櫻子氏からの動画
見るとそこは病院の中ではなく外でした。
鬱蒼と茂る森が延々と広がり、そのこに開けた砂利地の上にポツンと組蔵代総合病院が立っています。
三階に割れた窓が見えることから考えると、櫻子氏はそこから脱出したのかもしれません。
しかしそんな事よりも、動画に映る巨大な影が僕を絶望させました。
森の奥にそれはいます。
天から降り注ぐ滝を糸に見立てて逆さ吊りにされた女のように羽を広げる巨大な蝉がいます。
櫻子氏はそれに向けてカメラをズームしました。
見たくなかった。
けれども僕は、やはり目が離せませんでした。
蝉の身体にはたくさんの縦線が走っています。
画像が荒いせいか、あるいは本当にそうなのかはわかりません。
けれど蝉の表面はまるでモザイクが切り替わるように細かく動いています。
それは無機的な動きではなく、あくまで有機的で生々しい微細動でした。
「ええー。あれに喧嘩を売ればいいと。そういうことでかー?」
櫻子氏の呑気な声がしました。
けれど同時に巨大蝉の身体に走った無数の縦線が割れて、中から目玉が姿を現しカメラの方を一斉に凝視しました。
無理だ……素直にそう思いました。
人間が敵いっこない相手です。
カメラ越しでさえ、その脅威がべったりと纏わりついてきます。
「次はお前だ」
目玉がそう語っているのがはっきりと分かりました。
けれどもう後には引けません。
僕はオヨメと最寄りの駅で降りて、そこでタクシーを拾いました。




