ガイコツに願いを (三題噺)
◎『三題噺のお題メーカー』さんからお題拝借。 ◎自主規則のようなもの:落語の三題噺は「人物・物・場所」を表す言葉から作られる(ウィキペディアをゆる~く参照)らしい。面白いと思ったので、これを用いる。
※「卒業式」「ガイコツ(物)」「きわどい中学校(場所)」、ジャンルは「指定なし」
※自主規則にのっとり、卒業式を「卒業生(人物)」に変更
※実在する学校等と一切関係はありません。
ガイコツに願いを
『先生と生徒の、禁断の恋』
……って、禁断でなきゃ、困る。
ところがところが、わたしの学校ではこれが密かなブームらしい。
およそ三、四年に一度は教師と卒業生が結婚しているという、きわどい中学校だ。
すべてのカップルが必ず夫婦になったわけではないだろうから、推して知るべし。一組入籍したら他に十組、恋人達がいたってか。失礼なたとえになるが台所の憎い奴じゃあるまいし、やだやだ。
「というわけでガイコツさん」
目の前の骨格標本に向き直る。一部では生物室の主ともいわれるこの彼だか彼女だかには、『伝説』があるのだ。ありふれた話だが願いを叶えてくれる、らしい。
条件は二つ。願いを唱えて標本にキスをする。そしてその姿を誰にも見られてはならない。
「この学校から、先生と生徒の恋愛を無くしてください!」
上履きで音の鳴りやすい生物室の床を注意深く一歩進む。ガイコツさんは見るからに繊細だけど、同時にホラーな感じだ。そっと顔を近づけつつ、なぜか目を閉じてしまったその時、
「桃井さん?」
声のしたほうへ振り向くと、扉のところに眼鏡をかけた男子生徒が立っていた。
「……ちょっと話を聞かせてくれるかな」
一瞬固まりかけた空気の中、「ついてこい」と指図するように軽くあごを動かした彼は同じクラスの佐倉田くんだった。よりにもよって同級生に見つかったのかと思うと、口の中は乾くのに、握り締めた手はじっとりと湿ってくる。
そんな様子には目もくれずさっさと歩き始めた佐倉田くんの広い背中を、わたしは慌てて追いかけた。
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どこへ連行されるのかと思えば、たどり着いたのは互いの教室だった。
西日がオレンジ色に染め上げた室内にわたし達二人きりという、ある意味では少女漫画なシチュエーションで尋問はとりおこなわれた。
わたしが話している間、佐倉田くんは黙って聞いている。どうしてすべてを打ち明けなきゃいけないの、と思いつつガイコツさんとのチュー未遂を目撃された以上、もうどうでもいい気分だった。
そして裁判長の判決を待った。
「悲しいお知らせだけど、桃井さん」
目が合うと苦笑いしながら、佐倉田くんは『伝説』の真実を教えてくれた。
「ガイコツさんは恋愛専門の守り神らしいよ。普通に願い事を言えばよくて、唇はいらないって」
「そ、そうだったんだ」
「ずっと前に生物室で内緒の関係を育んだ……先生と生徒の霊が乗り移ってるんだと、僕は兄から聞いたよ。だから……」
「えっ、えぇーーーーそ、ん、な、ば、か、なぁ~」
思わず机に突っ伏した。なんてモノに願掛けしたんだ。これは、大昔のサスペンスドラマで見た、真犯人に相談を持ちかけちゃうおバカ主人公状態っすか?
佐倉田くんは、きみの真面目さは理解した、誰にも言ったりしないからと哀れんでくれているけど……しばらくは立ち直れそうにないよ……。
「桃井さんと親しくなるチャンスをください」という僕の願いは、多分成就したようだ。
生物室で彼女を見かけた時、誰のことが好きなんだと絶望したが勘違いで良かった。
桃井さんは古風だけど面白い。あからさまに凹んでいる様子も可愛くて、口角が自然にゆるむのを僕は必死で抑えている。
ありがとう、ガイコツさん。
(了)