跳梁跋扈 現代っ子は逞しい
あけましておめでとうございます。
年末年始のデスマーチからのインフルエンザ……新年早々死にそうな目にあった所為か、いつにもましてひどい内容ですが、本年も宜しくお願い致します。
「で、どうするの?」
俺と手を組む事を決めてから、どことなく雰囲気が変わった彼女は単刀直入に切り込んできた。その積極的で、果断でどこか腕白な姿勢は『お姫様』という単語が似合わない。元々、それほどその単語に幻想を抱いてなどいなかった俺としては、むしろ嬉しい誤算だ。今は何より心癒される優しいお姫様より、果断で共に歩む『同志』の方が心強い……心の底からそう思う俺も結構現実主義的か。
もし、渋るようだったら利用するだけにしておこうと思ったが、これならば予定よりも踏み込んだ話をしても大丈夫だろう。
「会議に乗り込む……というのは既定路線だが、その前に一つ確認しておきたい。姫殿下」
「何?それと私の事は、ラシェルでいいと言ったはずよ」
「わかった、ラシェル。それでだ、俺達を呼び寄せる時に、ラシェルが使った術っていうのは、勇者召喚のそれで間違いないか?」
俺が問いかけると、彼女はうーん、と少し考え込むように首を捻った。
この反応は、ある意味予想通り、と言うべきだろうか。
「違うのか?」
「勇者召喚を狙ってはいたし、ベースとしたのは間違いないけど、大分手を加えているから、今冷静に考えてみると別物とも言いきれるわ。正直微妙な所ね。私、召喚術を勉強中なんだけど、その流れで勇者召喚の術式を参考に独自に術式を組み立てていたら―――って感じだし」
「へぇ……」
「試しに手を出してみたら結構奥が深いのよ、召喚術。本人の資質や術式の構成もさることながら、地場、時間、色んな影響を受けやすい上に、出た所勝負みたいな所があるからね。でね!でね!」
「わかったわかったっ!わかったから、そのこだわりは今度時間を設けてゆっくりと聞こう!」
「む……なによ。そっちから聞いてきたクセに」
「『ついでの話』で聞くにはもったいねぇっつってんだ」
物は言いよう。あるいは、普段から意味もなくディープ過ぎるオタクトークを聴かされてきた事が役に立ったのか、我ながら上手く丸めこむと、彼女もやや熱が冷めたのか「わかったわ」と素直に引いてくれた。
あ、危ない所だった……むしろ話の内容的には凄く興味があるんだが、いかんせん雑談に流れ込むほど余裕が無い。
教訓、教訓。そのテの人に、そのテの話題を振る時は十分気を付けましょう。
「でも、何でそんな事を……あ、」
「気が付いたか」
今更ながらの俺の問い掛けの意図が読み切れたのか、彼女はどこか悪戯小僧じみた笑顔を浮かべながら、合点が言ったように頷く。
俺達が今殺されそうになっている理由は『勇者召喚で召喚されたのに勇者がいなかったから』。その術式一つで各国と取引をしていたこの国としては、その根本を覆すような欠陥は見過ごすわけにいかないからだ。
そこで、もう一度根本を覆すとする。
『勇者召喚に似ている術式で召喚された者たち』が勇者じゃないとしても、それは殺されるに値する理由だろうか?
