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~バッドエンドの向こう側2~

作者: 結月

いつからだろう、この気持ちがしまい込まれたのは。

どうしてだろう、このままでいいと思ったのは。


「やっぱりここにいた~。 いつもここにいるけど、誰か待ってるの~?」


「おう! 待ってるっていうか、こいつの方が先にいるんだけどな」


私達がいつも一緒にいる場所、特にお互い決めてるわけじゃないけど、自然と足がこの場所に向かってしまう。


「なにかいるの~?」


「あ~、お前には見えないか、いるよ、幽霊が」


「そうなんだ~、私には見えないよ~?」


「誰にでも見えたら幽霊じゃないだろ。 こいつ学生の頃交通事故で死んだんだって! 昔の話とか聞けて結構おもしろいぜ!」


「へ~、私には声も聞こえないからな~」


ていうか、真っ昼間に出てくる幽霊って夜に出てくる幽霊よりも怖いかも。


「さてと、天気もいいし昼寝でもすっか!」


「え~、いきなり昼寝~? 幽霊さんとの話は~?」


「お前が来る前に十分したよ!」


「私は~?」


「お前も眠そうじゃん」


「ね~む~く~な~い~」


「はいはい、おやすみおやすみ」


「も~」


仕方ないなぁと思いつつ、彼の隣で私も寝ころぶ。

毎日こんな感じで彼との会話は余りないけど、彼は私が隣にいることを拒んだりしない。

だから私はいつも彼の側にいる。

そこが私の一番安心できる場所だから。


ゆっくりと瞼を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。

彼の規則正しい寝息が私をより一層夢の中へと誘い込んでくる。


このままずっと、彼の側に居られたらいいのに……



「……ん、あれ?」


気が付けば辺りは暗くなり始め、部活をする生徒の声も聞こえなくなっていた。


「ん~、だいぶ寝てたな~」


午後の授業をサボってしまったけれど、仕方がない。

眠かったんだし。


「ね~、もう遅いよ~? 帰ろうよ~」


ユサユサと彼を揺らすが全く反応がない。

私以上に爆睡しているようだ。


幽霊さんもしいたら、風邪引かないように伝えておいてね。


私は起こさないように彼の頬に軽く口づけをし、ブランケットをかけて家路についた。


もうすぐ引っ越し、今は電車とか使えば簡単に会いに行けるけど、それでも今までと同じように会うことはできなくなる。


その前に私の気持ちだけでも伝えないと。


だけど次の日から、彼はいつもの場所には来なかった。


電話に出ないしメールも返してくれない。

もう引っ越しも間近、彼との連絡は全く取れない。


もう一度彼の家に行ってみて、いなかったらもう諦めよう……

どうせもう会えなくなるんだ、今から会えなくなっても、別に……早いか遅いかの話。

全てが変わってしまう。

周りの環境、人間関係。

だから私も変わるんだ、今までの日常を変えるんだ。

私の意思じゃないけど、これは必要なことだから。


変わる。


変える。


彼に対するこの気持ちも、変える。


自分に言い聞かせようとすればするほど、彼への想いが膨らんでくる。

喉の辺りがくすぐったい、口に出したい、彼への想いを。

ぶつけたい、私の想いを。


メールを送る、電話もかける。

だけど、彼との連絡は未だ取れない。

私は自然と彼の家へと足を運んでいた。


だけど、私は彼の家の前で立ち尽くしていた。

彼に会いたいから、彼に伝えたいことがあるからここまで来たけど、いきなり会いに来て彼はどんな反応をするのだろう、なにを話したらいいんだろう。


なにも考えていなかった。

考えれば考えるほど、逃げ出したくなる。


最初はなんて言えばいい?


どんな告白をすれば彼は私を受け入れてくれる?


わからない。

答えが見つからない。

時間だけが過ぎていく。

だけど、このままでいいのかもしれない。

なにがいいのか、自分ではよくわからないけど、理由もないけど、そう思うことにして、私はこの場から離れたかった。


「この家の人に何か用事ですか?」


「はぇ?」


いきなり声をかけられ、振り返ると私と同じくらいの歳の綺麗な女性がいた。

私の中で一つの可能性がよぎる。

もしかしたら彼はこの人と付き合い始めたから、私を避けているんじゃないかと。


「え~っと~、私の同級生がここに住んでるんですけど、彼最近学校に来てないんですよ~」


この人、彼とどんな関係なんだろ。

もし、彼女が彼と付き合っていたら私は……


「あの~、彼の友達ですか~?」


「そうだよ、最近会ってないけどね。 私はお姉さんの方に用事があってきたんだ!」


「そうなんですか~」


…少しホッとした。

本当かどうかはわからないけど、嘘を付くようなことでもないだろうし、初対面だし……


「彼はそんなに学校行ってないの?」


あれ?

彼のこと気にしてる……?

付き合ってはいないけど、もしかしたら彼女も彼のこと好きなのかな……


「どうなんでしょう~、私はクラスが違うから、いつからっていうのはわからないですね~」


本当は知っているけど、隠すようなことでもないけど、私が知っている彼のことは、彼女には話したくなかった。


「ちょっと待ってて!」


「え?」


どうしたんだろう、勢いよく彼の家に入っていっちゃった。

彼女の行動がよくわからない。

彼と一緒に出てきて実は付き合ってます宣言されたらどうしよう。

もしかしたら私が彼のこと好きだってことがバレた?


彼の家の中で、彼の名前を呼ぶさっきの女性の声が聞こえる。

あれ?

