第七十ニ話◇
ーカノンsideー
「バルド!!」
視界が真っ赤に染まる。
バルドが倒れると俺の頬に血が飛ぶ。
あれ…おかしいな…?
さっきまであんなに慌ててたのに…自分でも驚くほど…
冷静でいられる。
あ…。やべぇ…。
ジルクに頼まれた資料にまだサインしてねぇや…。
あと商店街のガキ共と遊んでやんなきゃな…。
それからアスカが飴が無くなったって泣いてたな…。
「カノン!!」
あれ…?いつの間に壁に穴があいたんだ?
つーか…そこにいんのはヒナタとジルクか?
ジルクはともかく…ヒナタ…なんでお前がいるんだよ…。
「ミズキ様…何故…貴方様が…!?」
そーいや兄貴もなんでいるんだ?
「なんで?じゃあ逆に聞くけどさ。」
兄貴が青い髪を揺らしながら言う。
「本当に反乱を起こしたのがバルドだと思ったの?」
「どういう…事ですか?」
「あはは!傑作!!本当にバルドだと思ってたんだー!!」
身体を震わせながら笑って言った。
「反乱を起こしたのは…」
「この僕張本人だよ。」
ああ…。そういう事か。
笑えてきた。
「何故ですか!?」
「何故?当たり前じゃん。」
「復讐だよ。」
「父上に、母上に、愚弟に、従者に、そして民に。」
「みんなみんな蒼の僕を…王族として異例な僕を認めなかった。」
「信頼も、地位も!全てをこの僕より劣ってる…」
「この愚弟が手にしたんだよ!!」
「がっ!!」
「カノン!!」
兄貴に腹を蹴られてふっ飛ぶ。
いてぇな…。こっちにあたるなよ…この馬鹿兄。
「ではバルドは…。」
けろりとして兄貴が答える。
「僕が操っただけだよ。バルド自身は反乱なんて起こす気なんて微塵も無かっただろうね。」
「カノンは見たと思うけどバルドが僕を殺すなんて事は実際起こって無かった。全部僕の幻術。」
「ではバルドが私に反乱を起こす素振りを見せたのは…」
「僕が操ったから。みんなバルドの方に注意がいってたから父上と母上の食事に毒をいれるのも楽だったよ。」
…へらへら笑ってんじゃねぇ。
「…そうですか。」
ジルクが剣を構える。
「たった今。私の中で貴方は敵と認識しました。」
「…覚悟。」
一気に兄貴の目の前まで踏み込み、剣を降り下ろす。
けど…
「バルド。」
兄貴のその一言で今まで床に伏せていたバルドが立ち上がり、ジルクに攻撃する。
「くっ!!」
しかしギリギリの所でバルドの太刀筋を防ぐ。
ボロボロなジルク。
だけど余裕が無いのはジルクだけじゃない。
は、は、と短く息を吐くバルドの身体からもさっき俺がつけた傷から血が滴る。
その目は血走っていて、もう自我が無いみたいだ。
「ジルクの相手は頼んだよ。」
そう言いながら膝をついている俺に近づいてくる足音。
「僕は楽してこの雑魚を倒したいからね。」
兄貴の口が歪む。
雑魚か…。
「カノン。聞こえるかい?」
「本当にお前は弱いね。父上や母上…民には信頼されてたみたいだけど。」
「何も出来ない。何も護れない奴を王にしてどうするんだか。」
やれやれ、と肩をすくめる。
「本当に…何故…お前が王に…。」
1トーン下がる兄貴の声。
「何故お前が!王に選ばれたんだ!!」
「待ちなさい!!」
声の方を見ると弓を構えたヒナタ。
「…誰?君。」
苛立ちからか不機嫌そうな声。
馬鹿…下がってろよ…。
「誰だって良いでしょ!?カノンから離れなさい!!」
「なるほどね。やれやれ…。」
頭の上からため息が聞こえる。
「異世界からの子か…。でもね。僕…。」
「部外者に、興味ないんだ。」
「きゃっ!?」
小さな悲鳴が聞こえる。
ヒナタの手足が動かせない様に氷によって固められていた。
「さて、と。」
俺に向き直る兄貴。
「やっと…やっと、お前を殺せるよ。」
「なにも出来ない。なにも護れない。」
「そんなお前がなんで王に選ばれたんだろうね?本当に。」
首を傾げていた兄貴がポンと手をうつ。
「あ、分かった!」
「…民が、愚かだったんだね。」
「さよなら。カノン。」
はは…。駄目だ…笑える。
スローモーションの様に兄貴が剣を降り下ろす。
ヒナタが俺の名を叫んでいる気がした。
ギンッ!!
戦いが始まってから聞き飽きた位の刃と刃が交わる金属音。
兄貴の剣を受け止めた時に思ったより大きく響いた。
剣越しに見える兄貴の驚いた顔。
「ははは…。違いねぇや。」
自分で笑える位掠れた声だった。
「けど…」
「てめぇが王になれなかったのは民のせいじゃねぇ…!」
「民は愚かなんかじゃねぇ!!」
「てめぇが愚かだったせいだよ!!この馬鹿野郎!!!」
「っ!?」
この馬鹿の剣を力一杯弾く。
俺を睨むこいつの目を睨み返してやる。
「てめぇが全部元凶なんだろ!?ならてめぇを倒せば終わる!!」
「ミズキ!!てめぇをぶっ倒す!!」
それで…全部終わらすんだ。