かなりファジーな領域の話だが、少なくともデメリットよりもメリットの方が多く生じるのではないかと思う。
疑いはされるだろうが、押しきる事は可能だ。
「成程、それで私を真っ先に囲みに来た訳ね。策士だわ」
「いや、ラシェルを拾ったのは偶然だから」
「でも、即座に利用しようとする姿勢は十分策士よ。それで、理屈はわかったわ。勝算は?」
「相手の賢さと友好度によるな。疑いはするだろうが、メリットの方が大きくなった以上、『そういう事にしておこう』という流れになるはずだ。それでも殺せという奴は……まあ、言ってしまえば敵だよな」
「敵って事は潰していいって事ね」
「いずれ、な。今は別に潰さずとも押しきれるだろうとは思う」
今は力が足りない以上、思いのほか好戦的なラシェルを押さえつつも、俺も半ば同意する。
ただ……いずれ必ずこの落とし前はつけさせてもらう。それだけは俺の中で確定済みだ。
正直、こんな回りくどい事せずに、殴り込みに行ってもいいと思うほど頭にキている。勝手に連れて来られて、勝手に殺されそうになって、頭に来ない方がおかしい。
だからこそ、努めて冷徹に振る舞うしかない。
臥薪嘗胆。心の奥底に刻み付けて感情のバランスをコントロールする。
「それで、いつ乗り込むの?」
「すぐには乗り込まない。会議中より意見が出揃った所―――議論で疲れた所を狙う」
かの悪名高いハーケンクロイツの独裁者は言った―――論敵は疲れている時間を狙って説得せよ、と。
駆け引きに汚いもくそもあるものか。こちとら命賭けてんだ。
「でも、それだと手遅れになるんじゃ無い?やっぱ、今すぐ―――」
「ラシェル。身体の調子はどうだ?」
「……………………」
本当ならば余計なリスクを背負ってまで搦め手から攻めずとも、今すぐ乗り込んでも十分に勝算はある。だが、迂闊に動けない理由もいくつかあるのだ。
未だに本調子ではない自分を顧みて、ラシェルは軽く唇を噛み締める。
「す、既に立って歩く程度の事なら出来るわ!」
「なら、気に食わない奴の横っ面を張り倒す程度になるまで我慢してろ」
「……穏やかじゃないわね」
「そりゃ穏やかな話じゃないからな。いいか?俺達は勇者召喚じゃ無い術式で連れてこられた。そして、召喚したラシェルがいない内に、第三者が勝手に勘違いして俺達を殺そうって話になっている。だから俺達は、それに対して『ふざけんじゃねぇ!』って乗り込もうとしているんだ。そこで、消耗した姿で抗議するのと、怒り心頭で怒鳴りつけるのとどっちが説得力があると思う?」
「それは……確かに、怒鳴りつけた方が筋が通りそうね」
言い変えてしまえば、ラシェルは今自分の持ち物を勝手に処分されかかっている様なものだ。怒鳴る必要性は無いと言えば無いんだけど、怒鳴ったとしても筋が通る。ならば、怒鳴った方が効果的だろう。
しかしまあ、自分で物に例えて言っておいて何だが、酷い境遇だ。
……これはぶち殺し確定ですわ。
「そういう事だ。それに、こっちにもすぐ動けない理由があってな」
猛るどす黒い感情を抑えつつ、俺はラシェルが座るベッドの近くに腰を下ろし、外の世界の様子が見る事が出来る窓を二つ浮かべた。
一つは仲間たちの軟禁されている部屋の様子。
もう一つは同じく城内だけど、どこか俺には見当もつかない適当な場所。今はそこそこ大きい回廊の様子が映し出されている。
急に映し出された光景に、ラシェルは訝しげに声を挙げた。
「……それで機会を窺うって事?そこまで計画を立てて置いて?」
「近いけど違うな。今から会議が行われているであろう場所を探すんだ」
「探す……?」
「ああ。じゃないと乗り込めないだろう?」
「あ、貴方、今まで全てを把握した上で話していた訳じゃないの……?」
「まさか」
確かに順番が逆だったような気もしないでもないが、会議の場所を探して偵察するより先にラシェルが眼を覚ましたからなぁ……今までのはあくまでも推測と話の流れで、今後の段取りを構築していたにすぎない。
