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第二十四話 異世界部の出撃 その2

『西園寺センパイがさらわれたって……どーゆーことっすか!?』

『そんなっ!? 西園寺先輩が!?』


 驚く俺と鳴沢。

 悔しげな表情を浮かべた九条は頷き、続ける。


『ああ。攫われてしまった……。つい、さっきのことだ』

『いったい誰にっすか!?』

『わからない。ただ、僕たちを襲った男たちは誰かに命じられていたようだった』


 さっき起こったことを必死に思い出しているのか、九条の眉間にはしわが寄っている。


『うーん。誰かに命じられて……ですか?』

『その通りだ鳴沢後輩。襲ってきた奴らは最初から西園寺を狙っていたようだった』

『なんでそんなことわかるんすか?』

『簡単だよ。奴らがそう言ってきたのさ。サイオンジはどっちだ、ってね』


 センパイらを襲った奴らは、最初から西園寺が狙いだったってことか。

 最近荒稼ぎして良くも悪くも有名になった“芸術家”さまだから標的にされんのはわかるけど、それにしても直接本人を狙うってどういうことだ?

 金を持ってるのは確かに西園寺なわけだが、それだって普段から持ち歩いているわけではない。膨大な数の金貨はちゃんと両替などを扱う商会(銀行みたいなとこ)に預けてあるからだ。

 金目的なのに、それを引き出せる本人を攫ってしまうなんて、本末転倒にしかならない。

 西園寺が荒稼ぎした金が目的なら、本人ではなく友だちの九条とかを攫って身代金を要求したほうが遥かに効率がいい。

 となると、狙いは商品であるエロ画像ってことなのか?

 西園寺を監禁してエロイ絵を描かせようともしてんのかな?


『んー……ねぇねぇ、クジョー、』

『ん? なんだいアーシア君?』

『なんで襲ってきたヤツらはサイオンジがわかったのかな? ふたりのうちどっちがサイオンジでどっちがクジョーかなんて、ふつーわからなくない?』


 腕を組んだアーシアが、不思議そうな顔をして首を傾げた。


『アーちゃん、きっと襲ってきたヤツらは事前に情報もってたんだよ。太ってるほうがサイオンジだ! ってさ! 九条先輩はガリガリだからすぐに見わけつくしね!』

『あー、そっか!』


 アーシアの疑問に答えたのは鳴沢だった。

 得意げに人差し指を立て、探偵よろしく自分の推理を口にする。

 ここ最近の西園寺はムダに金を持ったせいか、異世界こっちで暴飲暴食を繰り返し、みるみると肥え太っていった。

 ひょろ長の九条と比べれば、その身体的特長は明らかすぎなぐらいだ。


『いや、奴らにどっちが西園寺かを教えたのは僕だ。なんせ、正直に答えないと痛くする、って言うからね。素直に答えざるを得なかったのさ……』

『あんた、センパイだけどあんた最低だな』

『九条先輩さいてー。お兄ちゃんに言いますからね』

『クジョー……さすがにそれはひどいよ』

『…………』

『ふっ、非難は覚悟のうえさ。だが考えてもみたまえ。僕は痛みに弱い。かなり弱い! たとえ口をつぐんだとしても、一発殴られればすぐに白状したことだろうさっ。彼が西園寺だ、と。この太っているのが西園寺だ! と!』


 みんなからの批判を一身に浴びながらも、悪びれた様子もない九条は明後日のほうに目を向け、そっとメガネを押し上げる。

 このポンコツなセンパイは西園寺を見捨てたことに一片の悔いもないのかよ。


『で、九条センパイは正直に白状した(ゲロった)のにこんなにボコボコになるまで殴られたってことっすか? けっきょく意味なかったすね』

『それは違うぞ室生後輩。この傷は君たちに知らせるべく、走っている途中で階段から転げ落ちた時に負った傷だ。だが心配しなくてもいい! 親友である西園寺がいま受けているであろう仕打ちを考えれば、この程度の傷……大したことじゃないさっ!』


