第80話 魔女、変態との契約する
大空を舞った変態は何もなかったかのように、私の目の前に降り立った。
「冗談だ。それで報酬は何がほしい?」
「んー今は思いつかないかな。とりあえずは貸し一つと一個破壊するたびに何かってところかな」
「よかろう、創生の魔女マグルス・マグル・マグナリアの名によって契約としよう」
「結構ふっかけてたつもりだけど良かったの?」
「そうは思えぬがな。おめえさんほどの能力を持つものが手を貸してくれるなら安いものだな」
そう言って変態は異空間から懐中時計のようなものを取り出し私に投げ渡してきた。それを受け取り蓋を開けてみると方位磁針みたいな物があり、変態を指し示していた。
「それを持っていれば吾の居場所はすぐわかるだろう。報酬が決まったら訪ねてくるが良い」
「わかったわ。何か欲しくなったら寄らせてもらうわ」
「それではな」
そう言って変態はマントと褌の姿のまま空を飛んでいった。相変わらずの変態っぷりで朝から疲れた。変態が去ったことでずっと感じていた予感が消えているのに気がついた、これは完全にあの変態に予感が反応していたってことだろう。
それにしてもダンジョンの破壊と解放ねー。気が向いたら少しずつ取り掛かることにしようかな。私は魔導具に関してはあまり詳しくないから、報酬で魔道具を作ってもらえるのは破格だと思う。今のところほしい魔道具はないけど。
さてと、予感も消えたことだしさっさと王都に戻るとしますか。私は変態を殴ったあとも手に持ったままだった杖に腰掛けると空へ上がり王都の方向へ進んでいく。
◆
「エリーさん、どこへ行ってたんですか? 置いて行かないでくださいよ」
「あっごめん、すっかり完全に完璧に存在を忘れてた」
「酷い!」
王都へ帰り着き一晩宿でゆっくりした。そして暇つぶしに王都の冒険者ギルドへ着いた所で男性のエルフに捕まった。このエルフはディーさんの息子のティッシモ・ユグドラだ。肌の色は褐色のディーさんとは違い白い肌をしていて、髪はディーさんと同じで銀色をしている。
銀月のエルフと陽光のエルフの特徴を併せ持つ珍しいタイプだ。ユグドラの郷にいれば一生遊んで暮らせる地位を与えられるらしいのだけど、それが嫌で郷を出てきたと聞いている。背中にはリュートを背負っていて、吟遊詩人として日銭稼いでいるのだとか。
ディーさんから、ティッシモを私の旅に同行させてほしいと言われていた。断ることも出来ないので了承したのだけど、今回のリーゼンブルグ行きには連れて行かなかった。本格的な旅でもないから……ではなくて、完全に忘れていた。
「まあ忘れてたのは冗談だけど、伝言は聞いたでしょ」
「聞きました。その上で連れて行ってほしかったのですよ。すでに凄腕の魔術師がクラーケンを倒したって噂が流れてきてまして、特徴を聞くにどう考えてもエリーさんですよね」
「もう伝わってるんだ。まあ結構のんびりしてたからね」
「それですよ。はぁ実際に見て詩にしたかったのですが」
「どう伝わってるか知らないけど、ティッシモが思っているような戦いじゃなかったよ」
「そうですか?」
「そうそう、小さめの個体だったからね」
全長百メートル級が小さいかどうかは置いておいて、クラーケンにしては小さい個体だったのは間違いではない。
「はぁ、わかりました。それを信じるとしましょう。ですが次どこか行くときはちゃんと声を掛けてくださいよ」
「わかってるって、ディーさんに頼まれたことだからね」
今度は忘れないようにしないと。
「それで今日はなにかされるのですか?」
「特に目的はないかな。暇つぶしにギルドの依頼を見に来ただけだよ」
掲示板の前に歩いて行き、依頼を眺めてみてもこれといった物は見受けられない。
「ドレスレーナ王国の王都は治安が良いですからね。魔物も騎士団が定期的に倒しているようですし」
「そのようだね。駆け出し用の王都内でできる依頼が多い感じだね」
「他の街と違い孤児の数も少ないようで、救済目的の依頼も必要ありませんからね」
「まあそれは良いことだろうね」
面白そうな依頼もなかったのでどれも受けないでギルドから外へ出る。アンジュが帰ってくるまであまり王都から離れないほうがいいのだけど、どうしたものかな。
◆
えーっと、なんか忘れている気がするんだけど何だったかな……。あっドリルちゃんか、後はガーナ達ともなにか約束してたかな? 今日はギルドにいなかったから今度会ったらでいいか。
仕方がない、とりあえずドリルちゃんのところに行くことにする。ケンヤから調味料とか預かっているらしいから受け取らないと。
「それでエリーさんはどこへ向かってるんですか? そちらは貴族区ですよ」
「あれ? なんでティッシモも着いてきてるの?」
「着いてきちゃ駄目でしたか?」
「いや別にいいと思うけど、不審者として止められたらそこまでだからね」
「私のどこが不審者ですか」
「全部?」
「酷い」
エルフというだけで珍しいのに、装いが普通じゃないので不審者として見咎められても仕方がないだろう。
「まあ冗談はこれくらいにして、ちょっとした知り合いの身内に会いにね」
「私がついていっても?」
「さっきも言ったけど止められなければいいと思うよ」
「そうですか、ならついていかせてもらいます」
話が途切れた所でちょうどケンヤの屋敷にたどり着いた。特に門番とかはいないようだけど、このまま入っても良いものなのかなと迷っていると見覚えのある女性が屋敷の入口から出てきた。確か双子の片割れでシャーリって名前だったかな。
「お待ちしておりましたエリー様、どうぞお連れ様ともどもお入り下さいませ」
そう言ってシャーリはメイド服の姿で門を開き、私とティッシモを敷地内に招き入れた。確かドリルちゃんことアデリシアの護衛騎士だった気がするけどメイド服を着ているのは謎だ。





