惑星ラムス
僕らが住んでいる地球は今日も青い。それは、周知の事実だ。太陽系には、おおよそ人が住めないような惑星がたくさんある。しかし、もしかしたら住めるようになるかもしれないとも言われている。それはすべて科学の力だ。元を正せば、人間の力だ。
そう。科学とは人間の力。
そう、思っていた__。
2100年。春。僕らの住んでいる地球は今日も青い。この青い地球で毎日を暮らしている。太陽の光をいっぱい浴びて、今日も研究所に出勤する。
僕はシオウ。研究者だ。今日から日記をつけることにする。さしあたって、初回は僕の事について述べておこうと思う。僕は、今年から天体についての研究をしている。昔から、星だのなんだのが大好きで、この道に進む事を決めた。昔からエリートと呼ばれていた僕も、研究所へ入ってみると、レベルの高い者ばかりで、驚きを隠せない。落ちこぼれないように毎日が必死だ。今日も新たな発見を目指して頑張るぞ。
2101年。夏。今日、研究所に新たな仲間が入ってきた。ラムスというらしい。話を聞くと、彼も星が大好きでこの道を志したらしい。案の定僕たちは意気投合した。僕の夢は、いつか宇宙に自由に行き来できるようになることだが、ラムスは違った。彼は、誰も発見した事のない惑星を発見するというものだった。夢は違えど、同じ道を志すもの同士、互いに激励しあった。毎日が楽しくなりそうだ。
2103年。冬。僕よりも先にラムスが夢を叶えた。太陽系を遠く離れたところに、未確認の惑星を見つけたのだ。ラムスは今日から張り込みでその惑星の動向を探るらしい。ラムスに先を越されたが、俺も頑張らなければ。
2103年。冬。惑星がどんどん近づいてくる。何だあれは。ラムスも首をかしげている。ただ、一定の距離に近づくと、それ以上は近づいてこなかった。
なんなんだ、あの惑星は。
2104年。春。例の惑星はまるで地球に張り付いているように同じ周期で回っている。肉眼で確認できるほどのそれは、どうやら、地球型惑星のようで、大きさは月と同じくらいだろうか。緑一色で染まっている惑星。はたして、苔で覆われているのだろうか、それとも大地の色が緑なのだろうか。気味が悪い。だが、例の惑星は、発見者であるラムスの名がついた。同志としてこれほどうれしい事はない。惑星ラムス。僕はこの名が誇らしかった。
2104年。夏。惑星ラムスには宇宙人がいるかもしれない。なぜそんなことを言い出したのかというと、今日、惑星ラムスから謎の緑の物体が地球に向けて放出されたのだ。粘着性のあるそれは、人里には当たらなかったものの、森林に放出され、一帯が緑の粘着質のそれに押しつぶされた。広大な森林が一瞬にして開けてしまった。私は、その放出された物質とあの惑星の地表はイコールで結べると踏んでいる。まだ仮定段階ではあるがな。とにかく、あの惑星の謎は深まるばかりだ。
2105年。秋。あれから僕は日記をつけるのを忘れていた。というのも、惑星が明らかに敵対行動をとってきたから、研究所は大忙しだったのだ。もう、何回徹夜したか覚えていない。明日から惑星対策本部詰めだ。場所は変わるが、あの惑星に携わる事ができて、よかった。科学者の血が疼く。プライドにかけてあの惑星の正体を暴くつもりだ。ラムスは先日実際にあの惑星に旅立っていった。現地で調査を続けるのだという。私はこの日記を惑星の正体を暴くまで、書かないつもりだ。これは自分へのけじめでもある。われらの平穏を、取り戻すのだ。
「・・・はい。これが、かの有名なシオウ博士の手記です。これは、あなた達は知っていなければならない事よ。あの惑星に対抗する手がかりになるかもしれませんからね」
教卓の前に立ち、授業を続ける教師が手に持っているものは、100年程前に惑星を発見した、ラムス博士の同志であったシオウ博士の手記だったという。事細かに日常がつづられている手記の中で、特に覚えなければならない部分を抜粋して教えられる。
