第二十七話◇
「説明はこんなもんだな。」
うん。大体分かった。
私が頷くとカノンは続ける。
「これから戦争が始まる。戦争の最中は俺の近くにいてもらう事になる。」
そうだ…。戦争が始まるんだ。
「カノンは…人を殺すの…?」
小さい声だったけどカノンとジルクには聞こえたらしい。
二人共目を見開く。
そしてゆっくりとカノンが言った。
「ああ。」
「なんで…人殺しになりたい訳じゃないでしょ?」
「当たり前だ。…でもな。」
「奴らのせいで北部の街が一つ焼き払われた。」
…え?
「あいつらのせいで泣いた奴がこの国にたくさんいるんだ。家族…親友…恋人を失った奴らがな。」
「どうしても…どうしても許せねえんだ。」
いつも勝気な赤い目はなんだか寂しそうだった。
「あいつらには大事な物を失ったときの悲しみが分かんねぇんだよ。」
「大切な物を失くした奴らが人を殺して手を汚す必要はねぇ。」
「手を汚すのは…俺達だけで十分だ。」
カノンが言う『俺達』というのは国の人間の事かな。
「お前に手を汚せとは言わない。頼む。力を貸してくれ。」
赤い目が私を捕らえる。
…カノンは純粋にこの国を救いたいんだ。
なんでだろう。
力を貸してあげたい。
私が小さく頷くとカノンとジルクがほっとした顔になる。
「俺は…俺はデルトの国王を殺す。」
カノンの意志がこもった低い声。
けどその声を遮ったのは…
「お言葉ですが…」
意外にもジルクだった。
「なんだジルク。」
カノンがジルクに問う。
「よろしいのですか?デルトの国王はあなた様の…」
「ジルク!!!」
ジルクが言葉を最後まで言う事は無かった。
カノンが怒鳴り声をあげる。
「その話は…しなくて良い…っ!!」
感情を押し殺したようなカノンの声。
「…失礼しました。」
「いや…悪い…。」
カタンという音と共にカノンが椅子から立ち上がる。
そしてそのまま部屋を出て行ってしまった。
「申し訳ありませんヒナタ様。」
「大丈夫。だけど…どうしたんだろう?」
長い間私はカノンが消えていったドアを眺めていた。