ちなみに、当たり前の事だが、俺のこの現世と狭間を繋ぐ力は、『そこがどんな場所なのか』理解していないと繋ぐ事が出来ない。たとえばだが、ここからまったく知らない世界の裏側に繋ごうとしても無理なのだ。
まったく知らない場所に繋ぐには条件が二つ。
一つはそこに『知っている人』や『知っている物』がある事。先ほどジミーたちにすんなり合流できたのは、彼らがそこにいた事を感知できたからこそ、迷わずそこに繋ぐ事が出来た。
そしてもう一つは『この狭間から視認出来た場所』だ。これは地道に外の様子を窺って当たりを付けるしか無い。世界の裏側に繋ぎたければ世界の裏側の様子を窺ってから出ればいいだけの話なので、ひと手間が必要な程度の条件だ。
ただ、この繋ぎたい個所の検索が思いのほか手間だ。いかんせん、俺はまったくもって土地勘が無いし、たとえ見つけたとしても、そこが当たりなのかもわからない。
……自慢じゃないが、ついでのついでだ。言っておこう。水がかかると黒豚になってしまう某ライバルキャラほどじゃないが、俺は方向音痴だ。東京駅、新宿駅……そんな定番中の定番もあるし、家の中で迷子になった事もある。流石に家の中で迷子になったのは小さい時だけど、家族全員に死ぬほど笑われたな、アレは。
まさか世界の壁を跨いで彷徨うハメになるとは思いもしなかったけど……ああ、駄目だ。今はセンチメンタルな感情に浸る時じゃ無い。
「ん?どうした?ラシェル」
余計な事まで思い出して、沈みかけた心を何とか叩き直すと、何故かラシェルが衝撃を受けたような表情をしていた。思わず外の様子を窺って見るが、別段おかしい所は無い。バカ共は相変わらず思い思いに今後の方策を検討し、回廊は時折人が行き交うだけだ。
……知っている使用人のキスシーンでも見つけたのか?と思ったが、まあ、そっとしておこうか。
「ん?今のは……」
と、仲間の様子を映しているスクリーンの微かな動きが偶然眼に入った。
他の誰にもばれないようにこっそりと。だが、今のは……。
……ああ、そういえば、アイツは妖精遣いだったか。
「―――やってくれるぜ。流石、いい根性してるぜ、長流」
俺の視界が捉えたのは、小さな小さなキーホルダーの人形のような小さな存在。人の形のような、それでいて曖昧で眼を凝らさないとその存在にすら気が付かない「それ」から報告か何かにこっそりと耳を傾けるジミーの姿。
足掻いているのは俺だけじゃ無い、と安心した瞬間、何故かラシェルから飛んできた蹴りが俺の後頭部にクリティカルヒットした。まだ本調子じゃないから思ったより軽いけど、完全に不意を突かれた所為か目の前が軽くちかちかする。
「なにをする?!」
「身体が動くか試しただけよ!」
「だからって……ああ、そうか。王女が蹴りですか……そうですか、なるほど」
「な、なによ」
「いや、なに、この様子ならば予想よりも敵も多そうだなーって。もしかしなくても、普段はぼっ―――……いてっ!?」
「アンタ、憶測だけで見透かすようなこと言うのやめなさい!!」
ホント……なんなんだってんだ、畜生め。
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ジミーside
「やはり、彼らは始末するしかないのではないかな?」
何度目の堂々巡りなのだろうか。20名ほどのおっさんどもが、今俺たちが軟禁されている部屋の半分ほどのサイズの部屋で無意味な会談を行っている。
部屋の装飾はいたってシンプルで、明かりはそれほど多くない。ただ、長いテーブルを挟み、奥側の上座と思しき位置に、いまだ口を挟まず交わされる言葉に耳を傾けている王様。目を瞑っているため、その表情は読めないが、娘の行方不明、国家の一大事を前に、必死に個人的な感情を押し殺しているようにも見える。その王様の心情を借しているのか、王の左右に座る重鎮らしき者たちもあまり発言はしていない様に見える。
そんな中、再び口火を切ったのは、列の中盤に位置する50代後半ぐらいの肥った男。少なくとも俺が盗み見ている限りでは彼が排斥派の最右翼であると思われる。保守派層、といえば聞こえはいいが、その熱弁をふるう醜悪な容姿は、どう見ても既得権益が侵される事を危惧しているようにしか見えない。
