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動機

放課後。この時間はバッジ争奪は可能だった。今のバッジの状況は7人とも上級生で占められている。


「三年の先輩のところだよな・・・」


今のところ、場所が分かっているのは、3年D組のミモリという女性の先輩のところと、3年A組のギンヤという男性の先輩だけだった。ところが、どちらも学校最強を争うほどの強さなのだ。この二人に挑むのは得策ではないし、ミモリはどうかはわからなかったが、少なくとも、ギンヤは手加減をしないと聞く。死なないにしても、全治4ヶ月ほどの怪我は負わされると思った方がいいだろう。なるべくなら関わりたくなかった。


「まずは情報収集か・・・」


アズサは人がひしめく廊下を歩き出した。


バッジを持っている者は必ずそれを身に着けなければいけないので、わかるのだが、一見すると分かりにくい。仕方ないので、多少の付き合いもあり、居場所が分かるミモリの所に行ってみようと考えるのだった。


ミモリは図書室にいる事が多かった。恐らく今もここにいるはずだ。


がらがらと戸を開ける。


「ミモリ先輩。いますかー?」


そういいながらきょろきょろと辺りを見回す。奥のテーブルに座って本を読んでいた女性がこちらを向いた。ミモリだった。


「あれ?アズサ君じゃない~。どうしたの?」


ミモリは読んでいた本を持って、アズサのところへ走りよってきた。ミモリはブロンドの髪を肩の辺りでウェーブさせていて、蒼い瞳が印象的だった。図書仲間として、アズサがこの高校に入学してすぐに知り合った先輩だった。もちろん、最初の出会いも図書室だったが。


「先輩、あの・・・頼みたいことがあって」

「かわいい後輩の頼みだもの。何でも言って!あ、でも、私のバッジ頂戴っていうのはナシね!」


笑顔で言うミモリだったが、警戒心は十分に感じ取れた。おそらく、バッジを狙ってくるやからも多いのだろう。


「わかってますよ。まぁ、そのバッジ争奪戦の話なんですけど、他に誰がバッジ持ってるか教えてもらえませんかね?」


そう言ったアズサだったが、その問いにミモリは少し考える。


「あー、そういうことね。いいんだけど、いらぬ恨みを買うのもやだしなぁ・・・」

「先輩から聞いたって事は言いませんよ。バッジ争奪戦は心理戦でもありますから、心配するのはわかりますけど、お願いします!」


アズサは頭を下げた。その様子に、ミモリは心を決めたようだった。


「わかったよ、アズサ君。その代わり、私からっていうのは絶対内緒ね?」

「ありがとうございます!」


アズサは頭を上げた。


ミモリから聞き出した情報はこうだ。ミモリとギンヤを抜かした5人は、今のところ、3年B組のセオリという女性と、3年C組のテルキという男性と、3年F組のカノンという女性と3年A組のトオヤという男性と、2年D組のキョウタという男性だった。


そして、警告されたのは、キョウタとカノンは狙うな、と言うことだった。


2年のキョウタもバカにならない強さらしい。また、カノンは未知数の相手だから大怪我して帰ってくることになるかもしれないとの事だった。


一通りの事を聞いたアズサは図書室を後にする。


戸を閉めて、一言呟いた。


「狙える人いねーじゃねーか・・・」





アズサは悩みに悩んだ挙句、3年C組のテルキという人物を狙う事にした。


女性を狙うのは男として抵抗があったのと、テルキという人物は自分と身長に差がないと聞いたからだった。


テルキがよくいる場所は屋上。誰かとたむろしているわけでなく、一人で空を見上げてるそうだ。


アズサは屋上へ大急ぎで向かう。



扉を開けると、そこには情報どおり、寝転がって空を見上げている生徒がいた。



「あんたがテルキ先輩?」


アズサが声をかけてみる。間違って襲い掛かったらまずい。


その生徒はその声にゆっくり体を起こして言った。スカイブルーの髪を綺麗に束ねている。


「そーだけど?お前誰だよ」

「俺は1年C組のアズサです。バッジを貰い受けに来ました」


その言葉を聞いて、テルキは明らかに小馬鹿にしたような目を向けた。


「けっ。一年坊主か。やめときな。まだまだ時間はあるんだ。3年生になった時のお楽しみにとっときな」

「俺は早くラムスに行きたいんだ!そんな悠長に待ってられるか!」


アズサが声を荒げる。テルキがよっこらしょ、と立ち上がる。


「ま、なんでそんな急かしてるのかは聞かねぇがよ。心配しなくてもあの惑星は、数年やそこらじゃなくなんねぇよ。ほれ、向こう見てみろよ」


屋上のフェンスの外を指さす。この屋上は遠くまで見渡せたが、何も見えない。


あるのは、緑の粘着質な物質だけ。いまや、世界の半分は緑の物質で埋め尽くされていた。最初は粘着質だが、固まると、穴を開けることもかなわず、どんどんそれに侵略されていったのだ。



「あれが出てきてから100年でここまで被害が広がった。別に宇宙人が攻めてきているわけじゃねぇが、こりゃ立派な侵略だ」

「だからこそ・・・焦っているんでしょう」


悔しそうに拳を握るアズサを横目で見やりながら、溜め息をつく。


「そりゃ皆同じだ。こんな状況になりながら焦らないやつなんていねぇって。だからこそ、この学校ができた。違うか?」

「そう、ですけど・・・」


まだ納得がいってない様子のアズサにテルキは言う。


「心配すんな。別にお前が行かなくとも、毎年優秀な7人が決まる。大怪我して時間を無駄にするより、1年の間は鍛錬を怠らないでおく方がいいと思うぞ」

「それでも・・・俺は・・・」


まだまだ諦めないアズサにテルキは眉をひそめる。


「お前、それ使命感じゃないだろ。恐らく、あの惑星に行きたがってるのは、半分・・・いや、それ以上が好奇心だ」


テルキは怒ったように言う。アズサは図星を疲れたように押し黙り、唇を噛んだ。


「そんなくだらない生半可な気持ちで誇り高いバッジ争いに参加するのは、やめてくれ。この戦いを汚すな」


厳しい口調で言ったテルキにアズサは食って掛かる。


「じゃああんたは!なんであの惑星に行きたいんだよ!」

「仇討ちだ」

「え・・・?」


仇討ち。そう答えたテルキにアズサはそれ以上の言葉を紡げないでいた。


「あの忌々しい緑の物体の下に、俺の家族はいる。潰されたんだよ・・・!」


テルキは屋上のフェンスを悔しそうに殴りつけた。がぁんと音がしてフェンスが揺れる。


「・・・お前の好奇心という動機が安っぽいとは言わない。だが、もっと覚悟を決めてから来い。それこそ、俺を殺すくらいの覚悟を決めないと、俺だけじゃない、他のバッジ保持者にも勝てねぇぞ」

「俺は・・・っ」


俯くアズサにテルキは溜め息を一つ吐いた。


「別に、挑むのは悪いことじゃない。一度しか挑んじゃいけないってわけでもないしな。なんなら、今やってみるか?」


その言葉に、アズサは静かに頷いた。


アズサにとって初めてのバッジ争奪戦だった。


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