第六十九話◇
ーヒナタsideー
「あれ…!」
アスカと城を出てから何分くらい走ったんだろう。
遠くに見える金色の虎。
「もしかしてヴォルト…!?」
ヴォルトが熊と戦っている。
その周りではドラグレイドとガルムの兵がデルトの兵と戦っている。
「アスカ!お願い!」
「ワンッ!」
アスカに頼んでヴォルトの所まで急ぐ。
「ガァァァァ!!」
「グォォォォ!!」
雄叫びをあげるヴォルトと熊。
「ヴォルト!!」
その後ろに近づく私。
『ヒナタ!?』
頭の中にヴォルトの声が響く。
するとヴォルトが後ろに跳んで熊と距離をとる。
「カノンは!?」
『中だ!城の中!!』
ヴォルトが城を見ながら叫ぶ。
その後ろに爪を光らせた熊。
「ヴォルト!!」
『ッ!?』
私が叫んでももう遅い。
「グォォォォ!!」
熊の雄叫びが辺りに響き、爪をヴォルトに降り下ろす。
「ッガァァァァ!!」
爪が胴体に当たりヴォルトが悲鳴をあげて吹き飛んだ。
「キャンッ!」
「きゃあ!!」
ヴォルトが倒れた衝撃で私とアスカも吹き飛ばされる。
「いっつ…」
瓦礫の中、起き上がると右足首に鋭い痛み。
右足首を見ると血が滴っていた。
「この…くらい…!」
痛みに耐えて辺りを見るとアスカの姿が見えない。
「アスカ!どこ!?」
「クーン…」
か細い鳴き声。
「アスカ!?」
鳴き声を辿るとアスカの下半身が瓦礫に埋まっていた。
アスカの上の瓦礫を退かそうとするが重くてとても私じゃ持ち上がらない。
「!?」
突然殺気が私に向けられる。
「グルルルル…!!」
バッと後ろを見ると先ほどまでヴォルトと戦っていた熊。
弓を構えようとするが、先ほど吹き飛ばされた時に私の手から離れてしまっていた。
「グォォォォ!!」
爪が私に迫る。
「ッ!!」
思わず目を瞑った瞬間。
「ガァァァァァァァ!!!」
雄叫びと共に、凄い勢いでボロボロのヴォルトが飛びかかる。
バチバチと電撃が音をたてながらヴォルトの前足に纏う。
その前足が熊の身体に突き刺さる。
「グォォォォォォ!!」
暴れるがヴォルトは離れない。
それどころか熊の首に噛みつく。
『ォォオラアアアアア!!!』
叫びと共に巨体が宙に舞う。
ヴォルトが熊を投げた。
倒れても容赦しない。
そして止めとばかりに電撃を放つ。
「グ…ギャアアアア!!」
断末魔と共に動かなくなる巨体。
ガラッ…とヴォルトがアスカの上の瓦礫を退かしてくれた。
『俺達にはまだ敵がいる。』
ヴォルトが私に語りかける。
確かにまだデルトの兵との戦闘は終わっていない。
『行けよ。ヒナタ。アスカは俺が守る。』
「うん!」
私は城へ駆け出した。