第五十八話◇
一ヶ月は早かった。
あっと言う間にその日はやって来た。
ホントは来てほしくなかった。
まだ決心してないのに…。
「……。」
ガルムの兵もドラグレイドに全員着いている。
後はカノンの号令だけらしい。
「ヒナタ様…」
「ジルク…」
外に行こうと廊下を歩いていた私に戦闘服の黒いコートを身に着けたジルクが近づく。
「なんか…もう分かんないや…」
「カノンがバルドを殺すって言った時店辛そうな顔してた…。…バルドとカノンは仲良かったの?」
「…ええ。良いなんてほどではなく…。」
「そっか…。」
なら…やっぱり…
知らない間に弓を握り締めていた。
「間違ってるよ…カノン。」
「何やってんだ?ヒナタ、ジルク。」
後ろから聞こえる声。
カノンだ。
赤いコートが赤い髪と似合う。
「カノン…私考えた…。」
けど…
「けどやっぱりこの道しか無いの?」
「…今さら…何言ってんだ?」
カノンが少し怒った口調で言った。
「でもやっぱり間違って…」
「お前は!!」
私の声を遮る怒声。
「…あれを見てないから…。」
カノンが俯いて言った。
…『あれ』?
「ヒナタ…お前を連れてきたのはこっちだ…けど」
「やっぱりお前は…城に残ってろ。」
「え…?」
「元々無理やり連れてきたに近いんだ。」
待ってよ…。
「戦争に参加させるなんて俺達の我儘だ…。」
カノン…
「悪い…。」
なんで…
「ジルク!行くぞ!!」
「待って!カノン!!」
「カノン様!!」
叫んでも…届かない。
カノンは私とジルクを置いて行ってしまった。
「…なんで」
なんで…今更…
「申し訳ありません…ヒナタ様…。」
「カノン様はご家族を目の前でバルドに殺されたのです…。」
そうだった…
なら…私は…
「酷いこと…言った…。」
「…カノン様ならお気になりませんよ。」
「行って参ります。」
一礼してジルクもカノンの後を追った。
私は…
ただただ立ちすくむ事しか出来なかった。