第59話 魔女、少しだけ本気を出す
アルダが直線的な攻撃をするのに対して、ベルダは四方から包み込むような攻撃を仕掛けてくる。私はステップを踏むようにその攻撃を回避する。そして回避しながら、アルダとベルダの二人にはわからないように魔術ではなく魔法を使う。
空気中に漂うマナに直接佐用して火を水を風を土を光を闇を、それぞれの属性溜まりをそこら中にいつでも発動できるように設置する。
それと同時に散発的に魔術の攻撃を打つことで、私が二人の攻撃を避けるのに精一杯だと思わせている。魔法を使える師匠やアーヴルなら一瞬でバレてしまうのだけど、魔法を使うことができないと思われるアルダとベルダには気が付かれないだろう。
「礫よ、纏て、降れ」
私はタイミングを見計らって一気に後ろへ飛ぶと同時に用意していた魔法溜まりに対して魔術を発動させる。全ての設置していた魔法溜まりが礫の魔術と合わさり効果を発揮する。
危険を察知したのかアルダとベルダは攻撃の手を止めて障壁を展開する。二人で張った二重の障壁は一瞬で割れてしまう。それでもなんとかしようと壊れるそばから障壁を展開しているが追いついていないのか、その身に攻撃を幾度も食らっている。
これは魔法が使える人だけが使える魔法と魔術の合成技になる。魔法だけだと直接攻撃的なことはできない、だけどそれを魔術と合わせることで世界に満ち満ちているマナを利用した攻撃魔法を行使できるというものだ。
今回は礫の魔術にそれぞれの属性溜まりを付与するように魔法をまとわせて使った。体内魔力のオドもあまり使用しないので効率はいいし、相応の威力もある。私の必殺技の一つでもある。
対処方法は意外と簡単なのが欠点かな。マナを見たり感じたりできない人には対処できないという反則技だけど、マナを感じられる人にとってはそうでもない。ちなみに対処方法は魔法を設置してる場所に、同じように魔法で干渉するか、他の方法としては魔術で風でも吹かせれば簡単に散ってしまう。
それと広域の結界を張られると、結界内では自分の周囲でしか魔法を行使できないなんて欠点もある。それでもやりようはなくもないけどね。
マナが見えなくても魔法を設置した部分はどうしても、ゆらぎのような物ができるのでそれを感じられる人ならなんとかできるかもしれない。まあ感じられても対処方法がわからなければ意味ないけどね。
アルダとベルダを襲っていた攻撃も止んで、二人がいた場所を覆っていた砂埃が晴れてくる。着ていた服は不思議な事に傷一つ無いが魔力が尽きかけているのか、二人の胸に埋め込まれているダンジョンコアにはヒビが入っている。
『ははははは、今のは何だまともに防ぐことすらできなかったわ』
『恐ろしい攻撃ですね、生身で受けていれば肉片すら残らなかったのではないでしょうか』
『まあ、私のできる本気の一部だからね、これを完璧に防げるのは、あなた達の時代にも、そして今の時代でもそんなにいないと思うよ』
二人は立ち上がり再度杖を構える。ダンジョンコアのヒビが少しずつ広がっていて、もういつ砕けてもおかしくないように見える。
『さて我らの魔力も残り少ない、ダンジョンコアも限界なようだ……』
『それではエリー殿たの……む、これは……』
最後の一撃を加えるために近寄ろうとした所でダンジョンコアから黒い煙のようなものが吹き出し、アルダとベルダを包み込み始めた。
『ぐぅぅ、ダンジョンコアが、暴走、エリー殿……頼む』
ダンジョンコアの最後のあがきとでもいうのか、黒い霧が爆発するように膨張しそこから放たれた衝撃波で私は上へと吹き飛ばされた。
side:カルロ
「すごい……ですね。何をしているのか全くわかりませんが、骸骨の二人の攻撃を全て避けていますよ」
「それに何か仕掛けようとしているみたいですね。そこかしこにちょっとした揺らぎを感じます」
セーランが指差すところに目をやっても特に何も感じられない。
「私には何も感じられませんが」
アーサも僕と同じように何も感じられないようだ。一方リリはセーランのいった何かを感じているようで顔色があまり良くないように見える。
「あっ、エリーさんが何かやりそうですよ」
闘技場に再び目をやるとエリーが一足で後ろへと下がりながら杖を振るっているのが見えた。するとあの骸骨たちに向かって、そこかしこから色とりどりの魔術が雨のように降り注ぎ始めた。
「綺麗ですね」
手を組んで祈るように降り注ぐ光を見つめているセーランの呟く声が聞こえた。赤に青に黄色に緑、そして白と黒の光の流線が一点に向かって降り注ぐ。見た目は美しく見えるが、こんな魔術が一人の人間によって作られているとは……。
「綺麗ですけど、それと同時に恐ろしく思えます」
骸骨の二人は攻撃をやめて、障壁を張り防ごうとしているように見える。だがその試みはうまくできていないように見えた。四方八方から加えられたエリーの攻撃によって土埃が立ち上がり、闘技場全体がその土埃によって見えなくなった。
いつしかエリーの攻撃が止まったようで、闘技場から音が消える。しばらくすると土埃が少しずつ散っていき闘技場が再び見えるようになった。土埃の晴れた闘技場中央には、未だに骸骨二人が立っていてエリーに向けて杖を構えていた。
「まだやるようですね。流石にそろそろ限界のようですけど。それにあの骸骨たちの胸にある魔石が今にも壊れそうになっていますね」
リリが骸骨の胸元のダンジョンコアを指さしている。たしかに骸骨たちの胸にある魔石には、この一からでもわかるくらい大きなヒビが入っているのがわかった。
それを見た瞬間僕の脳裏にエリーが空中へと吹き飛ばされる映像が浮かび上がった。
その後もいくつもの映像が僕の脳裏に浮かんでは消えていく。これが僕の勘といっている現象だ。予感や予知ともいえるのだけど、明確に道を示してくれる訳ではない。これらの映像から僕は最適と思えるものを勘という形で選択している。
「アーサ、セーラン、それとリリ、僕は下へ向かいます」
素早く装備を確認して下へと降りるために走り出す。
「私たちが行っても邪魔になるだけでは」
僕が走り出すとみんなためらいもせずについてくる。
「いつもの勘です。まずはアーサとリリは警戒を、セーランは今のうちに祝福をお願いします。それから僕はエリーを受け止めます」
走りながら闘技場に目をやると骸骨の胸元にある魔石から湧き出た黒い霧が、骸骨の二人を包み込むのが見えた。





