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道中

 広い部屋から出て洞窟の外へと歩いていると、焼け焦げた匂いが彼女達に漂い始めた。

 彼女は匂いの正体を理解しているため特に反応は無いが、少女は顔を歪ませ辺りを見渡す。


「………何の匂い?」


 辺りを見渡すと至る所にゴブリンの焼死体が火球に照らされ、吐き気が込み上げてくる感覚が少女を襲う。地面に転がっている姿を捉えると匂いの正体を理解したようだ。

 

「これだけの数を一人で…。もしかして名のある魔術師?」


「違う…………そう見えるのか?」


「うん。その火球を出す時も無詠唱だったから…」


「…魔法を扱えるようになったのは今日が始めてだ」


「き、今日始めて!?……………凄いね」


 会話が途切れ、またもや気まずい雰囲気が流れ始めた。少女は再度話しかけようと口を開くが言葉が出ず、口を開けたり閉じたりと忙しなく口元が動いている。

 少女が話題を考え模索しているなか、ふと彼女から言葉が発せられた。


「その…聞きたい事があるんだ」


「え?…な、なに?」


 少女は何を聞かれるのだろうと不安になりながら身構え、彼女は言葉を捻り出すようにゆっくりと話し始めるがその姿はどことなく羞恥心が垣間見える。


「俺は……臭うだろうか?」


「………………………………はい??」


「ッ!?」


 少女は思ってもいなかった問いに思考が止まり、反射的に疑問符が付く返事を返すと彼女はびくっと反応し歩みが止まる。

 

「………この森に体を洗える場所とか知らないか?もし在るなら寄らしてほしい。水浴びしている間も君の事は守る…それに、君も血の付いた体を洗いたい気持ちもあるだろう。悪い話ではないと思うが……どうだろう?」


 顔を下に向け早口になりながらも聞こえる、恥ずかしさが含まれた声に少女は呆けた顔をしていたが直ぐに正気を取り戻すとぎこちない話し方で対応する。


「あっえ、な、なるほどね。場所は分かるけど…そこまで臭わないと思うよッ!!私もほら、あんな所に居たから鼻が…ね。だからダイジョウブだよ…」


「………………………外に出たら案内してくれ」


「……うん」


 彼女は少女の言葉にさらなる羞恥心が沸き上がり、肌の色が分かるほどの明るさがあれば彼女の顔は一目で真っ赤だと分かっただろう。


 しかし、この会話のおかげか先程の空気とは違い重苦しい空気は鳴りを潜め息がしやすくなった空間は良しとするべきなのだが、自分のメンタルも削られたことを彼女は感じながら歩みを再開する。

 

「…………………………………歳はいくつなんだ?」


「急に年齢の話!?突拍子過ぎないかな……17だけど」


「!!…………15ぐらいだと思ってた」


「そんなに幼くない!!ってそういうあなたは?」


「…分からない。いくつに見える?」


「うーん……私から見ると20代前半ぐらいかな」


「なるほど…機会があったらそう答えるとしよう」


「適当過ぎるような…。もっとこうさ…」


「今日から23歳だ。祝ってくれると嬉しい」


「いや、確定するの早すぎない?」

 

「プレゼントは帰ってからでいいから気にしないでくれ」


「気が早いわ!!…まったく、あんま笑かさないでよ」


 少女は呆れながらも笑いを含んだ表情を浮かべ、つい笑い声が漏れてしまう。


(……少しは、気持ちが楽になったか…?)


