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秘密基地へようこそ

作者: 永月ほたる

この小説は共同企画小説「秘密基地」の参加作品です。

他の先生がたの作品は「秘密基地小説」で検索することが出来ますので、是非ご覧下さい。

  めろんジャム


    アイツが美味いと言ったから


      今日のお昼も『めろんジャム』



詠んでる自分が分からない……。

「ナンだ,これ?」

自然と眉間に力が湧く。

晒し者を見るような皆の目線。

「え,ぁ……まぁこんなもんすか?」

もはや支離滅裂すぎて,にかぁ……と顔面麻痺状態。

これ以上の生き恥は生命に関わる。

腰を急降下して瞬間接着。

椅子がなければ腰椎を2〜3コ損傷してたかも。

気になるお熱い目線の先にはイヒヒ……と笑う俊弘。

  嗚呼,隣は何を笑む人ぞ……。

この間,およそ数十秒。

詩?歌?……を熱唱するので数秒。

残りは座禅のお時間か?


そんな静寂を破ってカミセンが詰め寄った。

「おい,亮……」

「え,あ……はい?」

綺麗に束ねられたポニーテール。

微薄ながら,大人の匂いが増す。

お面のような作り笑いで。

ニコニコとかクスクスとか音を充てることの出来ない笑顔。

「ねぇ……短歌って知ってる?」

「えぇもちろん」

そりゃあ『五・七・五』にいろんな思いを載せる歌だろ?

「そんなの小学校でやりましたから」

根底的かつ概念的な問いに余裕をかます。

「じゃあ,今のは何かなぁ……?」

ピキッとお面に小キズが走る。

「あ……何でしょうねぇ,はは」

「まぁ面白いから,お姉さん許してあげるけど」

そう言って180度回頭し,柑橘匂は立ち去った。


「はぁ…」

そもそも,これはオレが書いたものではない。

舞台は国語の授業。

和歌の勉強で,居眠りしてる愚か者に白羽の矢が向けられたのだ。

当然,何をすればいいのか分からない。

そこへスッと俊弘からメモが来た。


 めろんジャム

   アイツが美味いと言ったから

     今日のお昼も『めろんジャム』


こ,これは……この状況を打破する草薙の剣!

サッカーでコンビを組んでいる俊弘だから。

その意図は金網で金魚救いをするくらいドンピシャ……のはずだった。


しかし,何とまぁロシアン・ルーレットの『当たり』だったとは。

「おぃおぃ何だコレ?」

「はは……ネタだよ,辛気臭い授業に対する」

「じゃあオマエが詠めよ?」

こうやっていつもオレは俊弘様の孫悟空にされている。

「はいはい,じゃあ次はみっちゃん,いい?」

指名された者が起立する。

カミセンは瑞希を『みっちゃん』と呼んでいる。

「は〜い,瑞希いきま〜す」

とまぁハイテンションの優等生に皆も期待の目。

なんかオレの時とは正反対。




  秘密基地


    アイツが来いと言ったから


      今日もこれから『秘密基地』




……。


…… ……。


…… …… ……。


再び彼女の『お面』が現れる。

「あ,あの,みっちゃん?」

壊れた人形を見るような軽い視線。

「あ,はは……いやぁ」

はぁ……とため息をついて柑橘匂は微笑んだ。

「秘密基地……まだあるの?」

ちょっと遠目を伺う上岡先生。

「はい!ありますよ♪」

ニカッと冷房のない部屋で光る笑みと汗。

「そう,どんな基地なの?」

かぁぁ……瑞希の顔が赤くなる。

たぶんオレも,それを先生は見て楽しんでるんだ。

「い,言えるはずないじゃないですか!」

秘密基地ですよ,『秘密』なんですよ?

オレも同じ言葉を無言で発した。




キーン,コーン……カーン,コーン……。




温室栽培の野菜みたいな環境から解放され,廊下へ出る。

「あぁ……あちぃ」

俊弘は昼練でコートへ行ってしまった。

とりあえず何か買って食べよう。

ポケットには300円くらいあったはずだ。

すっと左手を袋状の空間へインサートする。

だが,不意にそれを阻むように生温い感触が纏わりついた。

「んぁ?」

いつの間にかその生温さは肩にも寄せられていて。

「なんだ瑞希?」

ちょっとぶっきらぼうに,だけど首を傾けてしまう。

「『めろんジャム』と〜っても美味しいよ?」

ちらっとオレの首元あたりに視線を差し向け,ニッコリ。

「あのメモ……オマエの仕業か?」

「さぁて,どうかねぇ?」

ぽむっとオレの胸板を軽く一突き。

「美味しいよ?めろんジャム♪」

強引な手口だが,まぁしょうがない。

何たって腐れ縁の壁を越えてしまったんだから。


「はいはい分かりましたよ,買いましょう」

「あはは……物分りがいいなぁ,りょうくんは」

「ところで,何で秘密基地だったんだ?」

購買へ向かいながら,ふと時間軸を逆行する。

「え……はは,そんなの『秘密』ですから」

その顔には秘密という言葉が似合わなかった。

だって,その照れくさそうな笑顔は秘密どころか『告白』なのだから。


真夏日のせいか,購買はそれほど混んでいなかった。

「りょうくん,私が買ってくるから待ってて」

そう言って,しっかりとオレの300円を手に瑞希は小走りする。

しかも1つしか買ってない,どーいうことだ?

