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親友


夜、寮にて。




アズサが寝静まった後、コウはこっそり部屋を出た。


別にこの学校は就寝時間や消灯時間が決まっているわけではない。ので、夜、天体観測のために屋上へ赴く者は少なくはなかった。


コウもその一人である。コウは別段星が好きなわけではなかったが、興味がないわけでもない。コウにとっては、落ち着きたいときに、ボーっと眺めるものだった。


夜の屋上は昼とは比べ物にならないくらいに人口が多い。カップル、研究者、星好きの者・・・それらは多種多様だが、皆、星という存在を求めて来ているのには違いなかった。


コウは屋上への扉を開ける。すでにそこには沢山の人がいて、コウがキィ、と扉を開けても、そちらに注目する人はいなかった。三々五々人が来るのはいつものことだからだ。


コウが手近なスペースを見つけて寝転がる。そこから見える空間だけが、コウにとっての屋上だった。周りの喧騒など関係ない、自分の世界に入れる空間だ。


変わらず今日も瞬く星達に、コウは気持ちが落ち着くのを感じていた。


ふと、ポケットから黄ばんだ紙を取り出す。今では珍しい羊皮紙だ。


コウがその紙を読み上げる。もっとも、そこに書かれている文字は古代文字なので、解読しながらのたどたどしい読み方だったが。


「学がある者に、真実を、託す・・・。あの惑星、は___ここまでだな。まだ僕の力は足りないらしい・・・」


コウは、いつのまにやら隣に座っている人物に笑顔を向けた。隣の人物が口を開く。


「お前があいつが言ってたコウか。話は聞いてるぜ」


そう、横にいたのはテルキだった。コウは体を起こした。


「あなたがテルキ先輩ですね。いつもアズサがお世話になっているようで、ありがとうございます」


丁寧にお辞儀をするコウにテルキは苦笑する。


「おいおい、お前はあいつの父親か何かか?」

「双子、みたいなものだと思ってます」


そう柔らかに答えるコウに、テルキは、にっと笑う。


「そっか。あいつもいい友達をもったな、本当に」

「そんな・・・僕なんて、アズサの足を引っ張ってるだけですよ」


テルキは苦笑いするコウの肩をぽんと叩いた。


「おいおい、お前との約束があったからあいつは今も頑張れてるんじゃねぇか。お前がいなかったら、あいつのあんな覚悟を決めた顔は拝めなかったろうよ」

「そう、ですかね・・・」


コウはそう俯くが、心は落ち着いたようだった。数日前、手記の事で動揺していてアズサにそっけなく当たってしまった事を後悔していたのだ。だが、テルキの言葉にコウは、まだ自分はアズサの隣に立っていてもいいのかもしれないと思うことができた。


コウは一人頷く。


「そう、ですね・・・僕は僕なりに夢へ向かって歩んでいけば、アズサと対等に振舞う事ができるはず。僕も、アズサのようになれるかもしれない」

「なるほど・・・お前ら、本当に似てるな」

「え?似てるって?」

「あいつはあいつで、お前の事尊敬しているみたいだぞ。このまま頑張ればコウみたいになれるかもしれないって、さっきあいつとすれ違ったときに呟いてた」

「アズサが・・・?」


その言葉に、コウはアズサの姿を思い浮かべた。いつもいつも前向きで、自分にはできないことをやってのける。失敗を恐れない大胆さ、感情豊かな表情、どれもこれも自分には無いものだった。諦めたくなるときは落ち込める。そして、立ち直ったときは強靭な心を持って物事に取り組む_。時にはそれが疎ましく思うこともあった。しかし、それ以上に、アズサに憧れと尊敬の念を抱いていたのだ。


それが、アズサも同じだった___。


コウはそれが誇らしかった。今、誰よりも自分達の絆は強いと、胸を張って言えるだろう。互いに尊敬し、高めあっている自分達は無敵なのだと、倒錯めいた感覚さえ覚える。


コウは叫びだしたくなるのを必死に押さえ、テルキに言った。


「そうでしたか。どうやら僕は、今まで馬鹿みたいな心配をしていたようです」

「ああ、そうだな。親友の事を信用しないのは大馬鹿のやることだ。お前らは他人(ひと)の目から見ても、いいコンビだと思うぜ。自信を持てよ」

「ありがとうございます・・・!」


テルキは言いたい事を言い終わったようで、立ち上がる。


「それと、俺はさっきアズサに頼まれたんだ。お前の様子がおかしいから見てきてくれないかってな。何にも話してくれないからって随分心配してたぞ。あんまり親友に心配かけるなよ?笑顔でいけ、笑顔で。じゃあな」


テルキは最後、一気に言うとそのまますたすたと校舎の中へ入っていった。


コウはその後姿が消えるまで見つめ続けていた。心の中でテルキに、そして、アズサに感謝しながら。

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