戦う理由(わけ)
私には唯一無二の友がいた。名前をヒメコと言った。皆からヒメと呼ばれる人気者で、とても明るくて、優しくて、勉強ができて・・・
そしてとても、喧嘩が強い子だった。
「ヒメはさ、私と同じ高校行ったのってなんで?」
ある日、寮の部屋で疑問に思った私はそうヒメに問う。すると、ヒメは笑って答えた。
「別にミモリにあわせたわけじゃないよ?私は私の目的があるの」
「目的って・・・?」
ベッドに腰掛けていたヒメは立ち上がって、拳を握り締めて言った。
「私ね、もっと強くなりたいの。強くなって、強くなって、あの惑星ラムスを倒したい」
「惑星を倒す?殴ってぶっ壊すつもり?」
私の言葉にヒメは上品に笑う。
「違うわ。あそこには100年以上も前から宇宙人がいるんじゃないかって言われてるでしょ?その方々を懲らしめたいの。私の友達もそいつらの所為で悲しんだ子が多いでしょ。私が、なんとかしたいの」
そう無邪気に笑った。私はそんな笑顔が怖くて、そうね、とだけ返した。
私はぶっちゃけ言うと、バッジ争いにはそこまで魅力を感じなかった。ただ、昔から少年漫画に憧れてたからそういう熱い世界っていう点では興味があったけど。
とにかく、ヒメは入学して、まだ一年の頃からバッジ争いに積極的に参加していた。取ったり取られたり。あの頃の先輩は強い人が少なかったとはいえ、一年生の女子がバッジを持つことなんて前代未聞だった。
そして、結局ヒメは一年のうちにラムスへと旅立つ事が決まった。
「すごいね!ヒメ!一年生であの星行けちゃうんだよ!?」
「うん!嬉しい!私、頑張ってくるから!」
そうしてヒメは惑星へと向かった。一年間向こうで過ごし、今年の春頃、私の運命を変える大事件が起きた。
ある朝、けたたましいファンファーレが鳴り響き、その音で起床した。なんだなんだと外を見ると、そこには一台の宇宙船。それは、まさしく去年の元旦に出発した宇宙船だった。
ヒメが帰ってきたんだ!
私はすぐに身なりを整え、校庭へ向かった。
笑顔で手を振りながら降りてくる探索チーム。6人はしっかりと大地を踏みしめることができたことに安堵している様子だった。
降りてきたのは、6人。一人、足りなかった。そこに見知ったあの笑顔だけが見当たらなくて。
私は一人の探索チームメンバーに詰め寄った。
「ヒメは・・・どうしてヒメコがいないんですか!?」
先輩は困惑している様子だった。そして、言いにくそうに口を開いた。
「彼女は・・・ラムスで行方不明になった」
「!!」
私はその場に崩れ落ちた。今までの人生でこれほど絶望した事はあっただろうか。人目も気にせず声を上げて泣いた。そして、10分ほどそこにただろうか。周りを見渡すと誰もいなかった。授業はとっくに始まっている時間だったが、先生方が気を使ってくれていたのだろう。
顔を上げた私の心は決まっていた。そして、一つの希望があった。先輩は、ヒメが行方不明になったと言っていた。死んだとは一言も言っていない。だとしたら、やることは一つだ。
彼女を・・・ヒメを探しに行くと。
その日から私はバッジ争奪戦へ参加した。
「・・・ま、そういうわけなの。私がこの戦いに参加している理由は、親友を探しに行くためよ」
寂しそうに笑いながらミモリは静かに話し終えた。
「ご、ごめんなさい・・・こんな、軽々しく聞いちゃいけないですよね・・・先輩に嫌な事思い出させてしまって・・・」
アズサは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。その様子を見て、ミモリは苦笑する。
「いいの。それでね、今年から参加する事に決めたんだけど、ホントに大変でさ。男子ともマジ喧嘩しなきゃいけないし、バッジ保持者になったらなったでいつでもどこでも狙われて気が気じゃないし。まぁ、そりゃ惑星行ったらどこから敵が来るかわかんないんだから甘えた事言ってられないけどさ。改めて、ヒメの凄さを知ったわ。本当にこのバッジ争いは過酷よ」
ミモリはアズサの目をまっすぐ見て話した。アズサは真剣に頷く。ミモリはさてと、と立ち上がった。
「話し込んじゃったわね。最後に、私からアドバイス。私がこのバッジを手に入れることができたのは敵のことをよく調べたからよ。戦いに勝利するにはもちろん鍛えるのは必要だけど、しっかりと相手の事を理解するのが重要よ。他のバッジ所持者のことを関わりのある人物から調べてみたらいいんじゃないかしら。情報収集能力は惑星行ってからも役立つわ。それじゃ、バイバイ」
手を振って図書室から出て行くミモリにアズサはがたっと立って一礼した。
今日の話でミモリの印象が変わった。へらへらとしていて、つかみ所のない人物というイメージだったが、実は相当な覚悟を持ち合わせている人物だった。
(いや、当たり前か・・・)
彼女はバッジ争奪戦で生徒が標的にしようとしないような人物だ。そして、先程の話が本当なら、今年からバッジ争いに参加、すなわち、喧嘩に参加したにもかかわらず、バッジを保守し続けているのだ。その鍛錬は過酷なものだったであろうことは容易に想像がつく。相当な根性を持っている人間だろう。
「ホント、敵に回したら恐ろしい人だな、あの人は・・・」
夢を叶えるために、ミモリすら倒す覚悟だと言い放ったばかりだが、願わくば戦いたくないと思い始めるアズサなのであった。