お姉さんに用事じゃなかったの?

なんで彼を呼んでるの?


わからない。

彼女はなにをしにきたの?

もしかして、ホントに付き合ってる宣言?

それとも付き合ってないけど彼を渡したくないから口裏合わせるために彼を呼んだの?


「彼いないって」


いつの間にか目の前にいた彼女に気が付かなった。

彼がいないってホントかな?


でも、嘘でもホントでもきっと彼女がいる間は彼に会えそうもないし、今日は諦めようかな。


「そうですか~、じゃあもし彼に会うことがあったら、いつもの場所で待ってるって伝えておいてください~」


「わかった! 伝えとく!」


時間は余りないけど、私の決断は早かった。

彼に会いたい、でも、会うのが怖い。

怖くなった。


彼に拒絶されるくらいなら、このまま自然に彼と離れる方がいい。


私の気持ちは、私の中だけにおさめておこう。

今までそうしてきたように……



理由がほしかったのかもしれない。

彼と会えない理由が。

気持ちを伝えられない理由が。


彼に気持ちを伝えたいと思っていたけど、実際少しでも行動に移すと、すぐに逃げてしまう。


変わりたい、変われない。


だからずっとしまいこんでいた、だからずっとこのままでいいと思っていた。


変われないんだ、私は。

変われないと決めつけてるだけかもしれない、

でも、変われないんだ。

変われるなら、とっくに変わっているから。


「これでもう、彼とは会えないのかな~……」


彼の家に行った日から、彼に連絡を取ることはしなかった。

あの場所には行っていたけど、彼が来ることはなかった。


なんでいきなり会えなくなったのか、なんでいきなり連絡が取れなくなったのか、わからない。


今日はもう引っ越しの日、この家にはもう戻ってこれない。

この街にもしばらく戻ってこれない。

戻ってくるかもわからない……


「あれ、久しぶり! 駅のホームで会うなんてすごい奇遇だね! どこかに旅行?」


「えっと~」


誰だろう、こんな綺麗な人、私の知り合いにいないんだけど……


「あれから彼とは連絡取れた?」


「あ……」


思い出した。

彼の家の前にいた人だ。


「いえ……取れてないです~……」


取ろうとしてないだけなんだけど。


「え?」

(彼、わかったって言ってたのに……)


ボソッと言った言葉が、きちんと耳に入ってきた。

ちゃんと彼に伝えてくれたんだ……


……え?

彼と会えたの?

私は会えてないのに……


これでわかった。

理由はわからないけど、私は避けられてる。


こんなことが最後に分かってよかったのかどうか分からないけど、彼の気持ちが少し、分かったかな……


避けられているとわかって、少しずつ、少しずつ目頭が熱くなってきた。


「……そんなに彼のことが好きだったんだね」


「ふぇ?」


「少しだけ、私に似てる。 好きな人に好きだって伝えられてないんじゃない?」


「……」


私は静かに頷いた。


「私もそうだったから、気持ちが伝えられない気持ち、少しはわかるよ。 だけど、ほんのちょっと勇気を出せば、気持ちを伝えるなんて簡単なことなんだよ」


「……だけど、ほんのちょっとの勇気も出せない人は、どうすればいいんですか……」


「……それは、私にも分からないかな」


無責任。


「私も勇気がなかったから」


じゃあなんで、気持ちを伝えるなんて簡単、なんて言えるの?


だけど、そんなことを言う彼女の表情は少し寂しそうで、辛そうで、だけどそんな顔もすぐに消えて。


「あなたは大丈夫、私とは違うから。 少しだけでいいの、勢いでもいいの……、あなたにできる方法で、彼に気持ちを伝えてみて。 私は、あなたの笑顔を見てみたいな」


笑顔……?

彼に気持ちを伝えて、笑顔になるか分からないけど、なんでこの人が私の笑顔を見たいのか分からないけど、私にできる方法で……か。


「あ、ごめん! もう電車来ちゃうから! 私もう行くね!」


「え? は、はい~……」


「……少しだけだけど、笑顔になったあなたが見れて嬉しい。 また、どこかで会えたらいいね! その時はあなたのとびっきりの笑顔を描かせてね! またね!」


私、笑ってたのかな。

でも、私にできる方法で気持ちを伝える。

今の私にはこの方法でしか気持ちを伝えられない。


なんでだろう、返事が返って来ないと分かってるからかな?

それとも、もう会うことがないと思ったからかな?


新幹線の中で、短い文だけど、トトトンと、軽快に指が動く。


『ずっと好きでした』


送信。

ただのメールだけど、今の私の気持ち。

別に返事は期待していない。

彼に気持ちを伝える事ができただけで私は満足だった。


メールだから薄っぺらな気持ちだと思われるかもしないけど、

メールだから見てもらえないかもしれないけど、

今の私にはこれが限界だから、

薄っぺらでもいい、

彼に想いを伝えたこと、

あなたと一緒にいた思い出は忘れない 。


私があなたを好きな気持ちは変わらないから

いつかきちんと、告白するから

その時はちゃんと

聞いてくれるよね


だけど最後に、

あなたに会いたかったな……


そして、私の新しい学校生活が始まる。 


彼からの返事は


まだない……

壁|ω・){評価とか、もらえたら嬉しいです

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― 新着の感想 ―
[一言] 作品読ませていただきました。 主人公の繊細な感情がよく描かれていますね。 冒頭部分、幽霊がでてくるのも味があります。 この「彼と会っていた場所」とはどこなのでしょう? >部活をする生徒の…
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