道化師が笑う
「しかし、まいったな……」
勇者として求められながら、32名中勇者0という事実は相当な痛手だ。
しかも、ナムさんから聞いた所、32名中22名が非戦闘職っぽい。一番多いのは治癒系で何と総勢20名。
……半数以上なんですけど。
ま、まあ……進学校だし?医者志すヤツが多くて結構な事ですわ。
残りの非戦闘職は、ナムさんのように錬金術師/学者であったりと様々だ。少なくとも俺のようなバカっぽい職業の奴は……竜騎士/魔槍遣い(ランサー)の親分と、参謀将校/妖精遣い(フェアリーテイマー)のジミーぐらいだろうか。
……つーか、ジミーは異世界に来ても補佐役なのな。めちゃくちゃ堅実っぽい役割だけど。
親分は……確か、将来の夢が宇宙飛行士だったと思うんだけど、竜で宇宙っていけんのかな?ヤツならやりそうで怖い。
そして常に学力一位のナムさんは貫録の錬金術師/学者。彼にはぜひともこの世界にエレキギターを作りだして欲しいと願う。
その他、戦闘職は内訳を見る限り、10名中5名が斥候職が多く、前衛職は親分を筆頭に2名と圧倒的に少ない。魔術職も俺とジミーを含め3名。ただし、魔術職は非戦闘系がメインのメンツにもいるらしいが、あまり期待はしない方がいいだろう。
なんともまあ、偏った戦力だと思う
そもそも、たとえ勇者がいた所で、「勇者様、世界をお救い下さい!」と唐突に言われたって誰も首を縦に振らないと思うけど、相手の求める条件に該当しているのと、該当していないのでは相当待遇が違ってくるはずだ。
たとえ、このセルヴズが「勇者」というアイコンをそれほど必要していないとしても、切り札としての使い道などいくらでもある。
だが、その大前提である「勇者」がいないとしたら―――。
それがわかっているからこそ、直接セルヴズと折衝した三人は俺よりもショックを受けているのだろう。どうしたもんだろうか……眼に見えて黒いオーラを抱え、沈んだ様子のコイツらって初めて見るかも。
「なんか、異様に楽観視していないか?理玖」
「楽観、ってほどじゃねぇけど、深刻って程でもないだろ?ジミー。俺は少なくとも、勇者がいないからと言っても、いきなり全員路上生活って事だけはねぇと思うぜ?そもそも、向こう側だって何が何でも勇者が欲しいつってんじゃねぇんだし」
「……まあ、そうなんだけど、な」
どうやら、俺の知らない二番底があるらしく、歯切れの悪いジミーの声にナムさんがゆっくりと首を横に振った。
「通常ならば理玖ちゃんの言う通りなんだけどね。けど、この国には退けない理由があるらしいんだ」
「退けない理由?」
ああ、と一つ頷いて、神妙な表情の親分が話を繋げる。なんなの君たちのこの連携。
「どこから話すべきなのか……オレたちも、情報を纏めきれていないんだが、まず、このセルヴズって国は近隣国と比べると小さい。陸の交通の要所にあって、物流はいいらしいが、ハッキリ言って、戦争になったらイのイチに潰されるだろうって場所だ」
「……それが?」
「それなのに、何故この国が生き残っているかって理由の一つが、オレ達が今回巻き込まれた『勇者』を召喚するって術式。これを扱えるのが、この国の王族だけ―――それも、相当数の制約があるらしい」
「ああ、そういう……」
その後、ある程度詳しい内容を三人に聞いて見た所、彼らもそれほど詳しくは知らなかったが、その『制約』には、セルヴズという国家が存在していないと、満たせないものもあるそうだ。
その真偽のほどはともかく、異世界から人を呼ぶ事が出来るという事実は、外交、及び、防衛のカードとしては正しいのかもしれない。
親分の話を聞く限りでは、今は封印されている魔王も死んでいるという訳ではない。もしかしたら、目覚める事はないかもしれない。けど、目覚めるかもしれない、という状況下で対抗手段を残して置く事は国家間の利益とはまた別のレベルでの課題だ。
けど、その切り札も切り札として機能してこそ、初めて効果を発揮できる。
そこまで考えて俺も合点がいき、狭間のこちら側でひとり頷き返す。
