小話 ニーナはキノコがお好き?
今日は魔の森の手前にある普通の森に素材集めに来ている。一緒に来ているのはニーナとアデラの二人だ。スタンピード後の影響でこの周辺には動物も魔物もかなり数を減らしていて、素材集めにはもってこいの状況になっている。
まあ何か危険があっても二人の気配は常にチェックしているのですぐに助けにはいける。そんな私は現在、自然薯つまりヤマイモを掘り起こしている。魔法で土ごとずばーっと掘り起こして周りの土を落とすだけの簡単な作業だ。
正直な所見つけた時は目を疑った。こんな所で手に入るなんて思っていなかったし、市場でも見かけないから誰も食べようとは思わなかったんだろう。まあ掘り起こしたまでは良いけど、実際に食べてみないと本当に自然薯かはわからないのだけど。
後でケンヤのところまで持って行ってとろろご飯でも作ってもらおうと思っている。魔法で出した水で洗っている所にニーナとアデラが背負籠いっぱいに食材や素材を持って帰ってきた。
「おかえりー、いっぱい取れたみたいだね」
「師匠を驚かそうと思っていっぱいとってきました」
「エリーの姉御に教えてもらったように色々取ってきました。確認してもらってもいいですか?」
「それじゃあアデラの方から確認しよっか」
「お願いします」
足元にシートを敷いてアデラも背負っていた籠を受け取り一つ一つ並べていく。特に貴重な素材は見当たらないけどちゃんと勉強しているのがわかる感じで丁寧に採集されている。ちゃんと鮮度を保つために濡らした布で根本を包んでいたり、物によっては土を残して採集されている。
「うん、いい感じだね。採集方法も丁寧だしちゃんと鮮度を保つ工夫もしていて文句なしの合格だよ」
「やった」
アデラの籠に素材を戻して、次はニーナちゃんの籠を受け取る。えっと、これは色々ヤバい。とりあえず籠から取り出し一個ずつ並べていく。
「ニーナちゃん一つ聞いていいかな? なんできのこばかり採ってきているの?」
「えとですね師匠、なんだか良さそうなきのこが目に入ったので採ってきました」
あー、うん、まあ、その、素材を集めるって意味では正解では有るのだけど、これはないでしょこれは。並べられたきのこ……、どこからどう見ても全部毒キノコってどういうことなんだろうか。一部錬金術の素材に使えるものも有るけど、だいたい出来るのって毒薬のたぐいになる。錬金術に使えるものはまあ良いとして、薬学に使えるのが一個もないって逆にすごいと思う。
「ちなみに魔の森には入ってないよね」
「入ってませんよ」
ちゃんと気配を見ていたからわかっていたことだけど、どう考えても普通の森では手にはいらなそうなキノコまで混ざっている。
「ニーナちゃんってこれらのキノコどういう基準で採ってきたの?」
「勘です。なんとなくこれは採らないとって思ったんです」
「そ、そうなんだ。えとねニーナちゃん、このキノコなにかわかる?」
7色に染まっているキノコを指さして聞いてみる。
「そのキノコって虹みたいで綺麗ですよね。残念ながらどういうものかわからないですけど」
特に何かを参考にして採って来たのではないことはわかった。
「これは、まあ、見たまんまだけどレインボーキノコっていうのよ」
「そうなのですね。それでそれって美味しいのでしょうか」
「味はどうなんだろう。食べたことが無いから分からないけど。ちなみにこれはね七種類の毒があるキノコで、食べたら死んじゃうからね」
「そ、そうなんですか、すごくきれいなのに」
レインボーキノコはまとめて横にのけて別の白一色のキノコを手に取る。
「次はこれね、ゴッデスダケっていうのよねこれ」
「なんだかすごそうな名前ですね」
「うん、これはすごいわよ。神すら殺すって言われるほどの毒性を持っていてこれも食べたらイチコロね」
ゴッデスといっても女神のことではなくて、God deathでゴッデスと呼ばれている。この名前をつけた人はダジャレでも言いたかったのかな?
こうやって全部のキノコを解説していく。どれもコレも見事に毒キノコだった。中には食べられるキノコと似た物もあって勉強にはなったから良しとする。
「アデラ、長生きしたいなら絶対にニーナちゃんの採ったキノコは食べちゃ駄目だからね」
「は、はい、気をつけます」
しょんぼりとしているニーナを励ましつつ帰路につく。まあ毒キノコだけピンポイントで拾ってくるのはある一種の才能かもしれない。