 ムダに爽やかな笑顔を向けてくる九条。

 きっと俺たちを心配させまいとしてのことだろうが、あいにくと俺たちは誰ひとりと心配なんぞしていない。

 その証拠に、アーシアが『天罰だよそれ』と言い、あの優しいルーファさんですら止血のため縛っていた布を無言でほどいているぐらいだ。


『……九条先輩、とりあえずいったん戻りましょーよ。トムさんとか、ヴァンさんならなにか知ってるかもしれないですし』

『同感だ鳴沢後輩。僕も商会を束ねるトムルックさんとヴァンザスさんたちなら何か情報を持っていると思っていてね。君たちに合流したあと聞きに行くつもりだったんだよ』


 この街で大きな基盤を築いている大商人のふたりなら、きっと西園寺の行方に心当たりがあるかも知れない。

 そう考えた鳴沢と九条を先頭に、俺たちは情報を求めて走り出した。





『なんですと!? さささ、サイオンジ殿がっ!?』


 そう叫んだのはトムルックさんとかいうハゲてるほうの商人だ。

 西園寺と一緒に行動していた九条のおかげで、商会のトップであるトムルックさんともすんなり会うことができた。

 ちなみにもう一人の商人であるヴァンさんとこにはまだ行っていない。

 急いでいたから、さっきいた場所から近いほうの商会――トムルックさんのところへ向かったのだ。


『そうなんですトムルックさん! 僕の親友の西園寺が悪漢共の手に……くっ』


 九条が涙を堪えるかのように唇を噛みしめ、目をつむる。

 俺たちはそんな九条を白けた目で見ていたが、トムルックさんは何度もうんうんと頷き、励ますかのように九条の肩を抱いた。


『クジョー殿のお気持ち、わたくしも痛いほどわかりますぞ!』

『トムルックさん……』

『クジョー殿……』


 アーシアがひしと抱き合うふたりを指さしながら、無言のまま俺のほうを向く。

 目でなにか訴えかけてくるアーシアを完全に無視しつつ、俺は話を進めるため顔をふたりに向けた。


『あー……トムルックさん、』

『はい、なんでしょう? ムロウ殿』


 前に一度しか名乗ったことがないにもかかわらず俺の名前を憶えているとは、さすがは敏腕商人、といったところか。


『西園寺センパイが誰に攫われたか、心当たりあります?』

『……それを聞いてどうなさるおつもりで?』

『助けにいきます。めんどくさいっすけどね』

『なるほど。なら……教えられませんなあ』


 俺の答えを聞いたトムルックさんが、静かに首を横に振る。


『……どーゆーことっすか?』

『どーしてですかトムルックさん! 西園寺先輩ピンチなんですよ!』

『お、落ち着いて下さい!』

『落ちつけません―!!』


 鳴沢が鼻息荒くトムルックさんに詰め寄っていく。

 そんな鳴沢の肩にルーファさんが手を置き、気を落ち着かせるようゆっくりと喋りはじめる。


『キヨネ、もう少しトムルックさんのお話を聞きましょう。怒るのはそれからでも遅くはないはずです』

『ルーちゃん……』

『トムルックさん、理由を聞かせてもらえますか?』

『そーだ、そーだ! りゆーを言えー!』


 ひとり静かに落ち着いた口調で問うルーファさんと、それに便乗したアーシアが騒ぎ立てる。


『コホン、いいですかな? わたくしはなにもみなさんを困らせたくて教えないわけではないのです』

『と言うと、トムルックさんは僕の親友、西園寺の行方に心当たりがあるんですね?』 


 あっさりと見捨ててきたくせに、さっきからやたら“親友”の部分を強調する九条。


『はい。クジョー殿のおっしゃる通りです。わたくしには心当たりがあります』

『じゃあ、なんで教えてくれないんですかー』

『ナルサワ殿、それはですな、その心当たりのある相手……いや、“組織”と言ってもいいですな。十中八九サイオンジ殿を攫ったであろうその組織が、とても危険な相手だからです。なのにそんな危険な相手に挑むなど……お教えするわけにはいきません!』

『組織……ねぇ。街の“裏側”のヤツらってことっすか?』

『……その通りです。目的のためなら殺人もいとわない、危険な犯罪組織です』


 表があれば裏がある。

 どんなに光で照らしても、影は必ず落ちるもんだ。

 西園寺を攫った連中は、そういった日本でいうところの暴力団みたいな組織なんだろう。


『しかし……あの者たちは自分たちの縄張りからめったに出ないはず。クジョー殿、ひょっとしてサイオンジ殿が攫われたのは……その、なんというか……町の北地区だったのでは?』

『……ええ。トムルックさん、あなたの言う通りです。僕と親友である西園寺は北地区を歩いている時に襲われました』

『やはりそうでしたか……』


 トムルックさんは深いため息を吐き、やれやれとばかりに首を振る。

 北地区?

 その言葉に俺と鳴沢、ついでにアーシアもポカンとしていたが、ルーファさんだけはなにかに感づいたらしく、急に顔を赤くして俯いてしまった。


『センパイセンパイ、九条センパイ、』

『ん? なんだね室生後輩?』

『九条センパイ、北地区ってとこになにがあるんすか? 俺たちにもわかるように教えて下さいよ』

『い、いや、それは……うーむ、なんと言うか……しかし、いやでも……』


 九条は腕を組み、ひとりでぶつぶつと呟きながら悩みはじめる。

 しかたなくトムルックさんを見るが、トムルックさんはトムルックさんで、俺の視線を避けるかのようにぷいとそっぽを向いてしまった。

 いったい北地区になにがあるんだよ?


『えーい、しかたがない!』


 悩み始めてからたっぷり五分はたち、なにやら覚悟を決めた顔をした九条が顔をあげ俺たちに向きなおる。


『おっ、九条センパイ言う気になったんすね?』

『九条先輩はやくっ!』

『さっさとはくじょーしろ、クジョー!』


 俺たち三人(ルーファさんは赤い顔で俯いたまま)がやいのやいの騒ぎ立てるなか、九条は片手をあげて一度場を静める。


『いいかい君たち、北地区にはね、』


 九条の言葉を聞き逃すまいと耳を澄ます俺たち三人。


『色町があるんだよ』


 鳴沢が放ったビンタが九条の左頬にめり込んでいき、パンッという小気味良い音がだだっ広い部屋に響き渡った。

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