スキルの構成をみるに、殺すのは惜しいという反論に対して、彼は言う。
「確かに、勇者でなくとも、使い道はいくらでもあるだろう。だが、だからこそ、殺すべきだと私は思うのだ!彼らが活躍すれば活躍するほど、その異端の力を奮うほど、セルヴズの召喚術式に欠陥があったのだ、と喧伝してしまう事になってしまうではないか!」
結論の置き所はともかく、彼らの立場に立って考えてみれば「一理ある」と思わなくもない。事実、彼のその言葉に、何人かが頷く姿も見られた。
だが、そこまで俺たちの利用価値を見出しておいて、なぜ誰もが「勇者召喚ではなかった事にしよう」という論法に持ってこれないのかが不思議でしょうがない。この人材登用への関心の低さが国力の無さにつながっているのではないだろうか。
もっとも、俺たちが命拾いしたとしても、そのうち俺たちがこの国に見切りをつけて裏切る可能性は十分ある訳だが。
居眠りしている人間がいないだけ、また、全員が真面目に意見を交わしているだけ、夕方のニュースで流れる国会の映像を見るよりも見応えはあるが、俎上にあがっている案件が、自分らの行く末を左右するのだから、あまり快い映像ともいえない。将来の年金問題うんぬんの話題なんかより、現実感は乏しいが、よっぽどスリルがある。
てっきり、どこぞのバカが乗り込んでいるんじゃないかと、心配して様子を見てみればこれだ。
一気に精神が削られた気がする。
俺はそこで、会議室に潜り込んでいる妖精とのリンクを待機状態にし、預けていた意識の半分を自分の下へと戻した。
……ぶっつけ本番だったが、なんとかなるものだ。
意識を本体に戻しても、状況は変わっていない。正面に座るナムさんやオヤビンは、何かを考える様に相変わらず黙りこくったまま。他の仲間も、俺のように積極的に新しい力の試行錯誤を繰り返し、情報を集めようとしている者や、それを頼りに推論をたてている者もいる。
さっきまでは、皆大人しくしていたが、こっそりと『理玖が何とかしようと動き回っている』と教えてからこんな感じだ。こういう時に音頭をとる理玖がいない所為か、行動はバラバラだが、意見の交換は怠っていない。
驚くべきタフさだが、ああ見えて各々が難関を突破し、目的の為に難題をブレイクスルーすることを宿命づけられた連中だ。理玖に煽られたからだという事を差し引いても、その逞しさが頼もしい。
と、感心している間もなく、次々と先ほど送り出した妖精たちが戻ってくる姿が目に入ってくる。
最初に話しかけられた時は何事かと思ったが、理玖という既に異世界ライフを謳歌している例を見たからか、常識外の力の行使にはそれほど抵抗が無かった。
人の形をした、めいめいの淡い色をした小さな彼らに頼んだことは三つ。
一つは逃走経路を含めたこの城の構造把握。
二つ目に、先ほどのような情報収集。
そして最後に、宮古理玖という災害のような親友の行方の捜索と、その監視。
今回戻ってきた、薄緑色をした体の妖精たちは確か三つ目のお願いだったはず。
俺以外には見えないようなのだが、彼らはこっそりと耳元で言う。
「城の外にも中にもいないねー」
「他の風の妖精たちにも頼んでみたけど、誰も見ていないっていうよー」
「……やっぱりか」
正直、逃走経路は既に当たりをつけている。状況もリアルタイムで伺っている。はっきり言えば、会議の結論が出る前に逃走を図ってみるべきなのだろうが……肝要肝心の理玖の出方がわからないんじゃ、どう動くべきか判断に悩むところだ。
普段ならば、他の奴ならば既に見切りをつけている。だが……。
「まったく、あの野郎は……わかった。続けて捜索してみてくれ」
「わかったー」
再び宛もなく飛んでいく姿を見ながら、もう一度「まったく」と毒づいてみる。思えば、小さい頃から「まったく」と毒づくのがクセになってしまった気がする。
それもこれも、あの理玖の所為だ。今回は一等酷い。