「オマエ『1+1』の答えは何だ?」

もはやどちらがマトモか分からないやり取りである。

瑞希はセミロングを指で解かしながら赤面。

「だって……」


さわぁ……。


ふと夏風が一蹴,瑞希の髪を撫で上げる。

その首筋の妙なてかり具合が艶かしい。

太陽の熱と光が瑞希を『女の子』に仕立てる。

そこには,かつて一緒に遊んだ少女の姿が見えた。

小さな白いワンピース。

その少女が目の前に制服姿で立っている。

はしたなく鼻頭を人差し指で擦りながら『めろんジャム』を差し出す瑞希。

その姿は2人きりで過ごした刻を濃縮した,まるで『ジャム』のよう。


「オマエ……変わってないな」

今いる場所を忘れてさせてしまう程の,瑞希への愛しさ。

瑞希の愛らしい,まったく変わることのない無邪気でまっすぐな目。

つい先日,涙しあって,愛し合って,流れるものは枯渇したハズなのに。

「りょうくん,食べよ?」

森の空き地で飯事をした記憶が脳裏をよぎった。

「2人で食うか?」

「そうしようか?」

瑞希もオレと同じ時間軸上に立っている,それを第六感的に確信。

敢えて意地悪な口調でそれを確認。

瑞希だって,伊達に長い付き合いをしていない。

コチラの考えることなどお見通しだ,むしろオレの方が分からないことが多い。

瑞希の差し出したモノを手に取り,困った表情を作る。

「このままだと,1人分だけど……?」

懐かしい夏の1ページが開かれ,瑞希の笑みが永遠的になる。

モジモジする恥ずい仕草も相変わらず,そして可愛さも相変わらず。

ちょっと口篭もってからニカッとして。

「2人で1つなんだよぉ♪」

夏の陽射しすら逃げ隠れするような眩い輝線。

そこには確かに『秘密基地』があった。


2人で『めろんジャムロール』を半分ずっこして,ぱくぱく。

ほぼ同時に食べ終わる。

そうして,互いに手元が寂しいことに気づく。

いつもオレの後を追ってきた瑞希。

コイツには『背中』が当たり前だった。

だが,この夏……オレは瑞希に最高のプレゼントすることができた。

それは瑞希がずっと欲していながら今になって初めて分かったもの。

「お〜い,あんまノロノロしてると置いてくぞ?」

「あぅぅ……りょうくん,待ってよぅ」

ちょっとドジッ娘で可愛い瑞希。

その貴い存在にオレの手も,意思も,全てが緩む……いや,ベルトはさすがに。

「私,やっとりょうくんの『横』に立てたんだ〜あは」

「何バカなこと言ってんだ?これからは嫌でも定位置だからな」

「嫌じゃないよ,嬉しい……りょうくん,大好きだよ,とっても大好き」

可愛くて愛しくて大好きな瑞希に,オレは手を差し出す。

指の毛細血管から,まるで大動脈のような拍動を感じる。

「なんか,昔よりワガママになったんじゃないか?」

「そうかな〜そしたら,りょうくんのせいだよ?」

「何でオレなんだよ?」

「だって,今まで私が我慢してきたこと,い〜っぱいしてもらわなきゃ」

「あほ……」

コツンと突付かれて,あは……と小笑いする瑞希。

その手を,身体を手繰り寄せ,心の中で唱える。




『秘密基地』へようこそ。

お付き合い下さりありがとうございます。

さて…恥かしい言葉を今回も綴っちゃいましたね。

カミセンって女だったのか…というのは,ついさっきポニーテールという言葉に感化されての見切り発進。

皆様からのコメント,ご指南,心よりお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] つい頬が緩んでしまうようなほのぼのとした作品でした! 学校でも腕を組んだりとすっかりふたりの世界に入ってしまいましたねー! 二人はどこまで行くのか楽しみです♪
[一言] 二人の俳句(?)につい頬が緩んでしまいました。ムカツクくらいにいいコンビじゃないですか。全く、周りの人の迷惑を考えてほしいですよ。目のやり所に困るじゃないですか! しかし、甘くていいお話です…
[一言] 読みました。 いや、綴ってますね。もう一直線というか猫まっしぐら? みたいな。
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