昆虫歳時記の最終回
昆虫歳時記
タイトル【僕の死に様】 20■■ 07/20 12:03
『動画を再生する』
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以下は再生した動画の概要になります。
閉め切った薄暗い部屋の中、カーテンから外の光が差し込んでいる。
床は恐らく畳で、座卓と座椅子、空き缶やカップ麺の容器が散乱しているのが確認できるが、逆光で詳細は不鮮明。
画角の真ん中には蛍光灯から伸びる紐が映っている。
唐突にマイクを叩いたようなコツコツという音がして男の声が聞こえる。
「ええーテステス。入ってますか? って誰も聞いてないか(笑)」
男の乾いた笑い声。恐らく年齢は40後半~60歳前後と思われる。
「ええー。昆虫歳時記をお読みいただき、まことにありがとうございます。実はですね、ほとんどブックマークもされていないし、PVも毎回一桁なんでね、誰も読んでいないと思ったんですが、あなたが見ててくれたんですね? 光栄です。最高の気分です。僕の見た未来は正しかった。だってあなたが見てくれてるんだもの」
男が鼻をすする音。おそらく泣いているものと思われる。
「ええ。最終回に相応しいです! 僕はね、生まれ変わったら蝉になりたいです! わかりますよね? だって七年耐えれば、お日様の下、晴れて結婚できるわけですよ? ええ。それって、ちっとも孤独じゃありません。僕は七年どころか、うん十年経っても結婚なんて縁がなかったですからね! 友達もいません。今これを見ていてくださってるあなただけです!」
逆光の中に男の黒いシルエットが現れる。ずいぶん恰幅がいいのが見て取れる。
「ご覧の通り、百貫デブってやつです! 140キロあります! でもね、病気なんです。脳の満腹中枢が先天的に機能してないんです。体臭も先天性のものです。毎日お風呂にも入ってます。でも、全然ダメなんです。治療を受けられるだけのお金もありませんし、どうしようもないじゃないですか? ねえ?」
男は座卓の上に乗って天井に両手を伸ばす。
「なので、この登山用のザイルロープ。いわゆる命綱ってやつですね。これは300キロまで耐えられるものを選びました。それと、じゃーん! わかりますかー?」
金属の器具をカメラに見せるが、ピントが合っておらず不鮮明。
「これは滑車です。これをまずは天井の鉄筋部分に固定します。天上の板はもう剥がしてあるんで、あとはこうやって……はい! カチっと挟むだけですね!」
男は滑車にロープを通して、ロープの一端を画面の外に持っていく。
「はい! あっちにね、巻き取るための電動ドラムがあるんですけど、リモコン式です。高かったですよー? 皆さんも利用できるように、アマ■■リンクを貼っておきますね?」
男は自分の足にロープを結んでカメラの前に立った。
「では、只今より、卒業式を開催いたします。ご来賓の蝉様に心より感謝申し上げます。また動画の前のあなたにも、素敵な未来があらんことを、心よりお祈り申し上げます。本日は窓の外は快晴です。金色の光で満ちています。ここは暗闇。糞みたいなワンルーム。僕は■■■■■■者の■■虫ですが、今から陽の光が燦燦と照らす外の世界に飛び出します。お父さん。お母さん。僕を産んでくれてありがとう! 命讃頌! 人生賛歌! 僕はこの地下世界から卒業します!」
男は首の前で手を振ると同時に、リモコンのボタンを押して投げ捨てる。
じーーーとロープが巻き上げられる音がして、男の身体が逆さ吊りになる。
男からは逆光で黒く見える液体が滴り、身体が何度も跳ねるように動いた。




