第六十四話◇
「バルド…!!」
短い黒髪を揺らしてクスクス笑うバルド。
「苦戦するのも当たり前ですね。それは貴方達が戦ってきたのとは少し違いますから。」
「…?」
ジルクが不審そうにバルドを見る。
「…どういう事だよ。」
俺が不機嫌丸出しで問うと笑みを絶やさずに言った。
「普通の兵では貴方達の足止め程度にしかなりません。なので少し仕掛けを施したのですよ。」
仕掛け…?
「カノン様の炎とジルクの風…その二つは『それ』には通用しません。」
それ…鎧の兵士を見ながらバルドが言う。
こいつ…!!
「テメェ!!兵士を…生き物を物扱いしてんじゃねぇ!!」
俺が怒鳴ると嘲笑う様に奴は言った。
「ならば貴方はどうなのです?」
「!?」
「兵士を操り、戦争を起こす。道具を使っているのと同じ様なものでしょう。そして壊れたり、傷つけば捨てる。」
「そんな…っ!!」
反論しようとした俺をジルクが手で制す。
「主人の為ならば物になる。そう決めたのは我々従者。使えない物は捨てられる。それは仕方の無い事ですよ。」
「ジルク!!」
そんなの許さねえ!!
「カノン様。」
ジルクの声に顔をあげる。
「兵を使い、戦わせる。そして時には斬り捨てる。それが…」
「それが王です。」
「…ッ!!」
ジルクの言葉に何も言えなくなってまた俯く。
「…相変わらず子供のままですね。」
「ジルクを、殺しなさい。」
鎧の兵士に命ずるバルドの声が聞こえる。
「カノン様。御命令を。」
…そーかよ。
「…分かった。」
「ジルク。あの鎧を倒せ。命令だ。」
「御意。」
満足そうに笑ったジルクが剣を構える。
俺の相手は…バルドだ。