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第16話 魔女、お風呂を作る

 パラパラと流し読みしてわかったことは、およそ百年前にこの世界に赤子として転生したということだ。転生する時に女神から貰った能力を隠していたら無能の烙印を押されて家を追い出され、追い出されたことにより別の国であるこの国にたどり着いたようだ。そして能力を使い成り上がったという、なんとも異世界転生物にありそうな人生を送ったようだ。


 最終的には辺境の領主となり余生を送っている所で日記は終わっている。ちなみにどこの領主かというとダーナという辺境の街らしい……どこかで聞いたことがある名前だなと思ったらここの街がそのダーナだった。いやーなんて偶然なんでしょう、流石に百年前に迷い込んだのなら本人は既に亡くなっているだろう。


 もしかしたら神とやらに貰った能力で生きている可能性もなくはないのかな? 少し興味があるけど、わざわざ訪ねていってもいなければただの不審者としか思われないだろう。もしかすると本当に生きているかも分からないので、後々調べてみるのもいいかもしれない。


 色々気になる箇所もあったので後で読み直すために魔法でこっそり複製しておく。この複製魔法はこういう本などの複製にはすごく便利だ。だけど生物には使えない、つまり本に虫が付いていても複製されないのでこういう時は使い勝手が良い。


 さてと、時間もある程度経ったし今日は帰ろうと思う。何冊か読んでみたい本はあったけど流石に今日は読めないと思うのでこそっと複製してポシェットへないないしておく。受付さんに挨拶をして金貨を返してもらって帰ろうとした所で別の受付さんに話しかけられた。


「お嬢さん魔女のことを調べてるの? 魔女と言えばナーシャ、依頼を出していた写本の中に一冊かなり古い時代のものがなかったかしら?」

「あー、あったかもしれませんね、えっと」

「エリーです」

「エリーさん少しだけ待ってもらっていいかしら、きっとまだ表に出していないものだと思うから探してくるわ」

「あの興味はあるんですけど、閉館時間もそろそろみたいですからまた今度来たときでいいですか?」

「あらそう? それじゃあ表に出さないでこのまま置いておくわね」

「良いのですか? そういう事しちゃっても」

「良いの良いの、元々裏に置きっぱなしにしていたものだからね」

「それではお願いしてもいいですか、えっとナーシャさんと──」

「私はマリアよ、よろしくねエリーちゃん」

「よろしくお願いします」


 いま本を渡されてもこっそり複製出来ないので後日のほうが都合がいい。そろそろ閉館時間も近いので今日は大人しく撤退することにした。


side マリア


「ねえ、今の子の事どう思った?」

「どうって、貴族の子女じゃないの? 言葉使いは少し変だったけどローブも汚れはなかったし着ている服もきれいだったわよ」

「そうよね。でも私あの子のこと全く知らないのよね」


 その言葉を聞いて私は驚いた。ナーシャはこの街の貴族をその親から子まで全てを記憶している。それが仕事でもある。


「それじゃあ商人とか?」

「商人というふうでもなかったけど、貴族じゃないとしたらそうとしか思えないわね」

「近いうちにこの本を見に来るみたいだから、その時までに調べてもらうしか無いんじゃない?」


 手に持っている古い時代の魔女に関する写本を振って見せる。中身を軽く見てみたけど数百年前に書かれた魔の森に住むと言われる魔女についての物語だった。さっきの子が探していたおとぎ話の原本ともいえなくはないのかな?


「先代様の方には私が連絡しておくわ。マリアは念のためあの子の事を探ってもらえるようにお願いしてきてもらえるかしら」

「わかりました。先代様の依頼として暗部にお願いしておきますね」

「ええ、それでいいわよ。それじゃあそろそろわたし達も帰りましょうか」


 そう言ってナーシャは図書館の中を見回りに行く。私は入場者の欄をチェックして残っている人がいないか確認していく。私とナーシャはこの図書館の管理を前領主様である先代様に頼まれ勤務している。目的はここに密かに置かれている先代様の手書きの手記の写本に興味を示す人物を探すためだと聞いている。だけど詳細は詳しく聞かされていないので理由はわからない。


 その手記なのだけど、私もナーシャも知らない文字で書かれているため読むことが出来なかった。そして今日あの子がその手記を読んでいる事に気がついた。ぱらぱらとめくり、時にはめくるのを止めてあたかもその文字を読めるような行動だった。


 結局すぐに棚に戻していたので、ほんとうに読めていたのかわからない。直接聞くなんて事もできない訳で、あの子の素性を調べるということになった。それにしても先代様はなんでそんな事をしているのかしらね。



「んーっと、色々収穫もあったし来てよかった」


 外に出て伸びをして肩をぐるぐる回し、凝った筋肉をほぐす。特に寄り道などはせずに北区に戻ってきた。北区は相変わらず活気が良いね、それに屋台からはいい匂いが漂ってくる。買い食いしたい誘惑に抗いながら宿に戻る。


「ただいま戻りました。大将お弁当おいしかったです。ありがとうございます」

「おう帰ってきたか、晩飯はまだだから少し待ってろ」

「わかりました。あー、それでですね。あの件考えてもらえました?」

「風呂か……。俺は構わねーと思うんだが、三人娘になんて説明したものかと思ってな」

「確かにそうですね、どうしましょう」


 大将が頭をガシガシ掻きながらため息を付く。


「まあ良いか。作るなら明日にするかアイツらが帰って来るまでに終わらせるか好きにしろ」

「言質は取りましたよ。作っちゃっていいですね。作っちゃいますよ」

「あ、ああ、いいがバレないように気をつけろよ」

「まっかせてください、見えないようにやりますから。ただ誰も裏に来ないようにだけしてくださいね」

「それは任せておけ」


 くふふ、よしよしそれじゃあちゃっちゃと作っちゃいますか。厨房の裏口から外に出て、隠匿の魔法を掛ける。魔法の範囲外からここを見たとしても中の景色は変わったように見えない。


 まずは排水だね。井戸の排水じゃあちょっと大きさ不足だからちょちょいっと拡張しておく。場所は井戸の近くで、浴槽の大きさは3人くらい一緒に入れる大きさでいいかな。まずは地面をならして井戸の排水につなげる。


「ふんふんふふー」


 収納ポシェットから木材を取り出して加工していく。この木ってひのきに似た木材で防菌に防アリ防ダニ効果がある。そして消臭効果もあるので大将には良いんじゃないかな。いや別に大将が臭いって事じゃない。肉の解体とかしたらにおいが移ったりするから消臭は大事だろう。


 ちゃっちゃと加工した木材を組み立てる。均した地面に浴槽を置いてずれないように接着。お風呂の底の角に排水用の穴を開けて、井戸の排水に繋げる。余った木材を使ってスノコと桶を作っておく。今度は別の木材を使って井戸ごと覆うように屋根を作る。この木材は防腐効果と水を弾く効果があるのでよく屋根などに使われる素材なんだよ。


 そして最後に、あの屋敷からこっそり持ってきた魔石の設置台を置いてお湯が直接浴槽に流れるように加工して完成である。


「よし、こんなものでいいかな」


 あっと忘れるところだった。大将が裏口から覗けないようにコの字に壁を作っておく。裏庭の約半分くらい使った気がするけどいいよね。洗濯を干すスペースにも解体場所にも邪魔にはならないだろうし、へーきへーき。

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