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第24話 魔女、臭いと言われる

 ほぼ日課となっている魔の森と火龍山を遠目で観察していると、いよいよ事が起きそうな予感を覚える。ここ何日かは街の中にいても地鳴りが聞こえてくる。かなり離れているはずなんだけど不思議ではある。行商人や商家の人たちは家族をダーナの街から別の街へ避難させている。あとは貴族の人たちも当主や跡継ぎ以外の人たちは残り、それ以外の成人を迎えていなかったり戦えない家族を王都へ逃しているようだ。そういう街から逃げ出す人たちの護衛を請け負う形で、シルバーやアイアンの冒険者も街を離れている。


 ちなみに、ガーナとサマンサとミランシャの三人組は、サマンサのご実家の家族の護衛として街を離れていて、残っているのは父親とお兄さん、それと最低限の従業員だけになっている。三人も成長してこの短い期間にブロンズからアイアンになっていた。別れ際に話した限りだとこのまま戻らずに王都を目指すとは言っていたから生きていればまた会うこともあるだろうね。


 屋台も減って活気というものがこの街に来た頃に比べると無くなっている。図書館も閉鎖されて司書をしていたマリアさんとナーシャさんは、原本や稀少本を領主命令で王都へ運び込むという事で半月ほど前に街を出ている。その二人だけど、どちらも貴族の娘という事だった。何度も図書館に通って仲良くなっていたので、私も王都への避難に誘われたのだけど断らせてもらった。二人には無事に王都まで到着して貰いたいものだね。


 今この街に残っているのは行き場のない人たちと覚悟を決めた冒険者、そして貴族の当主や領主一族という感じかな。領主一族がその奥さんや子どもも含めて全員残っていることには驚いている。図書館で調べて知ったことだけど、この国の成り立ちからして初代国王が冒険者で今の王都のある場所に巣食っていた邪竜を倒して建国したという逸話が残っている。


 そういうわけで、今でもこの国の貴族は冒険者が功績を打ち立てて任命されるということが少なくないのだとか。むしろ全員が全員、貴族だろうが王族だろうが、それこそ男女関係なく成人前に一度冒険者となり家から出るのだとか。


「なに? 家を継ぎたいだと? ならばまずは冒険者となるが良い」

「なんだと? 文官として国に仕えたい? ならばまずは冒険者になって鍛えるがいい」

「ほう? 家を継ぎたくないだと? ならば冒険者となって好きに生きるが良い」


 なんて会話が日夜繰り広げられているとか。そのまま冒険者業が気に入って跡継ぎが戻ってこなかったりなんてことも普通にあるのだとか。よくそんな感じ国家運営できているよねって思うけど、意外とうまく回っているのだから世の中わからないものだ。そしてこのダーナの街の先代領主は、私と同じ世界からの転生者でこの国に流れ着き貴族となったのだとか。驚くことにその先代領主だけどまだ生きている、流石に前線で戦えはしないと思うけど百歳超えてまだ生きているとか神の加護とかなのかな、機会があれば一度あってみたいものだね。


 定宿の宿木亭に戻り大将に現状を報告する。後ほど大将がギルドに言って報告をしてもらうことになっている。ひと手間掛かっているけどアイアンの冒険者が言うよりも、元ゴールドの冒険者に言ってもらったほうが説得力あるからね。お気づきのように今の私はアイアンの冒険者になりました。殆どこなしたのが常設依頼だったとはいえ、外に出て魔物も狩ったりしているのでブロンズをすっ飛ばしてアイアンになった。


「大将ただいま、そろそろ火龍山が噴火しそうだったよ」

「おうエリーか、エリーの予想としてはどれくらい猶予がありそうだ?」

「火龍山の噴火はあと2日くらいかな? 問題は明日にでも押し出された魔物が森から溢れ出してきそうだね」

「そうか、それじゃあギルドに報告してくる、エリーはアーシアとニーナを見ていてくれ」

「うん、わかったよ」


 大将は着替えを済ませローブを羽織るとギルドに向かっていった。


「師匠おかえりなさい、森はどうでした?」

「ニーナちゃんただいまー、さっき大将にも言ったけど明日辺りから森から魔物が溢れ出てきそうだったよ」

「そうですか」

「怖い?」

「それは……」

「大丈夫だよ、いざとなったら私がなんとかしてあげるから」

「いざとなったらですか?」

「そう、最初から手を貸すつもりはないよ。この街はこの街の人が守るべきだからね。私が全部やってしまっても良いことなんて何もないよ」


 やったら面倒なことになるってのが大きいけどね。でも、実際この街を守るのはこの街の人ってのも本音。それによって命を落とす人がたくさん出たとしてもね。


「手を貸すとしてもポーションとかで支援するくらいかな? ちなみにそのポーションを作るのはこの街の錬金術師のニーナちゃんの仕事だからね」


「えっ、わたしですか?」

「そうだよ、大将は逃げる気無いだろうし、そうするとニーナちゃんをどうするかってなると、この街で2番目に安全なのがギルドだからね。そこで私と一緒にポーション作りをして貰うつもりだからね」

「えっ……えぇーー」

「ちなみに大将にもアーシアさんにも許可は取ってるからね」

「い、いつの間に、師匠の用意の良さは相変わらずですね」

「備えあれば患いなしってね。素材も十分ストックしているしギルドにも出させるつもりだからね。それにニーナちゃんは既に中級までなら失敗せずに作れるんだから自信を持ちなさい」


 実際この短期間で中級まで作れるのはすごいことなんだけどね。比較出来るものがないから仕方ないのかも。今までの修行の成果を実感してもらうには、ちょうど良い機会だと思っている。自信なさげに俯いているニーナちゃんを抱き寄せて頭をいい子いい子と撫でる。


「あはは、師匠くすぐったいですよ、あと汗臭いです」

「そ、そう? 汗はかいてないつもりだったんだけど」


 自分の臭いを嗅いでみてもよくわからないけどお風呂に入ってこようかなと思ったタイミングで大将が戻ってきた。


「大将も戻ってきたようだしお風呂に入ってくるね」

「はい、師匠ゆっくり入ってきてくださいね」


 戻ってきた大将に話は後でねと言ってお風呂に入るために裏口から外に出る。錬金術を覚えることによって五感が敏感になったニーナちゃんに汗臭いとか言われたし、念入りに体も髪も服も洗っておこう。

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