第七十三話◇
ふむ。
どうやら私は継続してなにかをする事が苦手らしいです←致命傷
お待たせしました。七十三話です。ここで全部明らかになります。
ージルクsideー
確か…
確か、18年前にも彼と戦っていた。
15歳だった彼と14歳だった自分。
「あの時…勝ったのは貴方でしたね…。」
王の側近の地位を狙い、様々なものが試験を受けた。
しかし、結局最後に残ったのは彼と自分。
最終試験は実力試験。
勝利条件は相手を立てなくする事。
魔法と剣術。その両方を駆使して戦い合った。
何時間もの激闘の結果。
勝ったのは…彼だった。
悔いは無かった。
尊敬する人に負けたんだから。
彼は笑って言った。
『お前はまだ伸びる。また戦う時を…楽しみにしてる。』
そう言って差し伸べてくれた手を握ったのを今も覚えている。
皮肉にもこんな状況でまた再戦するとは思ってもみなかった。
それから少し経って、王にご子息が産まれた。
王も王女も民も従者も国中が喜んだ。
しかし、産まれてきた子供は…髪の色も、瞳の色も青。
王族として異例の子だった。
その異例の子は、ミズキと名付けられた。
一部の民はミズキ様を気味悪がり、侮辱していた。
まあ、本当に一部だが。
それが原因だろうか。
ミズキ様は幼いのにも関わらずあまり笑わなくなり、外で遊ぶ等とする事はなく、どちらかというと城の書庫で絵本を読み漁る事が多かった。
王はそんなミズキ様になんとか年齢相応な子供になってもらいたいがため、最も信頼の厚い、バルドにミズキ様の教育係を申し付けた。
それから一年。
王妃がまた子を授かった。
産まれてきた子供は…
紅の色をした髪を持つ、赤子だった。
国中が歓喜した。
王族を継ぐ、跡継ぎが生まれたのだから。
これでしばらくこの国は安泰と、誰もが喜んだ。
その赤子はカノンと名付けられた。
カノン様は明るく、少しやんちゃな所があるが王としての素質は充分あった。
しかし…報われないのはミズキ様だった。
王になるのは自分の筈なのに、王族として異質な体で産まれただけで化け物と罵倒される。
父親と母親は弟の事しか見ていない。
寂しい想いをしてきたのだろう。
自分に見向きもしない両親に見てもらいたいが為、ミズキ様は力を求める様になった。
もし…もし、あの時ミズキ様の想いに気付いていれば、こんな事にはならなかったのかもしれない。
ミズキ様の教育係だったバルドはカノン様の世話もする事になった。
しかし相手は遊びたい盛りの子供。
よくバルドに頼まれ、一緒に世話をした覚えがある。
ミズキ様とカノン様は仲が良かった。
いや、今となって気付いたが、ミズキ様が仲が良いのを装っていたのだろう。
ミズキ様がカノン様に向ける笑顔は作られた物だった。
カノン様が産まれて五年。
ミズキ様は完璧に魔法が使いこなせる様になった。
ミズキ様には才能があった。
カノン様もミズキ様とまではいかないものの魔法を使える様になっていた。
しかし、異変が起きた。
バルドの様子がおかしい。
穏やかだった眼差しは、鋭くなり、冷たくなっていた。
しかも、何故かカノン様に冷たい気がする。
従者や王に、何かあったのか、疲れているんじゃないか。数々の言葉をかけられていたが、ただ首を横に振るだけ。
そんな彼に声を掛けた。
『バルド様!』
『…なんだ?ジルク。』
『どうか…なされたのですか?』
『いや…。』
『そうですか…』
『…ただ、気付いただけだ。』
『…は?』
『…王になるべきは、カノン様では無い。』
『ミズキ様だ。』
『…なにを。』
『この国は間違っている。』
『この国を正す為…反乱を起こす。』
『何を言うんですか…!?』
『止められるものなら止めてみせろ。』
そう言って去っていった彼の背中を何も言えずに見送った。
何も出来なかった。
無力な自分は一人では何も。
だからと言ってただ反乱が起こるのを待っている訳にはいかない。
バルドの発言を他の従者に伝えた。
しかし皆、相手にしてくれなかった。
それどころか、側近の地位を得られなかった事を逆恨みしているのか。と侮辱される。
いつのまにか、味方がいなくなった。
そんな自分の事を唯一信じてくれたのは王だった。
王はもしもの時の為に、自らの息子…カノン様を異世界に行かせた。
その目的は、異世界の住人と交流し、その力を貸してもらうためだ。
龍人族の力は強すぎた為、昔から龍人族の力を抑える魔法があった。
それを使われてしまうと龍人族はただの人となってしまう。
それと同時に、その魔法が無ければ反乱などおこせない。
その魔法は解くことは出来ない。
しかし、無効果にする事はできる。
異世界の住人の魔力はその効果がある。
カノン様は幼いながらそれを理解し、役目を果たす為、両親と離れ異世界で暮らし始めた。
当時、カノン様5歳。ミズキ様6歳。
悲劇は…その5年後に起きた。
珍しく、ミズキ様と王、王妃が一緒に食事をしていたのだ。
その時だろう。
王、王妃の食事にミズキ様が毒を盛ったのは。
従者もミズキ様がそんな事を考えているとは思わず、親子水入らずの時を過ごしていると思っていた。
しかし…なにか…なにかが腑に落ちない。
何故…もっと早く様子を見に行かなかったのだろう。
様子を見に行った時、まず見えたのは真っ赤な部屋と寄り添う様に倒れている王と王妃。
そして、倒れている赤い髪の小さな身体。
王と王妃の息は既に無かった。
だがカノン様は気絶しているだけのようだ。
それだけが救いだった。
しかし、10歳の少年には余りにも辛い現実だった。
『兄貴が…っ!兄貴がぁ…っ!!』
その言葉にミズキ様まで失った事を知る。
あの時…不審には思っていた。
ミズキ様の遺体が無い。
しかし、王が亡くなった事で後の王がカノン様になり、そして側近が自分となった。
そのせいで、カノン様も自分も多忙になってしまった為、結局ミズキ様の葬儀は遺体の無いまま行われた。
葬儀の後、家族の墓の前に佇むカノン様の顔が忘れられない。
その時だった。この方に一生仕えていくと決めた。
『カノン様…。』
『……。』
『私は…生涯、貴方様にお仕えいたします。』
『貴方を…護りますよ。』
『なら…お前は俺を護れ。俺は…』
『俺はこの国を護る。』
『そしたら…お前も、国のみんなも護る事になるだろ?』
『だから…お前は俺を護れ!命令だ!』
『…御意。』
誓った事は…今でも覚えていますよ。
今でも…ね。