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第3話 姉さん先輩と『一緒に』

 その日以来、俺の日常は少しずつ変わり始めた。

 

 以前は、講義が終わったらすぐに家に帰っていたのに、寧々さんが気にかけてくれるおかげで、サークルにも顔を出すようになった。


 おかしいな。

 寧々さんに少し話を聞いて貰っただけなのにこんなに気持ちが軽くなるなんて思ってなかった。

 寧々さん、どんだけすごいんだよ。


 とは言っても過去の恋愛を全く引きずってないか、と言われれば嘘になる。

 彼女からの別れのメールのことは、まだ完全には忘れられない。

 朝起きるたびに思い出してしまうし、ふとした瞬間に胸がギュッと締め付けられる。

 おい、俺、いつまで引きずってんだよ、もっと前向きになれよ!

 そう言い聞かせるけど無理なものは無理だ。


 だけど、そんな時でも寧々さんがそばにいてくれる。

 

 サークルのミーティングが終わった後、いつものように俺を見つけては声をかけてくれる寧々さん。その笑顔を見ると、何もかもがどうでもよくなるんだよな。


「啓太くん、今日も一緒に帰ろうか?」


 また寧々さんはその天使のような微笑みで誘ってくる。こんなの断れるわけないだろ……。

 いや、むしろ断りたくないし、寧々さんと一緒にいると本当に癒されるんだ。

 だから、俺は自然に頷いて、寧々さんと一緒に帰ることがいつしか日課になった。


 今日も、夕暮れに染まるキャンパスを二人で歩く。

 少し肌寒いけど、寧々さんの隣にいると、なぜか温かい気持ちになる。

 歩きながら、俺たちは他愛もない話をしたり、少しだけ深い話をしたりする。

 この時間が、俺にとって何よりも大切なものになってきているんだって、最近気づいた。


「啓太くん、少しずつ元気になってきたみたいだね。」


 ふと、寧々さんが言った。驚いて顔を向けると、彼女はにっこりと微笑んでいた。

 そんな風に言われると、また心がじんわり温かくなる。


「寧々さんのおかげです。……正直、最初は本当に辛かったけど、寧々さんがいてくれたから、少しずつ前向きになれた気がします。」


 俺がそう言うと、寧々さんは少し照れたように目をそらした。

 意外な反応に、俺は思わず内心笑ってしまう。


「そ、そんなに私が大きな役割を果たしてるとは思わないけど……でも、啓太くんが元気になってくれるのは、私もすごく嬉しいよ。」


 ああもう、こんなに優しくて気遣いのできる先輩がいつもそばにいてくれるなんて、俺ってどんだけ恵まれてるんだろう。

 この幸運を無駄にしないためにも、ちゃんと前を向かないとな。


「寧々さん、本当にありがとう。俺、もっと頑張ります。だから、これからも……よろしくお願いします。」


「もちろん、私も一緒に頑張るからね。」


 『一緒に』その言葉に俺はドキッとした。

 俺の日常に今では寧々さんは不可欠な存在であることは当然だが、その逆もまたそうなのだろうか、そんなことをふと疑問に思った。

 

 寧々さんの言葉に、心の中にあった重りがまた一つ取れたような気がした。

 俺は、彼女と一緒に歩んでいくんだ。この新しい日常が、どんどん広がっていくのを感じる。


 それからしばらく歩いて、いつもの別れ道に差しかかる。

 寧々さんは、家がこの先の方向だ。いつもここで別れて、それぞれ帰るんだけど、今日はなんだか名残惜しい。


「じゃあ、また明日ね。」


 寧々さんが手を振って、歩き出す。

 でも、その背中を見送ると、急に寂しくなって……こんな気持ちになるとは思ってなかった。


「寧々さん!」


 思わず俺は彼女を呼び止めてしまっていた。

 寧々さんが驚いた顔で振り返る。

 何を言おうかなんて考えてなかったけど、ここで何もしないのは違う気がして……。


「また……一緒に、カフェとか行けたら、嬉しいです。」


 俺は勇気を出した。前のカフェが俺にとってとても嬉しくて、そして大切にしたい時間だった。

 だから俺は寧々さんを気づけばカフェに誘っていた。

 

 寧々さんはそんな俺を見て、優しく微笑んでくれた。


「もちろんだよ。いつでも誘ってね、啓太くん」


 その言葉を聞いて、また心が温かくなった。

 寧々さんの背中が見えなくなるまで見送ってから、俺は自分の家へと歩き出した。


 明日もきっと、寧々さんと一緒に過ごせる。


 それが今の俺にとって、何よりも楽しみなことなんだ。

 この新しい日常が、もっと楽しく、もっと温かくなることを期待しながら、俺は前を向いて歩いていった。

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