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実力



夜、寮の部屋にて。


「アズサ、ちょっといいかな?」


いつものように勉強していたコウがアズサを呼ぶ。コウが勉強を中断して話しかけるなんて珍しいことだった。


「いいけど、なんだよ?」


アズサも読んでいた漫画をページを開いたまま裏返しにしてコウに向き直る。


「・・・昨日君が見た僕のファイルに黄ばんだ紙があったでしょ?」

「ああ、古代文字が書いてあったやつだな」


あの時は急いでいたし、よくわからなかったのでそこまで気には留めなかったが、ちゃんと覚えている。


「あれね・・・ラムス博士の手記なんだ」

「ラムス博士の手記・・・だって!?なんでそんなもんお前が・・・!」


シオウの手記は有名で教科書にも載っているが、ラムス博士の手記についての記載は全くなかったはずだ。そんなものが存在するのかすらわからないのだ。


「母さんから届いたんだ。家から、見つかったらしい」

「なんだっておまえんちからそんな重要なもんが見つかんだよ?」


コウは首を横に振る。


「わからないよ。僕も混乱しているんだ。ただ・・・これは先生には報告しない方がいい気がするんだ。だから、僕はこれからこの手記を解読することにする。もしかしたら、君が惑星に行ったときに何か役に立つことが記載されているかもしれないし。それに、僕の家からラムス博士の手記が発見されたのには何かとても重要な意味があると思うんだよ」

「そうか・・・。わかった。何かわかったら教えてくれ」

「もちろん。だから、君も頑張って早いところバッジを手に入れてくれよ」


そうコウは笑いながらまた勉強へ戻る。今コウがしているのは古代文字についてのものだった。


アズサは、夢は違えど、ひたむきにそこへ向かって突き進むコウがうらやましく思えた。


(ホント・・・迷ってばっかだな、俺は)


溜め息を吐きつつも、漫画を読むのを再開したアズサだった。




次の日。



授業も終わり、教科書を抱えながらアズサは一人歩いていた。


(にしても・・・バッジを誰から奪うかってことだよな・・・)


アズサは一人、思考にふけっていた。


(師匠やミモリ先輩は無いとして・・・あとはやっぱりトオヤって人かな・・・いや、どっちにしろ情報を集めないと・・・!)


ドンッ!


その瞬間、アズサに衝撃が走った。前から来た人とぶつかったのだ。


お互いに尻餅をつく。


「あいたたた・・・す、すみません!大丈夫ですか!?」



アズサはすぐにぶつかった相手の元へ駆け寄った。


相手は背は高く、ひょろっとした感じの青年だった。綺麗な紫色の目をたたえた、大人しそうな青年だった。


「あ・・・大丈夫だよ。こちらこそごめんね、ちょっとぼーっとしてたみたい」


青年は、ははは、と苦笑いした。とても好感が持てる青年だった。


相手の持っていた教科書が散らばっているのを確認すると、アズサはすぐさま拾う。


「あ~、わざわざごめんね」

「いや、ホント申し訳ないです。すぐ拾いますから」


その教科書を見ると、「2年 数学」と書かれていた。


(2年生だったんだ・・・)


背が高いからてっきり三年生とばっかり思っていた。


拾い上げて青年に渡すと、その青年はありがとう、と言って笑顔で受け取る。青年はまじまじとアズサの顔を見つめるとふと思い出したように言った。


「君は・・・確か1年生の、アズサ君・・・だったかな?」

「!!・・・なんで、俺の名前を?」


戸惑う俺に、青年はふふっと笑う。


「テルキ先輩のところに出入りしている子でしょう。彼の弟子だとか。僕もね、あの屋上によく行くんだ。君の頑張りはよく見てるよ」

「そ、そうだったんですか・・・」


そう答えながらも、アズサは不思議に思った。


(稽古の時、他に人なんていたっけ・・・?)


腑に落ちない顔をしていると、青年が見透かしたように言う。


「今、屋上に他に人なんていなかったはずだって思ったでしょ。僕って影薄いからさ~、いつも気づかれないんだよね~」

「そ、そんなことないですって!」

「いやいや、そんな気を使わなくていいよ。それにこの、能力といっても過言ではないほどの影の薄さ、僕意外と気に入ってんだよね」


ほら、と青年は襟元を見せる。そこには黄金に光るバッジがあった。


「バッジ保持者・・・!?」

「僕、喧嘩苦手だからさ。相手に音もなく忍び寄ってバッジを取るんだ」


青年は、たとえばさ、と指を立てる。


次の瞬間。


アズサの手の中から、アズサの持っていた一年生の天体の教科書が消えた。


はっとして、青年を見るとその手にはアズサの教科書があった。


「こうやって相手が気がつかないうちに物を奪うことだって造作もないんだよ」


アズサはしばし唖然としていた。これはもはや影が薄いというレベルではない。目を丸くしていると、青年がくすりと笑った。


「技術だよ。気配を消したりとか、どこかに気を取らせている間にとか、やる気になれば簡単だよ。僕の能力は喧嘩というより、諜報に役立つと思うんだ。喧嘩が強いだけが、あの惑星に行く方法じゃないんだよ?」


青年は教科書をアズサに返した。それを受け取りながら、なるほどな、とアズサは頷く。


「なんていうか・・・すごいですね」

「そんなことないよ。あ、そうそう、僕、心を読むのも得意なんだよ。そんな超能力みたいにすべてお見通しってわけじゃないけどね」


苦笑しながら言う青年に、そういえば、とアズサは言う。


「一応自己紹介しておきます。1年C組のアズサです」


ぺこり、とお辞儀をする。


「ご丁寧にどうも。僕は2年D組のキョウタって言うんだ。よろしくね」


(キョウタ。ミモリ先輩から狙うなっていわれた人だよな・・・)


先ほど、本人の口から喧嘩は弱いと聞いたばかりだ。確かに気配を消すことができるのはすごいが、真っ向勝負の喧嘩となれば別だ。本人も超能力ではないと言っているのだから、相手の策略にはまらなければ楽に勝てる筈である。


だが、油断は禁物。ひとまずキョウタに照準を絞るにしても、まずは情報集めが重要だ。それはミモリからのアドバイスだった。勝つためには敵を知れと。


「・・・よろしくお願いします、キョウタ先輩」


キョウタはニコッと笑うと、じゃあね、と手を振って手近な階段を下りていった。この人も温厚そうでひょろっとしていて、おおよそ争いとは無縁の人だろう、とアズサは先ほどのキョウタの姿を思い出しながら思う。


(あの人は、何を思って戦っているのだろうか・・・)


バッジ保持者の戦う理由をアズサは知りたくなった。もちろん、それを聞いたところでどうしたというものだ。別にそれで、前のように挫けることもしないと誓っているし、それを聞いたところで、バッジ争奪戦が有利になるわけでもない。


これはアズサ本人の興味だった。それほどまでに、良くも悪くも人を惹き付ける惑星ラムス。それが怨恨だろうと憧れだろうと、ここまでも人々を夢中にさせる存在に、アズサはより一層興味を持った。


そのためにも、アズサはバッジをいち早く手に入れたかった。


アズサは窓の外を眺める。雲ひとつ無い青空に、緑色をした惑星が一つ。


(待ってろよ。俺がお前の正体を暴いてやる!真実を、掴んでやる・・・!)


そうひと睨みしてアズサは教室へ急いだ。

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