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第三十話 白い闇を抜けて 前編

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いしますね。

 翌日、俺たちは救出した西園寺の指示のもと、いろんな機器が入ったダンボールをえっちらおっちら運んでいた。


「デュフフ、室生殿、そのプリンターが入ったダンボールは机のうえに置くでござる」

「うーっす」


 運び先は、西園寺が捕まっていた地下室。

 そう。悪者たちの拠点、グレイブルのおっさんたちが住処にしている建物だ。

 地下室は、表に出してある発電機から送られた電力により照明が点き、明るく照らされている。

 

「デュフフ~。デュフフフフ~」


 当の西園寺はというと、気持ち悪い鼻歌を歌いながら三脚を組み立て、その上に高そうなカメラをセットしていた。


「西園寺、背景はこの布を広げればいいのかい?」

「デュフフ、おっけーでござるよ九条殿」

「了解した」


 西園寺の確認を取った九条は、手に持つピンク色の布を壁に貼りつけていく。 

 しわにならないよう、丁寧に貼りつけていっている辺りが、実に几帳面な九条らしい。

 ちなみに鳴沢とアーシア、ルーファさんの女子三人組は宿屋で待機している。

 “これから”はじまることはあまりにも刺激が強すぎるため、九条が部長命令を出してまで待機するよう言い聞かせたのだった。


『おうサイオンジ、準備はできたか?』


 そう言って部屋に入ってきたのはグレイブルのおっさんだ。

 おっさんからは対峙した時のような威圧感はすでになくなっていて、その顔には笑みさえ浮かんでいる。


『デュフフ、これはこれはグレイブル殿、準備はあともう少しといったでござる』

『おお! そうかいそうかい。女たちは隣の部屋で待たせてある。いつでも呼んでくれ』

『デュフ、では拙者の絵のモデルになる順番を決めておいてほしいでござるな。その間に拙者、準備を終えておくゆえ』

『わかった。なら順番はオレが決めておこう。なんせ、どいつもこいつも早くサイオンジに描いてもらいてぇーって、聞かねぇからよぉ。ほっといたら取っ組み合いの喧嘩になっちまいそうな勢いだぜ』

『デュフフ、拙者を取り合っての小競り合い……悪くないでござるなぁ』

『んじゃ、決めてくる。準備ができたら教えてくれ』


 おっさんの背中を見送った西園寺は、気持ち悪い笑みを浮かべたまま「デュフフ、」と笑う。


「西園寺、壁に布を張り終わった。次に僕はなにをしたらいいかな?」

「デュフフ、拙者もつい今しがたカメラのセッティングを終えたところでござる。つまりは準備完了。いつでも撮影できる状態でござるよ九条殿」

「おお! で、ではっ?」


 九条の期待に満ちた視線を向けられた西園寺は、ゆっくりと頷く。


「然り。九条殿はそこのレフ板を持ち、これから入ってくる女人たちに光を当ててほしいでござる」

「ふっ、任せたまえ! この九条、みごと被写体であるモデルさんたちに光を当て輝かせてみせようではないかっ!」

「デュフフフ、頼んだでござるよ九条殿! ……というわけで室生殿、」

「なんすか?」

「グレイブル殿に準備ができたことを伝えにいってほしいでござる」

「だと思ったっすよ」

「頼んだでござる」


 西園寺に言われるがままに部屋を出た俺は、仏頂面のままおっさんたちが待機している部屋に移動する。

 てきとーにノックしてから扉を開けると、もわっとした鼻が痛くなるような香水の匂いが俺を襲う。


『ん? 手前はムロウとかいったか?』


 部屋に入ってきた俺に、グレイブルのおっさんが振り返って言った。

 部屋にはおっさんの他に、十人ほどの化粧をした女たちがいる。


『おっ、よく俺の名前憶えてたな』

『ったりめーよ。オレ相手にケンカで勝った奴なんざそうはいねぇ。憶えんのも当然のこった』

『そりゃ光栄だね。ああそうそ、西園寺センパイが準備できたってさ』

『そうかい。んじゃ……、』


 おっさんは女たちの方に向き直ると、派手なドレスを着た茶色い髪の女を手招きした。


『アマンダ、まずは手前からだ。サイオンジに綺麗に描いてもらえるよう、しっかりとな』

『はい旦那さま』


 アマンダと呼ばれた女が進み出る。

 必要以上に胸元が開いているせいか、正直目のやり場に困ってしまう。


『そんじゃムロウ、アマンダをサイオンジのとこに連れてってくれ』

『……お、おう』

『がっはっは、なんだぁ? アマンダの胸ばっか見てよ。ムロウ、おめしょっとしてアマンダが気に入ったのかよ? よかったら抱いてみるか? 胸の大きいアマンダの抱き心地は最高だぞ』

