小話 不死身と呼ばれた男、旅立つ
俺は今困惑している。どうしてこうなったのだろうか、本当にわけがわからない。数日前までは普通のアイアンの冒険者をしていた。仲間を作らずソロでやって来たわけだ。そして数日前にスタンピードが起きた。
俺は臨時のパーティーを組んで戦いの場へ向かった。そして気がつけばギルドに運ばれていた。昔からそうなんだ、頭に血が上ると周りが見えなくなり敵へと突っ込み暴れてしまい大怪我を負うことが多かった。
今回もそれなのだろうと思ったら片腕をなくして運ばれていたようだ。ああ、俺の冒険者人生もここで終わりかと思っていたのだが。黒いローブを着た黒髪の少女が何かをしたと思えば無くなっていたはずの腕が治っていて古傷すら見当たらなかった。
訳がわからないまま、治療が済んだということでギルドから追い出され、ギルドの外で臨時パーティーのメンバーと再び合流した。
「ジーン無事だったか。もう駄目かと思ったが腕もちゃんと治ってよかったな」
スキンヘッドの頭が輝いているアンドレに声をかけられた。
「ああアンドレ、腕はお前が回収してくれたんだってな助かったよ」
「いや、念のため拾って持ってきただけで、くっつくとは思ってなかったんだがな」
「ほんとにねー。それにしてもジーンは勝手に魔物に突っ込んで行かないでよね」
「ネルル姉さんにも世話をかけたようで、すまん」
キセルを吹かして気だるそうにしている魔術師のネルル姉さんに頭を下げる。アンドレとネルル姉さんと俺の三人で臨時パーティーを組んでいる。それぞれがソロで活動をしていたのだが、今回のスタンピードの前に臨時でパーティーを組むことになった。アイアンの俺とは違ってアンドレもネルル姉さんもシルバーランクだ。
「さてと、とりあえずそこの炊き出しで飯を頂いたら戻ろうか」
「そうね」
ギルドの前ではウッドの子どもたちや、街に残って戦えない人たちが炊き出しをしているようだ。俺たちはゆっくりと休憩をしながら食事をして再び北門へ向かった。
◆
そして気がつけば再びギルドに運ばれていた。これで何度目だろうか? 痛みは感じないが片腕と片足が無いのはわかった。目の前にいる黒髪の少女がため息をついているのを見てなんだか申し訳なく思ってしまう。
「なんども、すま、ない」
「はいはい、喋らなくていいから。しばらくじっとしてなさい」
その言葉に従って寝かせられている台の上で力を抜く。毎回運ばれて来るたびにこの少女は俺を治療してくれる。聞いた話だと高名な錬金術師の弟子なのだとか。俺の知っている錬金術師に比べると随分と腕がいいのはわかる。
「はい、治療は終わったからね。最後にこれ飲んでおいてね」
そう言って中身が真っ赤なポーションを手渡されて目隠しから追い出された。気がつけば失っていた手と足が元に戻っていて、いつの間に治療されたのかわからなかった。ちょうど喉が渇いていた事もあって、手渡されたポーションを一気飲みして空き瓶置き場に置いてからギルドを出る。
ポーションを飲んだせいか体がなんだか熱い。アンドレとネルル姉さんと再び合流して愚痴られながらも俺の無事を喜んでくれた。今回こそ流石に駄目だろうと思っていたようだ。心配かけたことを謝って戦いの場へ戻る。
この後は大した怪我をすることなくスタンピードを乗り切ることができた。火龍と戦ったギルマスやゴールドの黒鉄の金獅子パーティーに、ご領主様たちの戦いは圧巻だった。
戦いの後は解体作業に従事して、思った以上の収入を得て今に至る。ああ、何に困惑しているかなんだが、それは……。
「不死身のジーン、今日はもうあがりか」
「よう不死身のジーン一杯どうだい」
「あいつが不死身のジーンってやつだ。何度も何度もやられながらも立ち上がり魔物の群れに飛びこんでいく勇者だぜ」
わかってもらえただろうか、いつからか俺は不死身のジーンなんて呼ばれるようになっていた。そして不思議なことに軽い傷ならすぐに治る体になっていて、スタンピード以降は暴走することも無くなっていた。自分でもこの体の変化に困惑している。
◆
そして俺は今、ダーナの街から離れ旅をしている。不死身のジーンと呼ばれるようになってなんだかダーナの街に居づらくなって旅に出ることにしたわけだ。
道連れはなんやかんやでアンドレとネルル姉さんが着いてきてくれた。二人が言うにはスタンピードの影響で普通の森や魔の森の浅層の生態系が狂っていて、しばらくはまともに魔物を狩れないと予想したからとのことだ。
三人での旅は五年ほど続いた。この国の至る所を旅をし、いくつかのダンジョンにも入ったりもした。そしてある依頼を終えたことで思いがけない大金を手に入れることができた。
だけどそれがパーティーの解散に繋がったのは、なんという皮肉なんだろうかと今でも思う。パーティーの解散の理由だが、それはアンドレとネルル姉さんが結婚をして田舎に帰るといったからだった。
俺はアンドレとネルル姉さんを祝福した。二人の仲はまあ五年も一緒にいればわかるというもので、いつ切り出してくるのか待っていた事もあって心から「おめでとう」と言えた。
パーティーの解散と別れの宴をした後、俺はこっそりアンドレの荷物の中に手紙と今回の報酬を全部放り込んで朝一に門が開くと同時に街を出た。その足で国境を越えて別の国へ向かい、街から街へ国から国へと渡り歩く旅を続けた。
パーティー解散から五年ほど経った頃俺はある島へとたどり着いた。その島はオンセンジマと呼ばれていた。