墓荒らし
「ええー。聞こえますか? スマホの電池残量的に、そろそろ動画を送るのがきつくなってきていまーす」
そう言って彼女はスマホをどこかに立てかけて、パイプベッドの方に向かいました。
斜め下から見上げるようなアングルで櫻子氏とパイプベッドが映っています。ベッドの上の亡骸は見えません。
「なんまいだーなんまいだー」
彼女はそう言って亡骸に手を合わせ始めました。
ふざけている様にも、死者を悼んでいるようにも見えるのはなぜでしょうか?
手を合わせる櫻子氏が亡骸を眺めながら口を開きました。
「死者の声を聞く方法は、古今東西枚挙にいとまがないけれど、私は本物に出会ったことがまだなくて。いやいや。深川くんの霊感を疑っているわけではないよ? ただね、今話しているのは、こういう目の前の死者の言葉を聞くというやつさ。亡くなった故人の声を聞きたいと願う人は大勢いるだろう? そういう人に死者の声を届ける話なんかもあるにはあるが、故人しか知りえない情報かつ公平性が担保されている――そうだねえ……例えば銀行預金の暗証番号なんかを聞きだせないんじゃあ、それを本物と信じることは私には出来ないんだよ」
彼女が何の話をしているのか僕には理解できませんでした。
ですが途轍もなく厭な予感が胸の中に膨らんでいくのがわかります。
「ふふふ。何が言いたいかというとだね、つまり死人にクチナシ。死者に聞いても仕方がないということだよ。じゃあどうすれば死者の声を聞けると思う?」
僕はますます混乱しました。
いったいこの人は何を言っているのでしょうか?
そんな僕を見透かしたかのように、彼女はカメラの方を見てゾッとするような笑みを浮かべて言いました。
「墓荒らしさ。生きているものに聞けばいい」
生きているもの? 墓荒らし?
僕が狼狽しているのを見ているかのように彼女はくくくと含み笑いして立ち上がり、亡骸の方に両手を伸ばします。
「簡単だよ。このラップトップは、まだ生きているかもしれないだろう? こいつに聞けばいい」
骸の強張った腕がパキパキと音を立てて、最後の抵抗を示していますが、彼女はお構いなしに亡骸を損壊してラップトップを剥ぎ取りました。
ラップトップを抱えた彼女が画面に近づいてきます。
ひらひらと見せびらかしたノートパソコンの表面には、骸から染み出した赤茶けた体液の痕跡が手形となってくっきりと残っていました。