『うふふ。ためしてみる、坊や?』

『ば、バカ言ってんじゃねーよ! ほら、早く行くぜ』


 自然と吸い寄せられていたアマンダの胸から目を逸らした俺は、返事も待たずにズカズカと歩き出す。

 そんな俺の後姿を、アマンダは笑いを堪えながら、おっさんは大笑いしながら見ていた。





『西園寺センパイ、モデルさん連れてきたっすよ』


 西園寺と九条のふたりが待つ部屋をノックすると、すぐに返事が返ってくる。


『デュフフ、ご苦労。入りたまえでござる』

『うーっす……って、なんすかソレ?』


 地下室に戻った俺の前には、なぜかサングラスをかけた西園寺と九条が立っていた。

 大きめのサングラスのせいで、ふたりの表情はあまり見えない。

 呆然としている俺の横をアマンダが通り過ぎ、ふたりに対して優雅に一礼してみせる。


『初めましてサイオンジ様。わたしはアマンダと申します。絵のモデルになるのは初めてのことですが、どうかよろしくお願いいたしますね』

『デュフフ、心得たでござるよ。ではアマンダ殿、』


 平静を装うためか、西園寺はできる限り平坦な口調で、でも、隠し切れない欲望を全身から滲み出しながらはっきりと、


『服を脱ぐでござる』


 と言った。





 昨日、西園寺がグレイブルのおっさんに出した、『双方が得をする素晴らしい秘策』。

 それは、おっさんの経営する娼館の女たちをモデルとしたエロ写真を撮影し街の住人に売る、という酷いものだった。

 呆れる俺と鳴沢たち女子三人組を尻目に、九条だけはその意図することに気づいたらしく、ひとり「なるほどな……」と呟いていたが。

 女子三人組がいないところでこっそりと九条に聞いてみたところ、なんでも娼館の女をモデルにしたエロ写真は俺たちの世界でいうところの“風俗雑誌”と同じ効力を発揮するとか。


 エロ写真を見て興奮したバカは、そのまま娼館の客になってくれる可能性が高く、いままで娼館に行ったことがない男たちに対してもとっびきりの宣伝効果があるらしい。

 西園寺と九条はこれを、『新たな市場の開拓』とか偉そうに言っていたけど、本音では女の裸が見たかっただけだと思う。生で。





『ここで脱げばいいのですか?』


 カメラの前に移動したアマンダが小首を傾げる。


『デュ、デュフフ、いいい、いいでござるよ! さ、さあ、ははは、早く脱ぐでござる!』


 西園寺の鼻息は荒い。

 アマンダが『はい』と返事をし、着ているドレスに手をかけたその時、


『待ちたまえ。室生後輩、君はいつまでここにいるつもりなんだい?』


 突如、九条が厳しい声をあげた。


『……へ? 俺いちゃダメなんすか?』

『当たり前だよ。西園寺のアシスタントは僕がやる。室生後輩、君は西園寺の気が散らぬよう、部屋の外で待機していたまえ!』

『デュフフ、お子様な室生殿には刺激が強いかも知れないでござるからなぁ。それも仕方なきこと』

『ちょっ、一個しか歳違わないじゃ――』

『シャーラーップ!! 室生後輩、君にとっては“たがが一個”かも知れない。でも僕たちにとっては“されど一個”だ。撮影は遊びなどではない! これは芸術の深遠へと至るための探求だ。正直……君にはまだ早い。早すぎる! 君は家に帰ってエロ同人でも読んでいたまえ!』

『そ、そんなのズッコイ――』

『デュフフ、よいのでござるかな室生殿?』


 俺の言葉を制し、西園寺が口の端をつり上げる。


『な、なにがっすか?』

『鳴沢殿に……言うでござるよ?』

『な、なんでそこで鳴沢の名前が出るんすか!?』

『デュフフ、なあに、たまたまでござるよ。たまたま、ね』

『――くッ』


 不敵に笑う西園寺と九条に背を向けた俺は、そのまま部屋を出ていった。

 付き合いの長い鳴沢アイツに、軽蔑されたくなかったからだと思う。


『デュフ、それじゃーはじめるでござるよー!』

『おー! 西園寺、サポートは僕がやる! なんでも言ってくれたまえ!』


 後ろてで閉めた扉の向こう側からは、ふたりの楽しそうな声が聞こえてくる。

 俺はその声を聞きながら、血が滲むほど強く拳を握りしめ、


「おっぱい……みたかったなぁ……」


 と呟くのだった。 

近々あらすじと主人公の喋り方『~っす』を修正します。

読み返したら主人公がただのDQNにしか思えなくなってきたので(´;ω;`)

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