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ユレニアの街


 目線の先には数時間前に離れた見覚えある外壁が見晴らしのいい草原からよく見える。

あの時には見えなかった巨大な門に彼女は内心驚愕しながらも歩いていると少女が彼女の隣へと移動してきた。


「うーん、ちょっと早すぎたみたい。まだ門は開いてないみたいだけどもうすぐ開くと思うから安心して」


「あぁ」


 斜めから見える門へと続く舗装された道には人の気配は無く、着く頃には一番乗りだろう。

 門の前には軽鎧と槍を装備している兵士のような見た目の人間が5人居るのが分かるが何やら騒がしい。


「?どうしたんだろう…衛兵用の扉で争ってるような」


 段々と近付いて行くと門の直ぐ側にある鉄製の扉で赤髪の少年が扉を出ようとするのを衛兵が止めているようだが、赤髪の少年は怒号を響かせ衛兵達と掴み合い無理矢理にでも通ろうとしている。



「離せ!!俺は行かなきゃならねぇんだッ」


「カイルッ!そんな傷で行ったら死ぬぞ!」


「うるせぇ!!ミアが森にいるんだ!!助けねぇとッ」


「正気になれッ!!馬鹿野郎ッ!」


「どけよッどいてくれッ!!」


 どうやら会話の内容は少年が人を探しに行こうとしているのを止めようとしているようだ。

 少年の姿は頭や腕、太腿にも包帯が巻かれており動けるような体には見えないが衛兵達を押し出し扉の外へと出て来ている。


(衛兵が止めるのも納得だな…)


「カイル?」


 戸惑ったような声で名前を呼ぶ少女は立ち止まり、彼らを見つめる。


「知り合いか?叫んでる名前は…」


「う、うん私の名前…」


 すると彼女は少女に預けていた鞄を奪い取り、少年の方に指を指すと優しく促すよう言葉を吐き出した。


「なら、早く行かないとな」


 少女は彼女の言葉に頷き歩き出すと、少女の目から涙が溢れ少年の名前を呼びながら徐々に走り出す。


「カイル…カイル、カイルッ!カイルぅ゙!!」


「!!ミ、ミア!?うぐぅッ」


 衛兵達は声に反応して少女を見ると、驚愕な顔でつい少年から手を離し離れると少女は少年の胸へと飛びついた。


「カイルッ…ぐすっ」


「ミアだ…ミアが生きてる……生きてる!!」


 少年は少女を抱きしめ安心しきった表情で地面に倒れている。その様子を衛兵達も安心した表情で眺め、次の行動に移せないようだが一人の男が彼女に気付く。


「も、もしかして、あんたがミアを?」


「あぁ」


「!!あの子を助けてくれて、本当に…ありがとう」


 坊主頭の体格のいい男が彼女に感謝の言葉を伝え、深く頭を下げる姿は安堵の気持ちが溢れており少女達の身近な人物だと彼女は考えた。


「偶々だ…俺のことは気にしないでくれ」


「そんな訳には…」


「今は、寄り添ってあげるのがいいと思うぞ」


「!?…この恩は必ず」


「あぁ」


 またもや深く礼をすると、男は少女達の所に向かい倒れている二人を優しく起き上がらせ纏めて抱きしめた。遠目から見ていたが相当な力で抱きしめているのか二人は苦悶の表情を浮かべ男の腕を何回も叩いている姿が、彼等の親密度が高い事が理解できる。


「……眠い」


 大きく欠伸をすると少しの眠気だったのが、今すぐ横になっても寝れるぐらいに膨らんでいく。

思い返すと路地裏での悪環境ではゆっくり休めた試しがなく、無理に動いていたつけが今きたように感じる。


「あの、すいません」 


「はい?どうされました?」


「一足先に、街の中に入れてもらうことはできないでしょうか?」


「街の中?……少し早いですが、大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


「冒険者証はお持ちですか?」


「いえ」


「となると、銀貨一枚の提示をお願いしたいのですが…今回は大丈夫です。ささやかな感謝の気持ちですので」


「……なら、お言葉に甘えてお願いします」


「ええ、ではこちらの扉から行きましょうか」


 衛兵の後を追い街に入ろうとしているなか、少女達は坊主の衛兵に未だ抱きつかれ彼女の行動に気付かない。

 彼女は扉を通る直前にミアと服屋に行く約束を思い出して少女を一瞥するが、少女の嬉しそうな表情を見て今話しかけるのは野暮だと考え視線を前に向け歩みを進める。


(この街にいれば、そのうち会えるだろう)


