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エピローグ

 目標を見失って宙ぶらりんだった俺は、きっとつまらない日々を過ごしながら人生が続いていくのだろう、と覚悟していた。

 それがどうだ?

 部室のロッカーをくぐればそこは異世界。

 剣と魔法にエルフや獣人。巨人がもいればドラゴンだっている。噂じゃ魔王もいるとかいないとか……。

 変わり映えのない窮屈な世界で気怠さとたたかっていた俺は、異世界部に入ることで文字通り新たな世界が開けたんだ。


 青春は短いという。

 高校生活の三年間なんて、それこそあっという間に過ぎていくに違いない。

 最高の仲間たちと、心躍る世界――“異世界”で。

  だから今日も俺は黒いロッカーをくぐり、異世界へときている。

 もちろん、鳴沢やポンコツなセンパイコンビも一緒だ。


 エルフたちの救出劇から、十日ばかりすぎたある日の放課後。

 俺たち異世界部に、アーシアとルーファさんを加えた六人はいま、部室(異世界の方)に集まっていた。


 ルーファさんから聞いた話では、ペトゥグリーが何人ものエルフを奴隷にしていた事件は、国を揺るがすほどの大問題になったそうだ。

 だもんだからバッキャルドの街では、人間とエルフとの種族間戦争になるかも知れない、との噂が駆け巡っている。

 それが寸でのところで双方踏みとどまれているのは、囚われのエルフたちを救出したのが人間である異世界部(俺たち)だったかららしい。

 人間ペトゥグリーの犯した罪を、人間(異世界部)雪ぐ。なんとも皮肉な話だが、事が穏便に済むのであれば謙虚に受け止めるべきなんだろう。

 実際、異世界部のメンバーにアーシアにルーファさんを入れた俺たち六人は王都に招かれ、国の王さまから直々に褒章をもらったぐらいだしな。


 映画の世界でしか見たことがないようなでっけー城に、これまた城のサイズに恥じない煌びやかな城内に鳴沢はいたく感動し、王さまを前にした九条が誇らしげに胸を張っったかと思えば西園寺が「デュフフ」と笑う。

 まあ、結局のところ国のトップに招かれても俺たちはいつも通り平常運転だったわけだ。

 俺としては近衛騎士とかいう腕の立ちそうな連中と試合ってみたかったんだけど、生憎とそんな機会はまわってこなかった。歓迎の宴で出された美味い料理を、めいっぱい腹につめこむのがせいぜいだ。


 そんなこんなで嵐のように忙しかった十日間を経て、いま俺たちは部室(異世界の)に持ち込んだソファに座り込み、部長である九条主導の元、部内会議を開いている真っ最中なのだった。


『諸君! では満場一致で、ルーファさんとアーシア君のふたりを“異世界部”に入部させる、ということに決まった!』


 本日の議題は、アーシアとルーファさんを異世界部に入部させるか否か。

 九条が票数を書き込んだホワイトボードには『入部させる』に四票、つまりこの場全員の票が入っている。


『やったー! これでアーちゃんもルーちゃんもボクたちの部活仲間だね!』

『デュフフ、そのうち獣耳娘も入部させるでござるよ。なぁーに、金はたんまりとあるでござる。最悪好みの娘を買えばよいのでござるよ』


 鳴沢が喜びの声をあげ、西園寺がド外道なことを平然と言ってのける。金はひとを狂わすなんて、よく言ったものだ。


『ってゆーか九条センパイ、この投票に意味なくないですか? 誰も反対するわけないじゃないですか』

『チッチッチ、甘いな室生後輩。こういうものはだね、なあなあのまま放置するのではなく、ちゃんと! 順序立てて! 双方合意のもと正式に向かい入れたほうがよいのだよ。まあ、君にはまだわからないかも知れないがね。……というわけでルーファさん。貴方は僕の伴侶――じゃなくて、僕たち異世界部の部員(仲間)として入部することが決まりました!』

『あ、ありがとうございます』


 ルーファさんの顔が引きつっているのは、九条が言葉に潜ませた『伴侶』っと単語にドン引きしているからだろう。アーシアにいたってはもっとわかりやすい。九条が自分の名前を呼ばなかったことが大いに不満だったのか、唇が前へと突き出ている。


『クジョー、あたし(・・・)も“イセカイ”に入っていいんだよね?』

『も、もも、もちろだともアーシア君! これから僕のことは気さくに“部長”、と呼んでくれたまえ』

『ふーん。よろしくねブチョー』


 アーシアのジト目を受けて狼狽する九条。

 まあ、九条がルーファさん中心に物事を考えるのはいまにはじまったことではない。アーシアはそれを分かっているのか、やれやれとばかりに首を振ってから俺に近づいてくる。


『タツミー、あたしもイセカイブに入ったぞー』

『おう。これからもヨロシク頼むぜ』

『へへー。まっかせとけー』


 ない胸を張るアーシアのあたまを撫で、俺はルーファさんに顔を向けた。


『ルーファさんもヨロシクな』

『はい。改めてよろしくお願いしますね、タツミさん』


 ルーファさんの差し出してきた右手を握り、頷き合う。


『もーっ! 龍巳ばっかりずるいよー。ボクだってふたりと喜びたいんだからねっ!』

『おいっ、鳴沢……ッ』


 そんな俺たちを見ていた鳴沢が我慢できなくなったのか、ルーファさんにとびかかるように抱きつき、近くにいたアーシアも引き寄せてふたりいっぺんに抱きしめる。



『ルーちゃんもアーちゃんも――』


 ふたりを抱きしめた鳴沢は、満面の笑みを浮かべたまま大きな声をあげる。


『ようこそ! 異世界部へ!!』

これで完結です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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