごい」



こんな具合に、少し退行したかのように絡むミルニアはいつもとのギャップが凄い。今度からは、ちゃんと褒めてあげようと勝手に心に決めた。


ミルニアは、飲む度に性格が変わる。この前は年上のように振る舞っていたし、さらにその前は獣人みたいになっていた。本人には自覚がないらしい。あったらあったで大変だろうから、それでいいとは思うが。



ミルニアを褒め終わると、次はリオンが会話に入ってくる。



「今日のミルニアはギャップが凄いね」


「ああ。なんというか、新鮮だ」


「うんうん。妹がいたらこんな感じなのかな、なんて」



リオンはたまに、寂しそうにこんなことを言う。ファナとミルニアが妹みたいらしい。確かに二人は年下だし、そう見えるのは自然なのなもしれない。


しかし、そういう時のリオンはどことなく寂しそうな顔をするから、分かりたくなくても事情はなんとなく分かってしまう。



「……それは俺も思う。ま、どのみち縁のないことだけどな」


「そうだね」


「おう」



「……なんかごめんね」


「気にすんな。リオンが悪いわけじゃないんだからな」



そのまま少しポツポツと話すと、リオンは新しい酒を貰いに行った。まだ飲むのか、と声を掛けると、嬉しそうに、でもやはり少し悲しそうに頷いた。


リオンもたまには酔い潰れればいいと思うんだが、どうにも酒に強すぎる。もともとこのパーティーでも年上の方だから、こんな時ぐらい羽目を外せばいいのにな。



そうこうしているうちに、ファナとミルニアも重なるように潰れており、気付けば酒場も人がまばらになっていた。


会計を済ませて、女性二人の世話をリオンに頼み、俺はトランを担いで宿に戻る。多少手荒に扱っても、こいつが簡単には起きないのはもう百も承知だ。


外はほどよく肌寒く、火照った顔に風が気持ちいい。頭が少し冴えてくると、頭に浮かんでくるのは、ファナ、ミルニア、リオン、そして背中にいるトランことだった。


案外このパーティーのリーダーに向いてるのは俺なのかもしれない、と思ってしまうあたり、まだ酔いは覚めていないらしい。







翌朝、いつも通りの時間に集会場に向かうと、四人はすでに集まっていて、やっぱり俺が最後だった。



「おはよう」



いつも通りの挨拶に、



「おはよー!」


「……おはよう」


「おっす!」


「おはよう。リーダー、今日は何をする?」



いつも通りの返答。


今日も俺は思う。


こんなパーティーのリーダーができるなんて、幸せだ、と。

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