 扉を潜ると彼女にとって見慣れた街並みが広がっていた。石造りの地面、年季が入った住宅街、開店準備をしている露店や屋台、路地裏生活ではこの場所に来ることは無かったが他の場所よりかは活気があるように彼女は思う。


(…戻って来たんだな)


 浮浪児での生活をこの街で過ごしていたせいか嫌な記憶も多くあり、街を眺めている彼女の眉間には皺が寄っていた。


「あ、あの…どうかされましたか?」


 すると、彼女の眉間に目がいったのか衛兵が怖ず怖ずとした声で心配そうな言葉をかけた。


「いえ、なんでもないです」


「そ、そうですか…」


「ところで、安心して寝れる宿屋などありますか?」


「安心して寝れる宿……森人の宿ですかね。少し高いですけど造りが頑丈で店主も信頼できる人なので安心出来ると思います」


「では…そこにします」


「ここからだと…ここの街道を真っ直ぐ進むと左に鍛冶屋のガンテツという看板がありまして、その店を過ぎると左に行ける道があるのでそこを進んで行けば着きますよ」


「分かりました。…色々とすいません」


「いえいえ!これも私の務めですから」


「最後にひとつ…これを少女に」


 笑顔でこちらの問いに答える青年に彼女は鞄から少女の持ち物を手渡す。


「これは…ええ、渡しておきます!」


彼女は青年に会釈をすると案内された道を進み始めた。



 今の時間帯だと歩いている人は少なく、開店準備をしている人が忙しく動いている姿が目に付く。

 周囲を観察しながら歩いていると大きな建物の前で馬車に荷物を積んでいる集団がいた。


 看板にはヴェルナー商会と書かれており、建物の大きさで商売が繁盛していることを物語っている。

馬車が二台に、武装している人が複数人という光景にこれから別の街に行こうとしている準備だというのが分かる。

 

(護衛の仕事か……難しそうだな)


 数回程度しか実戦経験の無い状態でどれほど通用するのか、生活できる程の金は稼げるのか、内心不安と新しい生活への楽しみで分かれていたが瞬時に気持ちを切り替えた。


(まぁ………気楽にいこう)


 暫く歩いていると金属を叩く音や削る音が聞こえ始めたが、ガンテツという看板は見当たらない。


 もう少し先に進むと、先程の商会よりも大きい建物が目に入る。三階建ての建物で圧迫感があり、入るのを躊躇する程の大きさだが次々と武装していない男女が中へと入って行く。

入口の上を見るとそこには大きな看板があった。


(冒険者ギルド)


 突如、大きくなった金属音が彼女の意識を引き寄せた。目線を音の方向に移すと、冒険者ギルドの先にガンテツという看板と大量の武器や防具が店の前に並んでいる。


(あそこを左か……)


