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最後の動画


「深川くん見えるかい? 蝉様の足元にまで来たんだ。絶景だろう?」

 

 そう言って櫻子氏はカメラを上に向けました。

 

 全身に生えた無数の目玉を動かす蝉様が、櫻子氏の真上に浮かんでいます。

 

「滝は蝉様の尻尾に降り注いでいるらしい! そして彼に登るなんて言うのは到底不可能だ!」

 

 櫻子氏は興奮した声で叫びました。

 

 それもそのはずです。

 

 周りに乱立する木々の幹、その全面に蝉がへばりつき、渾身の声で絶叫しているのですから。

 

 宙に浮かぶのはまさしく蝉の王でした。

 

 どこまでも果てしなく続く森に住まう全ての蝉たちが、その王に賛美の絶叫を捧げているのです。

 

「きっとこの蝉、元は人間だよ! 見てごらん!」

 

 そう言って櫻子氏は木に近づきます。どんどんと蝉の姿が大きくなっていきました。

 

 櫻子氏が蝉のすぐそばにまで近づいた時、それが人間の成人ほどの大きさであることが分かり、私は思わず嘔吐しました。

 

「あの少女、自分は空蝉だと言っていた。つまり抜け殻だね。では中身は何処に行ったのかということになる。つまりこの中のどれかだ! リネン室の奥にあった男性の遺体。あれは閉じ込められたんじゃない。どうやったかは分からないが、恐らくこうなることを恐れて自分であそこに入ったんだよ! 彼の魂が死後どうなったのかは知る由もないけれどね! ははは!」

 

 彼女は何がおかしいのか、大声で笑い始めました。

 

 ついに精神が崩壊したのではないかと不安になりましたが、再び彼女は自分の顔にカメラを向けてぎらつく目でレンズを見据えて妖しい笑みを浮かべます。

 

「つまりここで待っていれば、確実に蝉の仲間入りして泣き続けることになるわけだ! どこかに自分を閉じ込めても、魂がどうなるかなんてわからない! きっと良くないことになる! と言うことはだよ? 私が滝に辿り着くためにすべきことは一つしかない!」

 

 そう言って彼女は地面に落ちた太い木を拾い上げました。

 

 嫌な予感しかありません。

 

 彼女はスマホをどこかの木に立てかけて自分の全身が映るように調整しました。

 

「見ていておくれ! 今からすることは未だ誰も成し得なかった偉業といえるだろう! 神に面と向かって喧嘩を売るんだから!」

 

 そう言って彼女は手近な蝉の頭部目掛けて木の棒を振り抜きました。

 

「みぎぃいいいい」と蝉の悲鳴が聞こえ、白い汁が吹き出します。

 

 けれどもその悲鳴はすぐに、他の蝉たちの声でかき消されてしまいました。

 

「一匹じゃ足りないか⁉ おい! デカブツ‼ お前の可愛い蝉ちゃんがスイカみたいにカチ割れてんぞ⁉」

 

 そう言って彼女は手当たり次第に蝉の頭を砕いて歩きました。

 

 異変はすぐに現れました。

 

 ぐおん……ぐおん……と巨大な鐘が響くような音が鳴り、蝉たちの声が途切れ始めたのです。

 

「ははは! 深川くん! 一か八かさ! 人生みたいなクソゲーをクリアするにはね、正気でいちゃあ不可能なんだよ! ゴータマもイエズスも言っているだろう? 自分を殺……」

 

 ぐぉちゃあ……

 

 形容できない悍ましい音が響き、櫻子氏を頭上から降りて来た蝉様が呑み込みました。

 

 巨大な蝉の怪物は全身の目玉を怒りで震わせながら、蜘蛛がそうするようにスルスルと上空に戻っていき、画面の中からいなくなりました。

 

 いつの間にか再び鳴きだした蝉の声以外に、動画から聞こえる音はありませんでした。

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