と、声に出した所為か、目の前の二人が目線で「どうだ?」と問いかけてきていた。この二人には既に妖精の件も含めて相談してある。
「ダメだ。理玖はまだ捕まらない」
「そっか……やっぱ、あの理玖ちゃんがいた変な亀裂の向こう側は、通常の方法じゃ認知できない領域なのかな」
「その可能性が高いな。問題はあのバカがいつ仕掛けるのか、って事だ。大体何をしでかすつもりなのかはおおよそだが、見当がつくんだが……」
「理玖ちゃんの性格的に、斜め上は行きそうだけどね」
なんとなくだが、ナムさんの予想と、俺とオヤビンの予想とズレがある様な気がするが、どちらにしてもその「斜め上」が曲者なんだ。気が付いたら、外堀が埋まってしまっていそうで……。
「一応、逃走経路は当たりを付けておいた。地図が無いから、俺が案内することになるだろうが……正直、そうなった場合は何人かは覚悟しておいた方がいいかもしれないな」
「でも、ジミー。正直、それは杞憂で終わるような気がするんだ……なんとなくだけど、逃げずに済みそう」
「同感だな」
根拠のない二人の意見だが、実は俺もそうなるんじゃないかって気がする。何故か、とは言わないが。
だけど、たとえ無駄になったとしても、備えておく事は悪いことでない。だから、ただ肩をすくめて苦笑いをするしかない。
「考えうる中で、それが必要になるって場合は……理玖が一人バックれた場合、だが、」
「それはないな。アイツ、内心結構頭にキていたみたいだし」
「え?そうだった?」
「ああ。アイツの怖いところは、マジ切れした時ほど冷静になる所だ。けど、普段は協調性を出す癖に、そういう時は一人になりたがるんだよな」
付き合いが高校に入ってからのナムさんは今一つわからなかったようだが、中学の頃からずっとつるんでいただけあってオヤビンは流石に読んでいる。その意見については完全に同意だ。
本来ならば、頭に血が昇って単独行動、なんて死亡フラグ以外の何物でもないが、何とかしてしまうのがあのバカの厄介な所だ。
もっとも、一人になりたがるのは、誰かに迷惑がかかるから、とかそんな殊勝な理由じゃなくて、誰にも邪魔されることなくケリを付けたいという、厄介極まりない闘争本能なのだが。
堂々と、頭にきた、って言えばいいのに。そのくせ、頭に来ているとはおくびにも出さないから更に性質が悪い。
まったく……頭の回転早いクセして、感情的になりやすい所はいい加減直してくれと言いたい。
……いや、無理か。理玖が激情家なのは血筋だ。
本人は自覚していない節があるが、アイツは戦前戦後を合わせると何世代にも渡り日本の政治のトップに立ってきた家の御曹司だ。俺たち世代は直接知らないが、アイツのじいさんも「大妖怪」と言われた保守系の大物政治家だった。俺も理玖と幼馴染だったから、よく小さい頃から一緒に可愛がってもらったものだが、さっきの理玖は彼と似た雰囲気を纏っていた。
理知的なのに感情的で、聡明なのに傲慢で、敵と認識した相手には、煉獄の如き容赦無い激情を向ける―――その清濁併せ呑む歴戦の古兵の姿勢はまさに化物じみていた。
ある時、本気で彼が怒った姿を見て、一国のトップに立つ人間とはこんな化け物なのかと、子供心に思った事を憶えている。
尖った個性が必要無い現代社会では異色―――時代が違えば独裁者としてなっていたであろう、強引な決断力と人を率いる引力。他人の為と叫びながら揮われる剛腕。異世界に飛ばされ、いよいよそのタガが外れてしまったのだろうか?
「……ヤバい。久しぶりに火消が間に合わない気がする」
「何!?急に不安になるようなこと言わないで!ジミー!」
「……あいつ、殴り込んでねぇだろうな?オレぁ、それが一番心配でよぉ
「あり得ないと言い切れないから困る」
「えっ?理玖ちゃんってそんなキャラだっけ?」
「「そんな奴」」
一人怯えるナムさんを置いて、俺とオヤビンはそっと頷き合う。
結局のところ、一番心配なのは身の安全ではなく、身近な人間の影響力の強さなのだ。
ジミーさんからひと言あるそうです。
「もうお前が魔王名乗れよ」
次で導入編終わらせたいです……。