 彼女は冒険者ギルドを通り抜け、ガンテツという店を左に曲がると薄暗い道が続いていた。

両隣の建物の影響で道は薄暗いが、路地裏とは違い鼻につく匂いもせず綺麗な道を進んでいると森人の宿という木製の看板が見えた。


 周囲の建物より一回り大きいが、看板がなければ宿屋だとは分からないだろう。

 ドアノブに手をかけ捻り開けると小さな鈴の音が頭上で鳴り響き、前方からしわがれた女の声がした。


「いらっしゃい。お客さん」


 そこにはカウンター越しにこちらを見る白髪の小柄な老婆が座っていた。目元には小さい丸眼鏡を鼻に掛け本を手に持ちながら優しそうな目でこちらの様子を伺っている。


「こんな時間に来る人は、初めてだねぇ」


「…暫く泊まりたい」


「うちは一泊金貨一枚だよ。何日泊まるんだい」


「七日で頼む」


 彼女は硬貨の入った袋を取り出すと、金貨を三枚台の上に置いた。袋の中にはまだ、二週間は泊まれる硬貨があり彼女は少し安心する。


「階段から一番奥の部屋に行くんだよ」


 老婆は硬貨を受け取るとカウンター下から鍵を取り出して彼女に渡した。


「朝食と夕食にはご飯が出るから、その時は声をかけるからねぇ。ちゃんと起きてるんだよ」


「分かった」


「朝食は直ぐに用意出来るけど、食べちゃうかい?」


「…あぁ、お願いする」


「はいよ。奥のテーブルで待っててねぇ」


 老婆はそう言うと立ち上がり、カウンターの後ろへと歩いて行った。宿に入った時から微かなトウモロコシの匂いが漂い、老婆が入った部屋から匂っているのが分かる。


(この匂いはお腹が空く…)


 彼女は四つある内の一番奥のテーブルに向かい、斧槍を邪魔にならない地面に置くと椅子に座り鞄も横に置いた。

 上の窓から光が差し込み、宿の中は丁度いい暖かさで居心地が良い。机にうつ伏せにでもなれば直ぐにでも寝てしまいそうだ。


(寝ないようにしないと……)


 背筋を伸ばし膝に手を置いて待っていると、トウモロコシの匂いに香ばしい小麦の匂いが増えた。


(いい匂い)


 ジュウジュウと今度は肉を焼く音が響き、濃厚な味付けされた肉の匂いが広がる。

 肉が焼ける音が眠い彼女に刺さり、目蓋が閉じるとうつらうつらと頭が下に揺れ始めた。


「ぅ………ぅ……ぅ……………ぅ」


 意識が無くなりそうな直前に、隣で優しいしわがれた声がはっきりと聞こえた。意識がまだ朦朧としている内にテーブルに料理が置かれていく。


「出来たよ。ほれ、起きなさんな」


「……起きてる」


「ふぁふぁ。そうかい〜」


 大きい皿には濃い黄色と白色が混ざったコーンスープが器から溢れそうだ。

もう一つの皿には両手から溢れる程のサンドイッチが置かれている。肉は分厚く、野菜も数種類大量に挟まれ、パンの香ばしい匂いがさらなる食欲を引き立てている。


「……いただきます」


「?不思議な言葉だねぇ。何の意味だい?」


「感謝の気持ちだと、思う」


「へぇ〜良い言葉だねぇ」


笑顔を浮かべ笑い声を出しながら老婆は離れて行った。

 彼女はコーンスープを一口飲むと、口の中にまろやかな味が広がり胃の中が温かくなる。


「ふぅ…」


 次にサンドイッチを手に取り、口を大きく開き盛大に齧り付く。柔らかいパンの食感から野菜のいい音が響き、肉の汁が溢れ一噛みするごとに甘辛い味が口の中に染み渡る。

 呑み込んだ後も食べる勢いが上がりぺろりと大きなサンドイッチを平らげ、スープも飲み干してしまう。


「ぷはぁ……………………ごちそうさま」


 最後に水の入ったコップを一気飲みすると、老婆の下へと食器を持って行く。

 老婆は先ほどと同じように本を読んでいたが彼女に気付くと驚いた表情を浮かべ、満足そうな笑顔を向ける。


「お腹空いてたんだねぇ。美味しかったかい?」


「…美味しかった」


「そりゃよかった。ふぁふぁ」


 老婆は食器を受け取ると、相変わらず優しい声で彼女へと話しかける。


「もう上行って寝ちまいなぁ。おねむなんだろう?」


「あぁ」


「ゆっくりお休みなねぇ。ふぁふぁ」


「……お休みなさい」


「あいよ、お休み」


 彼女はほんわかな気持ちになりながらも斧槍と鞄を手に取り、階段を登り二階に着くと部屋は三部屋あり、奥の部屋の鍵を開け中に入る。

 部屋は広く、隅に丸いテーブルと椅子がひとつずつ置いてあり、ベッドの横には外が見え、ドアの横には茶色のクローゼットが置かれていた。

 ドアを閉めると扉の鍵をかけて荷物を隅に置くと、外套、革鎧、剣、ベルト付きの鞄の順番に地面に外しベッドへと倒れ込む。

 柔らかい感触を感じながらも彼女の意識は徐々に微睡みへと落ちていった。


「……………疲れた」



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