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櫻子氏からの動画ファイル①

「ええー。それでは楽園――もとい化粧室。いつも通り言うなら便所を目指して、病室を飛び出そうと思います。見えますかー?」

 

 鼻ピアスと刈上げたツーブロックが見えた気がしたけれど、僕はそれに突っ込むことはしなかった。

 

「取材情報が詰まったボイスレコーダーです。これを投げるのは断腸の思いではあるのだけれど……本当に腸をぶちまけかねないのでいたしかたない。ということで、投げまーす」

 

 櫻子氏はそう言ってボイスレコーダーの電源を入れると、あらかじめガムテープを貼ってあった窓を叩き割りその隙間から放り投げた。

 

 カツカツとボイスレコーダーが廊下を打つ音がして、その直後、小さな窓の向こうをぬめぬめとした赤茶の巨大ミミズがのたうつように通り過ぎるのが画面に映る。

 

「見た⁉ ヤバいっしょ⁉ リアルガチモンスターパニック‼」

 

 そう言って櫻子氏はそっと扉を開き、そこからするりと部屋を抜け出した。

 

 一瞬だけカメラを後ろに向けると、そこにはミミズの玉が出来ていた。

 

 幼い頃に、排水溝の中で無数のミミズがとぐろを巻いているの見た記憶が蘇り、僕は思わず噎せそうになる。

 

 カメラは進行方向に向き直り、静かに確実に前へ進んでいく。

 

 聞こえてくるのは櫻子氏の押し殺したような息遣いだけだった。

 

 まったくこの人は、いつも足音を立てない……

 

 僕がそんな事を思っていると、櫻子氏は階段に向かい下の階へと降りて行った。

 

 二階分階段を下ると、そこで櫻子氏は廊下に向かい、スマホだけを廊下に差し出し状況を確認する。

 

 画面には誰もいない病院の廊下が非常口のランプで緑色に照らされているのが映っていた。

 

 通路の両側を同様に確認してから、櫻子氏は廊下に出て歩き始める。

 

 しばらく進むと画面にはトイレの札が映し出され、画角にサムズアップした手が割り込んできて、映像は途切れた。

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