「……成程な。今回セルヴズはこの『召喚』を行った。けど、召喚した人間の中に『勇者がいなかった』。それでも少しは使い道はあるんだろうが、セルヴズは自ら、虎の子が『勇者を召喚できない召喚』という価値が無い物だという事を証明してしまった。となると、考えられる方針は、」
「―――ボク達を隠密裏に始末して、全てを『無かった事』にする事」
冗談じゃねぇな。
あながちナムさんの言葉が間違いじゃなさそうな辺りが特に性質が悪い。
「今、そんな事でセルヴズ側が大慌てで会議を行っているらしいが、実際、そう言いだしている奴も少なくないだろうな。いつまでもこうして待たされていって事は、相当意見が割れているはずだ」
「まあまあ、親分。まだ、決まった訳じゃない。こちら側にも有利な要素がある」
「有利な要素?」
「ああ。さっき、ワカたちがそれと無く聞いてきた情報によると、今回の召喚は国の意志による物じゃ無く、一人の王女による独断で行われたらしい」
ジミーの告げた情報に、その情報の大本である少し離れた所で同じく何事か相談しているクラスメートの姿を確認し、俺は納得する。
いつもは、いかにも寝不足そうな暗い瞳をした表情には、心なしか焦りが生まれ、元々無頓着な身だしなみは更に乱れている。若原亜樹ことワカ―――いかにもネクラでオタクな雰囲気の彼だが、こと情報収集に至っては間違いなくクラス一のフットワークの軽さを持つ。
その頼りになる隠しきれない好奇心はインターネットというツールが無くなっても健在のようだ。
……間違いなく、アイツは斥候職だ。それか小児科か産婦人科か……。
いやいやいやいや、それよりも結構重要なワードが出て来たぞい。
「王女の……独断?」
「ワカがこっそりと立ち聞きしてきた話だっていうから、真偽のほどはわからないけどな。魔法の才能溢れる第二王女が召喚術を改良しようとして、結果暴走させてアラ大変。俺たちが召喚されて、王女は行方不明って話だ」
犯人はお前か、と俺は背後ですやすやと眠っているだろう少女の姿を思い出し、そっと溜息をつく。その可能性が高かったとはいえ、ここまでがっつりと犯人だとは思いもしなかったぜ。
だからといって、あの時の判断は絶対に後悔はしないけど。
「召喚術の改良中に暴走……これが日本にいる時ならば、なんのこっちゃですむ話なんだけどなぁ」
「だな。ゲームの話だと思うよなぁ……」
「完全に同感だと思うが、そのジミーの話が本当ならば確かにチャンスだ」
同じく初耳だったらしい親分とナムさんが現実逃避ぎみに苦笑する中、俺が確信気味に呟くと、ハッと息を呑む音が聴こえた。
「それでも、俺たちの首が繋がる確率は相当低いと思うぞ?もし、その話が本当だったとしても、王女の魔改造の責任、で終わらせるほど現実は甘くないと思う。たとえ、上手くいった所で、俺たちが不利な立場にいる事には変わりない」
「確かに俺でもそう思うぜ、長流」
あくまでも現実論を告げるジミーに対し、俺は真面目な口調で反論する。
確かに長流の―――ジミーの言っている事は正しい。人一人の責任にするにしては、あまりにも重大な案件だと思う。そして、この事件が王女の仕業、となった所で俺たちの状況が首の皮一枚繋がっただけで、何の解決にもなっていない。
身の安全を餌に、いいようにこき使われる所が関の山だろう。
だが、と俺は呟いて、他のみんなからは死角になる向きで狭間の世界の入口を広げて姿を現す。
見張りは……出入り口の外で待機しているだけだというのは確認済みだ。
「理玖……お前、」
「え……理玖ちゃん?」
「………………………………」
「悪いな、バレると困るから二人とも少し静かにしてくれ。ジミーは……そう睨むなよ。わかってるからさ」
あんぐりと口を開けて驚く親分とナムさん、そして、ジッと睨みつけるジミーに俺は狭間の向こうで逆さまに浮きながら笑いかける。
「混乱している所悪いんだが、ちょっとばかし、命―――預けちゃくれねぇか?道化師に不可能は無し、ってな」
我ながらヒーラーが多すぎて、主人公差し替えでタイトルを「俺たちヒーラーズ」に変更しようかと小一時間……。
理「やめて!」
ヒロイン「……あの、私の出番は、」
理「フライングすんな、寝てろ」
今回でヒロインと会話をする予定だったんですけど、上記の理由で延期となりました。