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(web版)新米魔女の異世界お気楽旅 ~異世界に落ちた元アラフォー社畜は魔女の弟子を名乗り第二の人生を謳歌する~  作者: 三毛猫みゃー


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第40話 魔女、小躍りする

 少し温くなったお茶を飲みながら「茶請けを持ってきますね」と言ってキッチンに歩いていったケンヤを待つ。急須と和菓子っぽいものを持って戻ってきたケンヤは話し始めた。


「余り人に話したことはないのですけどね。あちらでは高校生をしていたのですが交通事故にあいまして気がつけばと言うパターンですね」


 いわゆるトラック転生と言うやつだろうか? と思って聞いてみたけどトラックが絡む事故ではなかったようだ。


「私はのほうは気がついたらこの世界に迷い込んでいたパターンかな、ちなみにケンヤと違って転生ではなく転移のほうだね」

「転移ですか? 転生した方は何人かお会いしたことはありますが、転移というのは初めてですね」


 転生って結構いるようだ。そして私みたいに転移は珍しいって事かな……いや違う、多分転移も転生同様そこそこいるんじゃないかな?


「転移に出会ったことがないのは多分すぐ死んじゃうからじゃないかな」

「それはどういうことでしょうか」

「そうだね。私に照らし合わせるとってことになるけど、転移した人って身体能力はあっちのままだからってのは分かるよね」

「あー、そういうことですか」

「それ以外にも言葉の壁とかもあるけど。だけど生き残れない最大の理由は、転移者には多分だけど膨大な魔力を持ってこの世界に来るからだと思う」


 そうなんだよ。私はこちらの世界に来た時、膨大な魔力を持っていた。そういう事も含めて師匠と出会えたのは幸運だったって事になる。なぜ膨大な魔力を持っていると生き残れないのかは、いくつか理由がある。まずは魔物に襲われやすくなる。魔物というのは魔力を摂取することで進化するからだ。次に魔力暴走が起きやすい。最後に魔力過剰により体に異常をきたす。放おっておくと魔力が一所に留まることにより内臓が徐々に結晶化してしまい機能しなくなるからだ。


 解決方法は、魔力制御を覚えるのが一番簡単なんだけど、魔力のなんたるかを知らない転移者には一番難しい。私の場合は魔力制御を覚えるまで師匠が定期的に魔力を抜き出したり体内で循環させたりしてくれていた、という話を二人に聞かせた。


「言われてみると確かにそうですね。私の場合は転生という事で赤子の頃から魔力制御や魔力を増やすことに取れる時間が多かったですから。他の転生者も似たようなものでしょう。ですが転移者は自分の中にある魔力に自覚すら無いでしょうし、それこそ魔の森のような所に出てしまえばすぐに魔物に食べられてしまうのでしょうね」


 その魔の森に出て生き残ったのが私なんだけどわざわざ言う必要はないかな。


「まあ、そういうわけで仮に転移者が居たとしても生き残るのは難しいって結論になるわけだね」

「話を聞いている限りでは、その推論であっていそうですね」

「まあ、あくまで私以外の転移者が居たらの話だけどね。ただ単に私が珍しい例なだけかも知れないから」


 モナカみたいな和菓子を一口かじると中にはあんこが入っていた。ケンヤさんやあなた食料知識チートをやっておるな。


「驚きましたか? 大豆を探すついでに色々な豆を取り寄せたんですけど、そのうちの一つに小豆に似たものがあって試しに作ってみたんですよ」

「これが知識チートというやつか」

「あはは、まあかなりうろ覚えの知識だったので結構苦労はしましたけどね。醤油や味噌なんかもかなり失敗しましたよ、あくまで個人の趣味なので広めるつもりはありません」

「原料が値上がりしたら嫌だから?」

「まあ、それもあります。後はエリーのように同郷と出会った時の反応とか面白いじゃないですか」


 こやつなかなか策士であるな。盛大にお腹を鳴らしていた身としては笑うしかないね。


「ケンヤは色々知識チートしているみたいだけど、なんでか石鹸って余り普及していないよね、疫病とか衛生面を考えるともうちょっと広めても良いんじゃないの?」

「もしかしてエリーは石鹸の作り方を知っているんですか!」


 急にテーブルから乗り出すように迫って来た。


「知ってるいも何も作るの簡単でしょうに、それこそ味噌や醤油みたいに特別な材料がいらない分楽でしょ、もしかして作り方知らなかった?」

「ええ、お恥ずかしいことにそちらの知識を詳しく持ち合わせていなくて、苛性ソーダがどうとかというのは聞いたことがあるのですが、それがなにか全く分からなかったんですよね」

「苛性ソーダは水酸化ナトリウムだけど、別にそんなの使わなくても油脂と木灰があれば作れるよ」

「よろしければ後で作り方のレシピを貰えませんか、相応の謝礼はお支払いしますので」

「まあ良いけど、他の転生者は石鹸を広めなかったんだね」

「あー石鹸自体は昔からあるんですけど、製造方法をある国の貴族が秘匿していてかなり高級なんですよね。これくらいの大きさでも金貨一枚とかするんですよ」


 そう言って親指と人差指で丸を作って見せる。


「そんな中でなんの権力もない転生者が作ったとしても消されるのが関の山ですよ。実際レシピを売ってもらえるように交渉していた方は突然行方不明になりましたから」

「そうなんだ、それでケンヤはどうするの? まあケンヤくらいの実力者なら暗殺者が来てもどうにでもなるだろうけど」

「簡単なことですよ、国を含め貴族や庶民の誰もが作り方を知った場合どうなると思います?」

「あー、そういう事ね、ばらまいちゃうわけだね」

「まずは王家と交渉は必要でしょうけど、今の国王は出来た人ですから私の意見を聞いてくれると思います。もし王家がうなずかなくてもなんとかしてみせますよ」

「それってケンヤになにか得なことがあるの」


 ポシェットから紙とペンを取り出してさらさらっと作り方を書いてケンヤにわたす。


「いえ特には、私に関してはもう既に満たされてますからね」

「そういうもんかー」

「ええ、そういうものです。それにエリーも私と同類でしょうから分かりますよね」

「ふふ、よくわかってるじゃない」


 お互い笑い合ってハイタッチをする。


「それで報酬のことなのですが何か希望はありますか」

「それこそ言わなくても分かるでしょうに、お米の買える所の情報と醤油とお味噌でいいよ」

「まあそうなりますよね。わかりました醤油とお味噌に加えてみりんもつけましょう、あと小豆もつけちゃいますよ」

「ケンヤあなた最高よ」


 アーヴルが急に小躍りしだしたわたし達を見てなのか頭を抱えている。石鹸の話を始めた辺りからずっとそうだったかも知れない。それにしても醤油にお味噌にみりんだよ、これで調味料問題が一気に解決しちゃうわけだね。よしこの感謝の気持ちを表すために、おまけとして師匠謹製のソーマ酒を三本ほど進呈しようではないか。

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