第17話 魔女、ニーナちゃんを虜にする
「大将完成したよー」
隠匿の魔法を解除して裏口から大将に声をかける。
「おい、バカ、ちゃんと周りを見てから声をかけろ」
「あっ」
どうやら丁度三人娘が帰ってきたところだったようだ。
「ん? エリーそこで何やってたの? 何が完成したの?」
「あー、あはは」
ガーナをごまかそうかとも思ったけど無理そうだ。大将は「俺はもう知らん、晩飯の用意をする」と色々諦めたようだ。まあ、そのうちバレることだし、どうやってごまかそうかとか考えてなかったしどうにでもなーれ。
「なんと言いますか、見てもらったほうが早いと思うのでこっち来てもらっていいですか? それと大将も共犯者ということで諦めてアーシアさんとニーナちゃんを呼んできてくださいね」
「お前なー俺を巻き込むな」
「許可を出した時点で共犯者ですからね。まあ別に悪いことしたわけじゃないですけど」
「ぐっ、わかった。アーシアとニーナを連れてくる待ってろ」
そういって大将は二人を呼びに行った。
「三人も大将が来るまで少し待っててください。今のうちに部屋で着替えてきてもいいですよ」
「そうしたいんだけど大将にお湯を貰いたいから大将待ちかな」
「あー、そうですね。でも今日はお湯いらないかもしれませんよ」
「それってどういうことなのかしら?」
サマンサが聞いてきたけど、ちょうど大将がアーシアさんとニーナちゃんを連れて戻ってきた。
「おいガーナ入り口を締めてくれ、暫く貸切状態にしておく」
「わかった。貸切の看板下げておくよ」
全員揃った所でみんなで裏口の前に集まる。
「えっと、驚かないでくださいね? 苦情はぜひ大将へお願いします」
「いや普通にエリーが主犯だから苦情はエリーに言ってくれ。俺もこの外がどうなっているか知らん」
「ふふん、見て驚いてください」
ぞろぞろと裏口から外に出るとあたり前だけど目隠しの壁が見えるだけでこの時点で壁が邪魔だなという声しか聞こえない。大将は「お前な」という視線を向けてくるが気づかないふりをしておく。
目隠しの壁からぐるりと裏に回ると私が作った屋根付きお風呂がお目見えする。大将は頭をガシガシと掻いて諦めたようにため息をついている。
「なにこれなにこれなにこれ」
「お風呂ですわね。わたくしの実家よりも立派な気がしますわ」
「お風呂? これがお風呂なの?」
ガーナ、サマンサ、ミランシャの反応がこうである。
「ねえ、パパママお風呂ってなんですか?」
アーシアさんは少し困った表情を浮かべているけど、誤魔化すようにニーナちゃんの頭を撫でている。
「あー、風呂っていうのはだな──」
「うふふふふ、お風呂っていうのはね、命の洗濯なんだよニーナちゃん」
「命の洗濯ですか?」
「そうだよ、だから一緒に入ってみない? 良いですよね大将」
「ん、ああ、アーシア、エリーがニーナに変なことをしないように見ていてもらえるか? 俺は晩飯の用意をしておく」
「やった、それじゃあアーシアさんとニーナちゃんはお着替え持ってきてね。その間にお湯出しておくから」
アーシアさんは頷いてニーナちゃんと着替えを取りに行った。その間に魔石を取り出し設置台に置いて魔石に指でお湯出しの魔文字を書き魔力を注入するとお湯がドバドバと浴槽に流れていく。
「いや、まってまって、なにこれ、どうやったの? 朝までなかったよね。エリーが作ったの? どうやって? なにこれなにこれ」
ガーナは大混乱である。
「えっ、魔石? すごく大きくない?」
ミランシャも混乱している。
「魔石に直接魔文字を刻んでいる?」
サマンサは困惑しているみたいだ。
「まあその辺りはどうでもいいじゃないですか。まずはアーシアさんとニーナちゃんとで使うので、その後にでも入ってください」
「私達も使っていいのですか?」
「いいでしょ、宿の設備だし大将も嫌とは言わないと思いますよ」
サマンサがいち早く正気に戻った所で、アーシアさんとニーナちゃんが戻ってきた。三人娘には一度宿の中に戻ってもらう。サマンサに混乱中の二人を連れて行ってもらい、このあと質問攻めにされるであろう大将に合掌しておくことにしる。なむー。
「おっと、着替えを置く場所がなかったね。ちょちょいっと」
ささっと木材で服置き場と服を入れるかごを設置するとそこに着替えを置いてもらう。いい感じにお湯が溜まったので魔石を設置台からずらしておく、こうすることによってお湯出しが止まるようになっている。アーシアさんは驚いたような表情をしていたけど首をふるふるして諦めたような表情を浮かべている。そうそう人間諦めが肝心だ。
服を全部脱いで私はポシェットに仕舞っておく。洗うのは後で良い。桶を使ってまずかけ湯をしてもらってから二人にはお風呂に入ってもらう。アーシアさんとニーナちゃんは最初恐る恐るという感じでお湯に入ったけど、一度お湯に浸かった途端お風呂の虜になったようで気持ちよさそうにしている。
私はポシェットから洗髪剤と石鹸を取り出してアーシアさんに説明しながらまず自分で使って見せる。洗い終わるとお風呂に入り交代する。アーシアさんとニーナちゃんは使い慣れない洗髪剤と石鹸に困惑しながらも、洗い終わる頃には汚れが随分落ちてさっぱりした表情を浮かべてお風呂に再び入ってきた。
「はふぅ、エリーさんお風呂ってすごいですね」
「そうでしょうそうでしょう、お風呂のない人生なんて考えられないからね」
「これが命の洗濯なんですね。すごくスッキリした気分になりますしすっごく心地良いです」
「うんうん、お風呂仲間ができて私も嬉しいよ」
二日ぶりのお風呂を堪能して三人であがり魔法で体と髪を乾かして着替えをすます。その間に一度お湯を捨てて魔石を設置しなおしてお湯を再び注ぎ込む。その作業のやり方を一通りアーシアさんとニーナちゃんに説明しておく。
この魔石は私が魔文字を刻んでいるので消す事は私にしか出来ない事を説明した。他には流用できないこの魔石は進呈と言ったのだけど、すごく困ったような表情をしたので他にも持っていることをアピールするために、何個か同じ大きさの魔石を出してみせる。それを見たアーシアさんは諦めた表情を浮かべて頭を下げてきた。そうそう、人間は諦めが肝心ですよ。





