桃太郎異聞
その惑星では、王家に対する謀反が起きていた。
反乱軍は王宮の中まで攻め込み、王家の滅亡はもはや避けられなかった。
若き国王夫妻は、塔の最上階にある転移装置に向かっていた。
生まれて間もない王子を逃がすために。
王子を保護カプセルに入れ、護衛として三体のロボットをつける。
自分たちは、この転移装置で転移することはできない。
装置を動かす者、装置に魔力を注ぐ者が、必要なのだ。
そして無事王子を転移させた後、追跡されないために装置を破壊することも必要だった。
王妃は泣いていた。
二度と王子に会うことはないかもしれない。
でも生き延びてほしい、そう思いながら装置に魔力を注いだ。
国王も我が子の無事を祈りながら、装置を作動させた。
転移装置の起動、一瞬のまぶしい光の後、王子を入れたカプセルとロボットたちは、転移した。
ロボットたちは、転移の直前、なだれ込む反乱軍の兵士を確認した。
しかし危ういところで間に合ったのだ。
やがて故郷の惑星から遠く離れたこの星に転移した。
到着後、ロボットたちは、この星の調査をし、まだ赤ん坊の王子を住民に託して育てさせることにした。
この星の住民に紛れた方が、万が一追手が来た時にも見つかりにくい。
なにより三体とも、護衛には良いが、子育てには向かないタイプのロボットだったのだ。
どの住民に預ければよいか調べ、選ばれた夫婦のもとに王子を託す。
自分たちの姿は、この星の住民とはかけ離れているので、見せられない。
慎重に王子を託すタイミングを見計らう。
ある日、選ばれた夫婦の妻の方が、川へ洗濯に行った。
チャンスだ。今しかない。
川の上流から、カプセルをそっと流れにのせる。
カプセルはこの星の果物に似せて、桃型にした。
ちょっとばかり大きいが、桃である。
桃型カプセルは、どんぶらこ、どんぶらこと
選ばれた夫婦の妻、おばあさんのところに流れ着いた。
その様子を木の上からじっと見ていた猿がいたことを、おばあさんは知らない。
びっくりするほど大きな桃を拾ったおばあさんは、なんとか家に持ち帰り、
おじいさんと割ってみた。
中からは玉のような男の子が出てきた。
大きな桃から生まれたので、桃太郎と名づけ、ロボットたちの見込み通り、愛情たっぷり、大切に育てた。
王子改め桃太郎は、すくすくと大きくなり、りっぱな若者となった。
桃太郎の成長を陰から見守っていた、猿型ロボット、サルーン。
雉型ロボット、キジー、そして犬型ロボット、ドク。
三体は、ずっと桃太郎を見守っていた。
側に近づけるのは、犬に見えるドクだけだったけど。
成長した桃太郎に、感慨ひとしおである。
桃太郎の種族は、この惑星の住民より長命で、身体能力も高い。
おじいさんの畑の手伝いをしたり、村の住民を襲う熊や狼の退治をして毎日を過ごしていた。
ある日、ドクが情報を持ってきた。
鬼が島というところに住んでいる者の中に、母星からの追手らしき者がいると。
王子を探していたが、見つけられず、そのうち手下を集めて海賊同然になっているらしい。
彼らは、近隣の村を襲っては、金を奪い、娘をさらっていく。
村では、鬼と呼んで恐れている。
「このままここにいると、おじいさん、おばあさんに迷惑がかかる。
追手に気づかれる前に、こちらから攻めてしまおう。」
幸い追手は、一人らしい。
あとは、近くのごろつきを集めた者たちのようだ。
桃太郎とロボットたちで十分倒せるだろう。
おじいさん、おばあさんに鬼が島に鬼退治に行くと伝えると、
おじいさんは、刀や鎧を用意してくれ、おばあさんは、きびだんごを作ってくれた。
なぜきびだんご?
それでも桃太郎はおばあさんの心遣いが身に染みた。
桃太郎は、鬼が島を目指し、三体のロボットたちと出発した。
多少目立ったが、きびだんごでお供にしたことにして。
普通は、きびだんご一個で鬼退治を手伝ったりしない。
嘘っぽい苦しい言い訳だ。
到着した一行は鬼が島の根城に突入する。
キジーが空から入って、門の扉を開け、
サルーンが屋根に上って偵察をする。
見張りの位置を確認し、桃太郎に合図を送る。
桃太郎はもちろん強い。
刀を振るって、大活躍だ。
ロボットたちもキジーが空から攻撃したり、
サルーンが鋭い爪で引き裂いたり、
ドクが鋭い牙で噛みついたり。
一応護衛用ロボットなので、慣れたものである。
頭領との一騎打ちでは、危なげなく桃太郎が勝った。
やがて鬼が島の一味は、降参した。
「母星からの増援は、もう来ないよ。
俺が送られた後、装置が壊れたみたいだ。
すごい爆発音と、閃光がしたからね。
もう命令を聞く必要もないから、見逃してくれ。」
ロボットたちと相談した桃太郎は、鬼の頭領を見逃してやることにした。
どうせ人里離れたところに隠れて住むしかあるまい。
頭に立派な角が生えているんだし。
ロボットたちに聞くと、故郷の星では、角のある種族もいるそうだ。
反乱を起こしたのも、その一族らしい。
桃太郎は、鬼が村々から奪った金や娘たちを取り返し、元のところに戻した。
おじいさんとおばあさんは、桃太郎が無事戻ってきたことを喜び、その後幸せに暮らした。
しかし桃太郎は、長命種である。
一つ所に長くは住めない。
おじいさんとおばあさんを看取った後、桃太郎は名を変え、姿を変え、数百年を生きた。
今は、桃太という名で、都内のペット可のマンションで暮らしている。
さすがに雉と猿は同居できないので、犬のドクと二人暮らしだ。
「桃太郎の昔話で、一つだけ納得が出来ないんですよねぇ」
「へぇ、どこが?」
「きびだんご一個で家来になるところが。
我々の忠誠心はそんな安いもんじゃない!
たかがきびだんご一個で買える忠誠心では、ないのです!」
「まぁその方がお話として面白かったのかもね。」
桃太郎とドクは、好物の岡山名物・きびだんごを食べながら、
そんな話をしていた。




