表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

第9話 君とのラゾーナ

俺には、好きな人がいる。


その人は、無口で内気で、小動物みたいだ。

小さい頃から、いつも一緒だった。


「よ。」

「お、おう。」

「呼び出しちゃって悪いな。」

「別に、いいよ。どうせすること無いし。」

彼は岡峰(おかみね)飛鳥(あすか)

そう、彼だ。


「わ、すごい人だね。」

「夏休みっつっても平日なのにな。大丈夫か?」

「ん。ちょっと休みながら行こ。」

今日はアスカに、買い物に付き合ってもらう。まぁ、一人でもいいんだが。

やっぱちょっと味気ない。

かといって『アスマコ会』のメンバーにも頼り辛い。

こういうのは、気の置けない『友達』と来るに限る。


「んー!甘うま!」

「アスカ、本当に抹茶アイス好きだよな。」

「へへ。そだね。あとなんか、名前で呼ばれるの久々。」

「あぁ。そうだっけ?」

『アスカ』と名の付く人物が、俺のクラスにもう一人いる。菅波(すがなみ)あす()。『アスマコ会』の中心人物であり、俺の恋敵。一方的に敵だと思ってるだけなんだけど。


「でさ。昨日も菅波さんがね。俺の言った冗談で笑ってくれたんだよ。」

「そっか。そりゃよかったな。」

「あ。うん……。」

普段は無口なアスカも、今日ばかりは色々なことを話してくれる。その中でも、やっぱり中心になるのはもう一人の『あすか』のことだ。はぁ。そんな楽しそうに話されたら、俺だって嬉しく……は、ならない。


「告白したんだろ?冗談言って笑ってくれたくらいで喜ぶなよ。」

「あれは……俺のタイミングが悪かったんだよ。何したらいいか分かんなくてさ。」

「だーから、うまくいくコツを数学のノートいっぱいに書いてやったろ。」

「マコトみたいにうまく振舞えないよ。俺は。」

俺みたいに、うまく振舞えないって。アスカは俺の何を見てるんだよ。

不意に、今日初めて目が合った。意識して目線を外していたわけではない。でも、アスカには見透かされる。俺の考えていること全てが。


「……。」

「あ、じゃあ、食い終わったら買い物いくぞ。」

「ん!」

「お?」

「体冷えた。」

「え?もう、いいのか?」

そう言って残りのアイスを俺に差し出す。こいつは、多分何も意識してないんだろうな。やれやれ。


―――

――


「今日の目的は3つ!1つ目は、服を買う。2つ目は、アスカと映画を見る。3つ目は……3つ目は、何だっけ?」

「忘れたんかい!」

「まぁいいや。思い出したら言うわ。」

「映画って、何見るの?」

「はまかぜ。」

「え。でもそれ、マコト一回見たやつだよね。」

「いいのいいの。アスカと見たいんだ。」

そう。一緒に見たいんだ。


映画の中の人物たちにはそれぞれ『想い人』がいる。

叶う恋や叶わない恋。それぞれの心情を繊細に描いている。

俺は2回目だが、想像以上に見入ってしまった。展開を追うことはさることながら、登場人物の『目線』に注目してみた。

告白で輝く目、不安で曇る目、涙で潤む目、安堵で暖かさが宿る目。

やはり「目は口ほどに物を言う」とは良く言ったもんだ。

ふと、隣に目を遣る。よかった。アスカも見てくれている。


「あ。」


その頬に、一筋の光が見えた。

映画のシーンが切り替わると、七色に輝く光。

それは綺麗で、切なかった。


「面白かったね。」

アスカが口火を切る。

映画が終わった後、何を言うかいつも迷う。全て野暮ったくなってしまう気がしてならないからだ。


「おう。何が良かった?」

「全部。だけど、強いて言えば、みんなの目。かな。」

やっぱり、アスカも見ていた。


「役者さんってすごい!演技してるはずなのに、感情が全部目に表れてた。」

「それって、珍しいことなのか?」

「やっぱり、中途半端な演技だと。分かっちゃったりする。」

すごいな。やっぱアスカの目は誤魔化せないんだ。

ひとしきり感想を言い合う。これも女子勢とはできなかったものだ。


「マコトはさ、登場人物だと誰が好きだった?」

「んん。井川(いがわ)さくらかな。」

「井川さんか。」

「うん。叶わない恋の方。儚くて切ないけど、綺麗な恋だった。『好きな人を想うと、涙が出る』ってセリフ。その通りだと思う。」

「そっか。」

「アスカは?」

「俺はさ、正直誰でもなくて。それでいて、全員かな。」

「ん?」

不思議な表現だ。理解するのに時間がかかる。


「それは、それぞれのキャラに思うところがあるってこと?」

「んー。誰かを好きになるとか、経験無かったからさ、今までは。でも最近ちょっと分かったんだ。」

それは、彼女(あすか)のことか。


「マコト。ありがと。」

え。俺?


「俺を、好きでいてくれて。」

そう言って、(アスカ)は俺の頭を撫でる。

今日やりたいこと3つ目。アスカに想いを伝える。まさか、先を越されてしまった。


「アスカ、変わったな。」

「そっかな。」

恋の炎が消えかかる。

でも、消えない(ラゾーナ)が俺たちにはある。


今日だけは、もう少し2人でいさせてくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