第13話 魔女、街の事を知る
どうしたものかなと口ごもっているとミランダさんが話を続けた。
「まあ、別にいいけどね大将が受け入れたって事は問題無いってことだからね。ちなみに私はこのトリ肉食べたことあるのよね」
「そうなのですか? ちなみにそれってなんの肉でした?」
「死使鳥よ。昔縁があって一度食べた事があるのよ。大将が元ゴールドランクだからといっても、昨日今日で手に入る物ではないからね。そうなるとって事よ」
ただ単に私が迂闊なだけだった。
「まあ、そうですね。内緒ということで。大将とアーシアさんには私の事情は理解していただいてます。事情については余り広めたくないってことでひとつお願いします」
「ふふ、良いわよ。ちょっとした好奇心みたいなものだから。でも困った事があったら相談にのるわよ。今日のお食事が報酬ということにしておくわ」
「その時はよろしくお願いします」
内緒話を終えて戻った所で、酔っている冒険者グループに絡まれた。
「エリーも村を抜け出してきた感じ? オレとミランシャも似たようなものなんだよ。エリーがどの辺りの開拓村だったのか知らないけどあっちの国は相変わらす酷いみたいだね」
ガーナさんの話を聞くに思った通りここより北の街道の先は別の国になっているようだ。ガーナさんとミランシャさんは同じ村出身で、二人の場合は人買いに売られそうになった所を逃げだしたということだった。
元々二人の両親は魔物や盗賊の襲撃時に亡くなっていて、村長の元でこき使われていた孤児だったらしい。「エリーは可愛いからね、人買いに目をつけられる前に抜け出せてよかったね」といわれた。一応話を合わせて頷いてみたが、でっち上げの設定だから浮かべる表情に困った。
いっぽうサマンサさんは、この街出身で実家が商家なのだとか。家の方はお兄さんが跡を継いでその助けになるために冒険者になったようだ。まだまだ実家の役には立っていないけど、いつかは推奨ランクの高い魔物を狩って素材を実家に下ろしたいといっている。
三人ともミランダさん経由で大将の所でお世話になるようになり、試しにとパーティーを組むようになったみたい。サマンサさんは当初実家から通っていたみたいだけど、正式にパーティーを組むのを契機に実家を出てここでお世話になり始めたとか。
三人は最近ブロンズにランクが上がり、そろそろ宿を移ろうかと思っているといっている。宿の部屋は全部で五部屋あって、私が入ったことで残り一部屋になるのを気にしているみたいだ。ちょうどその話が聞こえたのか大将が手にエールの入った樽を持って近寄ってくる。
「たかだかブロンズに上がったばかりのひよっこどもが遠慮してんじゃねえ。せめてアイアンになるまではここにいろ」
と怒鳴るように言って三人のジョッキに並々とエールを注いで戻っていった。なんていうか大将って見た目に反していい人だ。ニヤニヤして見ていると「お前はさっさとランクを上げてとっとと出ていきやがれ」と睨まれた。はいごめんなさい。
冒険者組三人と合流してきたミランダさんに色々ためになる話を聞けた。ウッドの依頼は朝の早い時間でないと確保できないという話や、初心者に手頃な装備を売ってくれるお店の情報、後は避けた方がいい冒険者パーティーなども教えてくれた。
他には状態のいい古着が手に入るお店や近寄らない方がいい場所なども教えてもらった。大まかにこの街は北区と南区それと東区と西区に分かれている。といっても明確に塀などがあって別れているというわけではなく、街の人がそう認識しているだけのようだ。
北区は冒険者ギルドや、その冒険者に対して商売をする商店や宿が集まっている。南区はちょっとした高級品などを扱う商店とお高めの宿屋が集まっている区画になる。そして東区には貴族街があって領主の屋敷もそちらにあるようだ。最後に西区はいわゆる貧民街やスラムがあり、あまり素行のよろしくない人達のたまり場になっているようだ。とはいえ治安の悪い範囲は他の区画に比べるとかなり狭いようだ。
そういうわけで西区には決して近寄らないようにと言われた。まあ好き好んでそういうところに行くつもりはない。あと東区には教会や図書館が有るようなので近いうちに行ってみようと思う。
三人組からパーティーに誘われたが暫くは街を散策したり、ウッドランクの依頼をこなすという事で断っておいた。いやね、一緒に行動したら色々とポカをしてなんか色々とバレる予感しかしない。どれくらいこの街に滞在するかはわからないけど、一度くらいは組んでみるのも良いかもしれない。
みんな大いに食べて酔が回って来た辺りでお開きになった。ニーナちゃんが頭をゆらゆらさせて眠そうなのでアーシアさんと一緒に先に抜け出していった。
冒険者三人組も先に上がってもらい、私と大将で片付けをしている。ミランダさんとサーラさんはギースさんに送って貰うようにお願いしておいた。ギースさんとサーラさんはずっと二人で飲み食いしていたけど、結構いい雰囲気だったのであえて誰も絡まなかった。
「すまねえな。お前の歓迎会だというのに片付けを手伝ってもらって」
「良いですよー、それよりもお前ではなくてエリーと呼んでもらえると嬉しいかな」
「わかったエリーだな」
残ったものは明日の朝に手を加えて出すみたいなので地下の保冷庫の方に大将が運んでいった。私は時短のため魔法を使い洗い物を洗浄して乾かす。
「おま、エリー。そういうのは人がいない時だけにしておけよ」
「大丈夫ですよ、ちゃんと見えないようにしてますから」
「はぁ、まあ好きにしろ手間が省けて助かった」
「いえいえ、いいですよ。それより大将すこーしだけお願いがあるんですけど」
「なんかそんなこと言っていたな。余り無茶なことでないなら聞いてやる」
食器やジョッキを洗浄しているときに思い出した。お風呂だよお風呂。庭の方にお風呂を作らせてもらおうと思っていたのだった。





