米山米雄の冒険(四百文字お題小説)
お借りしたお題は「非正規のブルース」です。
米山米雄。縁故採用で課長に昇進した小心者である。
彼の妻は専務の姪だ。それ故、昇進に対するプレッシャーも凄まじい。
「はあ」
彼は課長室を出た。
「い!」
こっそりとサボっていたスチャラカOLの律子が慌てて仕事をしているフリをする。
「課長、どちらへ?」
しばらくぶりに出勤した梶部係長が声をかけた。
「ちょっとトイレ」
米山は幽霊のような蒼ざめた表情で応じると、フワーッとフロアを出た。
(こんな事でいいのだろうか?)
不甲斐ない自分を情けなく思った。
(ここにいる限り私は奴隷と一緒だ。例え生活は苦しくても派遣社員に戻った方がずっといい)
彼は意を決して携帯を取り出してダイヤルした。
「どうしましたの、貴方? 今は勤務中ではなくて?」
妻が出た。米山はビクッとしたが、
「話があります」
思い切って告げた。
「話? 何ですの?」
妻の声のトーンが変わった。
「晩御飯のおかず、何を買って帰りましょうか?」
結局現状打破ができない米山だった。
これが米山さんです。