 肩に寄りかかり目を瞑りながら微笑む姿は安心しきっているようにも見える。

 自身のこわばっていた全身が、自然と力が抜けていることなど気付いていないようだ。


 心地よい空気を感じながらお互い喋らず、黙々と道を進んでいると、月明かりとは違う薄暗い光が出口から射し込んでいるのが見えた。

 徐々に出口に近づいて行くと外の光が彼女達に届く距離になり、冷たい風も微かに流れてくる。

 少女はそよ風がきたのを感じ瞼を開けてみると洞窟を出る直前だった。

 視線の先にはまだ、薄暗い空が広がっており朝とは言えない明るさだが少女にとっては、とても明るく見えていただろう。


「……………生きてる」


「……そう、だな」


「…………………ありがとう」


「ああ」


「………行こっか」


「頼む」


 しんみりとした空気と少女の震えた声が彼女の心によく染みる。彼女から特に何かを言うことはなく、少女の指示に従い泉へと進んで行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 鳥の鳴き声と水が流れる音が辺りに響き、その他の音がなくなったと錯覚するほど、この場所はとても静かで底もはっきりと見えるほどに泉は澄んでいた。

 そのような静かな泉で、小さいくしゃみがひとつ響く。


「くしゅん……流石に寒いな、ここは」


「まぁね、早朝だから尚更だよ」


「……骨まで響く冷たさだ。平気なのか?」


「慣れだよ、慣れ」


「凄いな…俺は慣れそうにない」


「大丈夫だよ……いつの間にか慣れるから」


「そういうものなのか……」


「そういうもんだよ、くぅーさぶい」


 周辺の木々より、一際巨大な大木の側に泉はあった。

こじんまりとした泉だが二人が入る分には十分な広さを要しており、二人は手が届く距離を保つと少女は器用に全身を左手で洗い始め、彼女は少女から背を向け汚れを擦り落としていた。


「この大木があの洞窟から見えてよかったよ。もし見えなかったら探し回る所だったからね」


 髪を洗いながら明るい声で話す姿は元気そうだ。


「…本当に、警戒しなくて平気なのか?」


「?大丈夫。魔物はこの大木に近寄れないから」


「これがか…?」


「魔溜めの木って言うんだけど、普通の木とは違って漂う魔力を吸って成長するの。魔物はこの木の匂い?が嫌いで近寄って来ないんだって」


「…なるほど」


 大木へと視線を向け観察をするが、魔力を吸っているような様子はなく普通の木に見える。大きさ以外の特徴だと他の木より樹皮が黒いことぐらいだろうか。


(切り倒しても効果は続くのだろうか…?)


 大木を見つめ切り倒してもいいのか少女に聞こうとすると、少女から疑問に満ちた声がかかる。


「ところでさ、一向に私の方向かないのは何で?恥ずかしいの?」


「……特に理由はない」


「ふーん」


 彼女の間が空いた答えを不思議に思いながら、少女は彼女の体を眺めると徐々に近付いて行く。

 そんな少女の行動に彼女は気付き近付く度に離れるのを繰り返していると、彼女は埒が明かないと思ったのか立ち止まり諦めた声で少女に言う。


「…大人しくしなさい」


「ちぇっ……分かったよ」


「もう十分洗えただろう、上がるぞ」


「はーい、お母さん!!」


「……クソガキ」


「ガキじゃないもん!?」


 二人は泉から上がり、拭くものが無いため歩きながら体を揺らして水をある程度落とすと大木の根元にある衣服を纏い始めた。

 衣服が張り付き、ひんやりとした不快感を感じるが彼女は気にせず装備を身に着ける。


「はぁ〜新しい服買わないと…ボロボロだよ」


「…俺も買わないとか」


「後で一緒に行く?良い所知ってるよ」


「あぁ、お願いしたい」


「任せて」


 二人とも着替え終わり、彼女は武器を手に取ると冷たさで身を震わしている少女へと声を掛ける。


「歩けるようにはなったみたいだがどうする?背中乗るか?」


「ううん、大丈夫。痛みも和らいだから」


「そうか」


「戦闘の時は申し訳ないけど、隠れてるね」


「あぁ、それでいい。案内は頼む」


「了解!」


 少女が歩き出すと彼女は、少女の後ろを追う形で腕が届く距離を保ちながら移動し始めた。

 先程までの柔らかい雰囲気は消え去り、お互い真剣な様子で周囲を警戒する姿は剣呑な雰囲気でいっぱいだ。


(着いたら…宿屋探すか)

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