包帯巻きの少女
「それ、録画していらっしゃるの?」
少女の包帯越しの視線がスマホのカメラに向きました。
録画した動画ファイルであるにもかかわらず〝確かに目が合った〟そう思いました。
「そう。仕事柄、人との会話は記録に残しておきたくてね。嫌ならやめようか?」
櫻子氏がそう言うと、包帯の向こうで少女が微笑みました。
「構わないわ。お仕事って記者さんとか?」
「そんな立派なものじゃないけど、まあそんな感じかな。名前を聞いても?」
「じゃあ、空蝉なんてどうかしら? 私にピッタリだと思うの」
「構わないよ。うつせみちゃんはどれくらい入院しているの?」
「うんと長いこと。誰も見舞いに来やしないわ。最近じゃあ看護婦さんまで滅多に来なくなちゃったのよ?」
「忙しいのかもね。私の方も似たようなもんだよ」
「お互い寂しいわね」
「そうでもないよ。気楽なもんさ」
バチン……と窓に何かがぶつかる音がして、画面が窓に向けられました。
その様子を見て少女はクスクスと笑います。
「櫻子さんは虫がお嫌い? 大袈裟ね」
「東南アジアに住んでいた時に、顔に巨大な蛾が止まってね。それ以来反射的に反応してしまうというわけさ」
「東南アジ。外国ね。外国になんて行くからよ」
「外国は嫌い?」
「今はね。だってきっと行けやしないんだもの」
バチン……
また窓に虫がぶつかる音がしました。音からしてかなりの大物です。
同時に少女が布団から両手を出して身を捩り始めました。
少女の腕は肘から先がありません
短く丸まった腕の先には包帯が巻かれ、黄色い膿が染みていました。
「櫻子さんお願いを聞いてくださる?」
「私に出来ることなら。どんなお願いだい?」
「背中を掻いて頂きたいの。この通り、私ったら腕が無いでしょ? 背中が痒くてもちっとも届かないのよ! 忌々しいったらありゃしない」
「お安い御用だよ」
そう言って櫻子氏はベッドに近づいて行きました。
しばらく進んで、一瞬だけ足が止まります。
その時画面に何かが映りましたが分かりませんでした。
なので私は動画を止めて巻き戻し、スローでもう一度再生しました。
それはベッドの脇に積まれた糞尿の山でした。
見たことも無い幼虫や蛆が汚物の山の中を泳ぎ回っているのです。
櫻子氏は湧きだしそうになる生理的な嫌悪の反応を笑顔で抑え込んでいたのでしょう。
再び画面に映し出された少女はにっこりと笑っていました。
座りなおって背中をこちらに向ける少女に櫻子氏は手を伸ばしました。
薄い入院着の上に爪を立てると、少女は「あぁ……」と官能的な吐息を漏らしてこう続けました。
「もっと激しい方がいいわ。服を脱がして、直接掻いて下さらない?」
一瞬言葉に詰まった櫻子氏を逃がさぬように、少女はさらに続けます。
「もしかして嫌なの?」
その声は先ほどまでとは打って変わって、底冷えするような冷たいものでした。




