あとはトぶだけ
何と表現したらいいのだろうか。
クラスの仲が良いという事は結構な事なのだろうが、ちょっと頭を抱えてみたくなる。
昼休みに、集まって飯を食うのはいい。俺自身もにぎやかなのは嫌いじゃないし、排他的な性格でも無い。
ただ、クラス全員が一緒に飯を食っているという、この光景はある意味快挙ではないだろうか。
始まりは一人だ。授業が終わって、さ~飯だ、と弁当を出したら、いつも飯を一緒に食う事が多い連中が集まってきた。
そこまではいい。
それから、一人二人と徐々に加わって、ふと気が付くとクラスの全員が集まっていた。
……コイツら本当にバカなんじゃないだろうか。
いや、仲が悪いよりかは遥かに良いんだろうけどさ。
だが、暗い雰囲気のオタク系生徒から、(髪を金色に染め、秘かにピアスもしている俺が言える事ではないが)ヤンキーじみたガラの悪そうな連中まで和気藹々と談笑しながらメシを食べるという光景は凄くシュールだ。団結力がありすぎる。
話題はというと、流石に数が多いからか、近場同士でトピックスが違うようだが、次のテストの話題から、オタクどもによるオススメのアニメの布教。下ネタなどまちまちのようだ。
つーか、見るからにガラの悪い長身強面マッチョな親友が、恐っろしく人畜無害そうな秀才眼鏡にアニメのヒロインについて熱く語られているという光景もどうなのだろう……。
悪い事では無い。悪い事では無い。オーケー、落ち付こう。理由はある程度わかっている。
理由の一つが、俺達のクラスが特進クラスだという事だろうか。
ヤンキー共が一定数いるにもかかわらず、進学クラスだと!?と言われそうだが、残念だったな。俺も含めアイツらは「元」ヤンキーだ。喧嘩は日常だったあの頃、九九も怪しい奴もいたが、何故か一念発起して、進学校の特進クラスに入るまで成り上がりやがった。
何故知っているかと言うと、俺も同じ中学出身で、かつ、奴らの勉強の面倒を見たのは他でも無い俺だからなのだが。
と、まあ、全国の秀才連中涙目な事態は置いとくとして特進クラスという要素が、何故、団結力に繋がるというと、基本、このクラスはメンツが固定されるからだ。流石に特進にもかかわらず、頭の悪い成績を出した奴は入れ替えるのだが、そんな例外はともかく、基本このメンツで高校生活3年間を過ごすというのは、クラス替えのあるその他クラスより団結力が強いだろう。今はその二年目、お互いある程度クセも性格も理解し合っている段階だ。今更遠慮なんて言葉が出てくる訳が無い。
そしてもう一つの理由は―――……。
「……あれ?」
異様な光景を何とか呑み込もうと分析していた所、ふと襲ってきた浮遊感に、更に異様な事態に陥っていた事に気が付き、俺は声を挙げた。
俺の身体が浮いている。
否、俺の身体は自分の席で、相変わらずクラスメートたちに囲まれながら座っている。幽体離脱、という奴だろうか。慌てて周りを見渡してみたが、俺だけの現象のようだ。
―――冗談じゃねぇ。
がむしゃらに手を伸ばし、必死に身体に戻ろうと抵抗すると若干遅くなった気がしたが、それでも身体は徐々に上へ、上へと上がっていく。
そして、ついに天井に背中が付こうかという瞬間、先ほどまで何もなかった天井に現れた門に吸い込まれる直前、俺が見た光景は。
地上に遺してきた俺の身体が、まるで何も無かったかのように、クラスメートたちとの昼食を再開した姿だった。
気が付いたら主人公のひとり言だけで終わってしまいました。