その授業を受ける者の中に眠そうにあくびをしている男子生徒が居た。名をアズサと言った。一見、女子のような名前だが、れっきとした男子である。
この学校は惑星ラムスの脅威に対抗するための人間を育てる学校だ。人類は、惑星ラムスの侵略により、各国は国という統率を取れなくなった。そこで、生き残った人類を集めて太平洋のど真ん中に大きな人工島を作って一つの国とした。そこであの惑星に対抗する術を模索しているのだ。アズサも自分からこの学校へ入った。高校生に入学資格があるこの学校で、入ったばかりの一年生である。
毎年、選ばれし7人が惑星へ向かう。一年間むこうで過ごすのだ。しかし、今まで誰一人として良い成果をあげたものはいなかった。帰ってくる知らせは、進展なし。これ以外が帰ってきたことは無かった。
その選ばれし者を決める方法はいたって簡単だ。バッジを奪い取る。ただそれだけだ。12月24日の時点でバッジを持ってた者がその年に惑星へ向かう。これは、惑星で交戦状態になることを想定し、より強い者を送るためだ。相手を殺さなければ、不意打ちだろうがなんだろうが、構わない。ただし、ルールが一つ。授業時間はバッジの奪い合いはできない。それさえ守れば問題ないサバイバルだった。
そんな危険な生活を強いられる、この学校を目指した生徒は何を思い、どんな目的があるのか。それは、十人十色だ。
それが、この学校および、惑星の現状だった。
「アズサー、授業聞いてた?」
休み時間に親友のコウが話しかけてきた。コウはアズサとは反対で、優等生オーラを醸し出している。制服のブレザーのボタンをしっかり留めて、ネクタイをきっちり締め、一分一秒も遅刻を許さないというような完璧主義の雰囲気を醸し出していた。
「んー、5分くらいなら・・・」
「そういうのを、世間では聞いてないっていうんだよ?」
苦笑しながらコウはアズサの隣の席に座る。手には何冊かの教科書を持っていた。次の時間の物だ。
「次はー・・・天体か。まぁまぁ好きなやつだな」
「まぁまぁっていうか、凄い好きなんじゃない?天体だけだよね、ちゃんとぶっとおしで授業聞いてるの」
「うるせーよ・・・。余計なお世話だ」
そう返しながらも目は先ほどの歴史の授業のときには見られなかった輝きに満ちていて、声はどこか嬉々としていた。長い付き合いである二人はお互いの事をよく理解していたのだ。
アズサは運動に長けており、コウは勉学に長けている。アズサが勉強で好きな教科は天体で、コウが好きなも教科は歴史だった。
アズサは面倒くさがりやだが、天体の事、特にあの惑星の事になると、なぜだか熱くなる。
コウは落ち着いていて、冷静な行動ができて、女子にモテる。しかし、女性に告白されても、紳士に断っていた。
一見アズサもコウも正反対の性格だが、お互いに相性はいいらしい。小学生から高校生になる今まで、いつも二人でつるんでいた。
コウは次の授業の予習をしていた。アズサはコウに向かって問う。
「なあ。コウはさ、惑星ラムスに興味ないのか?」
「なぜそう思うの?」
コウは手を止めて、アズサを見た。コウはバッジ争いに参加しない主義だと、アズサに話したことがあった。アズサは早くバッジをゲットして惑星へ出発したい人間だったので、コウの考えに疑問を持ったのだ。
「お前、バッジに興味ないんだろ?バッジが無いと惑星へ行けないんだ。なぜこの学校を選んだんだよ」
「確かに、惑星ラムスには興味がないかな。ラムス博士自身にはとても興味あるけど。・・・僕は、ここに勉強するために入ったんだ。あの惑星についてね。いや、正確に言えば、ラムス博士について、かな。だから、惑星自体には興味がないのさ」
そう淡々と答えるコウに、アズサはそうか、と返した。
「ま、それなら確かに頷けるな。頑張れよ」
「うん。君もね」
この性格が真反対の二人が親友なのは、この許容力の広さ、悪く言えば、互いに無関心だからだ。それでいて、お互いに尊敬していた。このコンビの絆の強さは学年でも有名だった。
アズサは話を切り上げ、どうやってバッジを奪おうか、考えていた。