第15話 魔女、図書館で知る
ギルドを出た後はまず南区に向かうことにした。北区と南区の区切りはなんとなくわかった。なぜかというとある地点から屋台がなくなる地点があり、そこから少し進んだ辺りで見回りをしているらしい冒険者を見かけたからだ。
北区と違う所は、歩いている人の数が少なく代わりに馬車の行き来が多い。貴族かその従者が店を出入りしているのも見かけた。中も少し気になるけど今は大してお金もないし店に入れてもらえるとも限らないのでスルーしておく。軽く雰囲気だけ確認するつもりで南門まで歩いてみる。
南門も作りは北門と同じで門兵が見回りをしている。ただ北門よりも門兵の動きがキビキビしていてまさに兵士って感じに見えた。特に用事はないのでちらりと見るだけで来た道に戻る。途中で街の人に教会までの道を訪ねて東区に入る。
東区は南区よりも更に歩いている人が見られなくなった。それに多くの兵士が見回りをしているようだ。私も何回か見咎められたけど、街に来たばかりで教会を探してますと言って道を教えてもらいながらなんとか教会までたどり着くことができた。教会は思っていたよりも立派なようで、この街の教会は世界で一番勢力の有る六神教のものだった。六神教とは六柱の神を中心として崇められている。
地神メイアス、水神アクアリアス、火神ヴァリアス、風神シャーリアス、光神イドラアス、闇神ウルダリアス。この六神を祀っているのが六神教でそれぞれに権能があるのだとか。
六神教はこの世界の宗教で一番穏やかな宗教とも言われている。他の宗教の神々も六神に連なる存在であり排斥するものではないという考のようだ。だからか多くの国では六神教を国教みたいな扱いにして、六神教自体も政治には極力関わらないスタンスをずっと続けているようだ。
師匠の話では、とある時代に別々に信仰されていた六神が一つの宗教として合わさって出来たのが六神教の始まりだといっていた。光神イドラアスと闇神ウルダリアスが六神の中でも上位神で創生の神なのではといろいろ考察はしていたけど、結局「どの神とも会った事がないから本当の所はわからないけどね」と言って笑っていた。
とりあえず教会の位置を確認出来たので次は図書館へ向かう。お布施とかねだられても今はあまりお金が無いから困るので教会の外観だけみて満足しておく。時間が有る時にでも賢者の予言について一度聞いてみたいとは思っている。
図書館の位置は教会から近いようで、教会でお祈りした後の帰りと思われる御婦人に場所を聞いたらすぐに見つかった。図書館の外はちょっとして公園になっているようで図書館探索の前にそこでお昼を食べることにする。さすが大将というべきか、お弁当も美味しゅうございました。
お茶で口の中をスッキリさせていざ図書館へ。そこそこの大きさはあるけど、規模としては田舎の町の図書館くらいの大きさだろうか。受付で入館申請をして入館料の金貨一枚を渡す。この金貨一枚は退館するときに返してもらえるようで、本を破損などさせた時はここから引かれて払うことになる。
この世界の本は羊皮紙の時代は数百年前に終わっていて、今は植物紙となっている。だけど活版印刷のような大量生産技術はまだ未熟なようで、写本が主流となっている。こういう辺境だと写本の写本の写本になるようだ。
ここの図書館では自由に書き写したりしてもいいが、汚したりしても入館料から差し引かれる。ちなみに写本の依頼を出すことも受けることも出来るようだ。依頼も受注もページ数で金額は変わるが意外と利用する人は多いようだ。ただし全て手書きになるので時間はかかるみたいだけど。
今日の目的はこの辺りの国のことや、できれば世界情勢などを調べたい。ただそういう軍事的な情報はきっと図書館なんかには置いてないとは思っている。なので今日は魔女について調べてみようと思っている。
「あの、魔女についての本はどの辺りにありますか?」
「魔女ですか?」
「ええ、なんでも良いんですけど、有名な絵本の原本みたいなものとか無いかなと」
「残念ながらここには魔女関係の原本や写本は無いですね。王都になら専門のコーナーがあるようですけど」
「そうですか、ありがとうございます」
詳しい書籍は王都になら有るようだ。この街の後は王都行きも考えておこう。とりあえず、絵本そのものは有るとのことで案内してもらって読んでみることにする。絵本の中身は大体大将に聞いた内容そのままな感じだった。
悪いことをするとどこからともなく魔女が来てさらって行くよという教育的な感じのものだ。大将が言ったような魔の森から魔女が出てきてというのは多分魔の森周辺に住む人達がアレンジした話なのだろう。
絵本以外にも魔女関係のものを探してみたけど、どうやら本当に有るのはこの絵本だけのようだ。仕方がないので適当に回っていると、とある街の、とある領主の、とある手記の写本というものがあった。書き写した人のまえがきによると内容は全くわからないとの事だったのだけど、表紙の文字を見て驚いた。どうやらこれを書いた人物は私と同じようにこの世界に迷い込んだ人のものだったようだ。どうしてかと言うと、どこからどう見ても日本語にしか見えない文字で書かれていたからだ。
なんでこんな物が街の図書館にあるのかと思わなくもないけど、気になったので早速流し読みしてみる。内容はまさしく日記だったのだけど、転生ということでどこかの貴族の子どもとして生まれたと書かれていた。
私と違う部分は神にあって転生特典で能力を貰ったとか書いている。あるぇ? 私は神にもあっていないし能力とか貰ってませんよ? 私の場合は転生じゃなくて転移? 転落? だからかもしれない。まあ今更だしそんな怪しい宗教の勧誘は必要ない。本当に必要無いから。